「馬鹿かお前ェは、コエーに決まってんだろ。」


12歳を迎え師匠——マハヴィルに弟子入りし、ガリバルディアとしての様々なことを学ぶ以外にも、師匠とは様々な話をした。
読んだ本の話。明日の献立の話。師匠の若い頃の話。今の里の話。
師匠は皮肉の強い言い回しが多かったけれども、その頃にはもう、それを気にすることもなくなっていた。
そんなある日に、私は師匠に問うたことがあった。

「師匠、魔物や魔獣——倒すべき相手と戦うことを、怖いと思うことはないのですか？」

体躯には恵まれていたが、どちらかと言えば自分は気が弱い方だった。
実戦ですらない鍛錬の、それも見知った師匠が相手だとしても、武器を手に持ち戦うということに対して、強い恐怖心が拭えなかった。
それが理由かはわからないが、ガリバルディア・ランプを鎧として纏うことが、ずっとできないまま日々を過ごしていた。
そのことを打ち明け問いかけた言葉に対して返ってきたのが、先ほどの言葉だった。

「師匠も怖いのですか……？怖いのに、戦えるのですか……？」
「質問が多いんだよお前ェは！もうちょっとまとめてから聞け！」

大げさにため息をつくと、少し考える素振りを見せてからゆっくりと話し始めた。
この際の考える素振りというのは、あごひげを触りながら話すというクセのことなのだが、師匠自身がそのクセに気付いていたかどうかは、私も知らないことである。

「ったく、考えりゃすぐわかることだろうが。
生き物は危険を感じたら生き残ろうとする、本能ってやつだ。
それを感じないってのはココがおかしいやつくらいってモンだ。」

師匠はそう言うと、コンコンと、自分の頭を軽く指でつついた。

「ですが……英雄譚や冒険譚の勇者は、困難にも勇敢に立ち向かうではありませんか。」
「勇敢と無謀は紙一重とは昔からよく言ったモンでな。
それを履き違えるのはただの阿呆だ、無駄死にするのがオチだ。
いいかヴィクラム、確かに勇者の仕事は勇気を以って戦うことだろうが俺たちは違う。
ガリバルディアの仕事は迷い森の案内と、里を守ることだ。
だから立ち向かっていく必要はない、だが、守る必要はある。
……ヴィクラム、どうしてお前が鎧を纏えないかわかるか？」
「……いえ、わかりません。」
「お前の胸に灯がともってないからだ、ガリバルディアの灯が、な。」

師匠は握り拳をつくると、私の胸にコツンと当てた。

「勇気で戦うことは難しいけどな、それ以外にも戦うすべはある。
それは『守る覚悟』だ、自分の背中の後ろに守らなければならないものがあり、それを守りきるという覚悟だ。
その守る覚悟を胸に灯す——それがガリバルディアの灯をともすということだ。
お前もいずれガリバルディアとして里を守ることになる……その覚悟を胸に灯せば、鎧を纏うこともできるさ。」
「師匠……ッ！」
「まーそれで無理なら歴代初の鎧を纏えないガリバルディアが誕生するだけだ、後は知らねー！」
「師匠ーッ！？」


砂地を征く私達の眼前に立ちはだかる7つの影。
見知らぬ姿形、数の上での不利、恐怖心で足がすくみそうになる。
それでも、一歩踏み出して。
自分の背中の後ろに守らなくてはならないものを。
後ろにいる者達の、その胸に希望の灯がともるよう。
叫ぶ。

　　　　　　ローラスの方に一瞬視線を向ける。