[SummerVacation]

ビブリオバベルは、その日生まれて初めて、
水着なる装束を身に纏った。





一揆だ戦争だと巷が騒がしい最中に、
海だ水着だと一体何を浮かれているのか。
———事の顛末は案外、いつでも単純で簡単なものだ。



一揆同志である（と、ビブリオバベルは一方的に硬く信じている）ヘクターが、
なにやら、故郷フリント領の特産ワインを振る舞う場を設けるらしい。
それも、メルンテーゼ民と異世界民との交流を図るためだという！


ビブリオバベルはそれを聞いて大いに感動した。
あの、自分のことをよそ者よそ者とやたら睨んでくる歳下のヘクターも、
ようやく心を開いてくれたのだと思った。
ただ、直接自分に言うには照れくさいから、
わざわざこんな大々的な催しごとまで設けて……実にかわいいではないか。

ビブリオバベルはドキドキしていた。
これはもしや小説の中で読んだことのある「脈あり状態」というやつなのでは？
であれば、ビブリオバベルも学者である前に一人の大人の女である、
例え回りくどい精一杯のアピールでもそれには誠意で返さなければなるまい。

正義感と使命感を握りしめて、
人手が足りないので手伝う人員を募集しているという
ヘクターとオズワルドのもとを訪れ、
ドヤ顔で手伝いを申し入れたビブリオバベルの顔を見て、
肝心のヘクターの「この催しを開いた時ぶつかるであろう
第一障害が満を持してお出ましだ」と言わんばかりの表情を見て、
ビブリオバベルは自分がちょっとした勘違いをしたことを悟り、
一人拠点のテントに戻ってから赤面した。
別に自分が好きでもなんでもない歳下相手に何をしているのやら。

ともあれ申し入れた以上は手伝いをしなければならない。
労働に従事するというのは一度してみたかったことではあったので、
それをすること自体はビブリオバベルも吝かではなかった。
オズワルドが言うにはこういう場で手伝いをするには水着の着用がマナーとのことだったので、
フェルハトに事情を話して、水着を貸してもらうことに成功した。
支払いは待って欲しい旨も真摯に伝えた。
こういう時、持つべきものは仲間であると強く感じる。
手伝うのに水着が必要だという説明を聞いたフェルハトはなんだか変な顔をしていたが、
オズワルドがそう言ってたのだと伝えると「ああ……」と言って納得した。
彼等の間にはなにか暗黙の了解的に通じるところがあるのかもしれない。

フェルハトの貸し衣装屋で水着を着てみる。…………下着と布質が違うという点以外の違いが分からなかった。
映像作品や写真では見たことがあるが、
やはりいざ自分が身につけ人前に晒すとなると、恥ずかしかった。これは本当に正常な状態なのか？騙されているのではないか？ビブリオバベルは少しずつ不安になってきた。
試着して外に出たら目の前に居たフェルハトを反射的にひっぱたきそうになった。危ないところだった。
でも水着姿がかわいいと言ってくれたので許すこととした。
フェルハトの場合誰に向けても言ってるであろうことは分かっていたが言われること自体気分が悪いことではない。
商売人とは実に恐ろしい連中だ。



ともあれ、意気込んでアフタヌーンパレードの会場へと趣き
水着姿でワインを運んでいると、自分を見つけたヘクターがぎょっとした顔をした。
でもすぐに普通の表情に戻った。露出は多いが公序良俗に反するほどの扇情さもないし子供が公園の水場で遊んでるような雰囲気で特に風紀には支障ないなという心情がありありと張り付いた能面のような顔つきだった。
釈然としない思いをしながら、
なぜヘクターは水着を着ていないのか尋ねると、
理解できないという表情をされたのでオズワルドのことを話すと、
ヘクターはため息をついて「あいつか……」と言った。ビブリオバベルはなんとなく、察した。








オズワルドはどこだ。

※サマバケメッセ

→Cno.333

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※いつものメッセ

一転して落ち込んだビブリオの表情を見、次第にいらだつように拳を握る。

はっとして言葉を止め、視線を逸らす。

魔女は本をしばらく返しそうにない！

自分にだけ聞こえるローラスの言葉を聞き終えると、一つため息をついて、
それから教授にだけ見えるよう、小さく笑ってみせた。

と、思いきや、

豪快に笑い出した。

そう言うとビブリオバベルに向き直る。

教授にそれを妨害する術がなければ、ビブリオバベルの耳にそれは届いたろう。
　自分が優秀な友人の子供で、
　自分が何を成し得るか、興味がある。
　だから無理に強制移動せず、ここにローラスは残っている。

快く応じてくれる相手にホッとした様な笑みを見せたのも束の間、
「じゃれついてくる」人と耳にした途端バツの悪い様な、申し訳無さそうな表情になる。

（ごそごそと懐から小さな軟膏が入っているらしい小瓶を取り出した。）

『アカデミエという世界』。そう聞くと一瞬きょとんとしたような表情を見せたが

どうやら、他世界についてよく理解を持っていないようだが、彼女なりの解釈を得ているらしい。
ついでに、噛んだようだ。

　　　　　　　少々オーバーリアクション気味に、きょとんとした態度をとって見せた。

目を合わせず髪を触る様子に、苦笑しながら。

手を離し、向き直る。

　　あなたが余程の大間抜けでも無ければ、少女の印象が
　　大きく変わっている事に気づくだろう
　　冷たい感じは無くならないが、鋭い刺のような雰囲気は
　　幾分か和らいでいるかもしれない

　　少女は特にその変わり用には触れず、あなたとの話を続ける

　　静かに目を伏せ、何も喋らない
　　何かを考えているようだ、あなたの観察力が優れていれば
　　悲しんでいる…そういう風には見えないかもしれない

　　あなたの矛盾した言いようを、やんわりと咎めるような話しぶりで
　　ともすれば皮肉ともとれる返事だが、それに気づくかはあなた次第だ

　　斧をゆっくりと下ろす

そう言うと、イシュメールは「ビブリオバベル」と名乗る少女を先導した。
…そして、頃合いを見て問い返す。

周囲には、すでに彼ら二人以外には人気がない。
そして、彼らの進む先には背の高い草むらがあった。その向こうに「釣り堀」はあるのだ。
先日まで盛況であった「釣り堀」には、何故か誰もいない。まるでどこかへ出払ったかのように。

イシュメールの目は本気であった。
返答次第では、本当に少女を池に放り込みかねないだろう…