『夏』　

雪山の妖怪として生まれた彼女にはこの季節は辛いものであろう。

彼女の周りに浮かぶ燃える氷は見た目は暑苦しく見えるものの、実際には周りの気温を1，2度下げるくらいの冷たさを持つ。

そしてネクターが不足し自らの力を未だ発揮できずにいる身にとっては通常よりも体に堪えるものがある。

納涼をしたいところだが彼女の弱点である『水』には近づけない為、海などには行けないのである。

故にこうして木陰で風を感じるくらいのことしか今はできない。

戦いの中の暫しの休息といったところか。

幸い、敵も一揆の参加者に対応しきれていないといったところか、こちらに『攻め入る』ということはなさそうだ。

今はゆっくりと眠らせてあげよう。


＜次回、雪の降る夢に続く＞

「はひ……」

噛んだ。しれっと噛んだ。数秒後にこほんと咳払いして、しゅんと一層に縮こまりつつ、冷たく暖かそうな御人の御手からしゅるりと引っぺがす。

「少し、似ていますけど違います。精霊なんて綺麗な種族ではないので。妖怪……妖魔の類であることはあってますけど。
　寄生植物の系統に属する種族。人を媒介に動き出す植物の苗床……それが私です。簡単に言うと吸血鬼の植物版です。
　……例えば今ここで私がユキヒメさんに私が"作った"寄生植物の種を植える事が出来れば、あなたは私の主として死ぬまで精気と生命力を搾取することができます」

ユキヒメの口元から心臓に掛けて蔓がするると差しては落ちる。
言い切った所で蔓はくるるとねじれ、くったりと疲れたように先端を折った。
　
「その前に体内で凍るか熱されるかで種が消滅するでしょうけどね」

なんでも吹雪で視界が悪くなった時に誰かの声が聞こえたとか急に体が暖かくなった
などの逸話がその山にはあるようで。それらを山の神が助けてくれたものと信じられているようです。
もしかしたら…？

恭しく劇団の挨拶よろしく深々と礼をした。