私、アルヴィナは故郷について正直あまり覚えていない。
生まれ育った街をアルヴィンに襲われ、
逃げ惑い、気がついたら…私がアルヴィンになっていた。

そのことに気付いた私はまず街がどうなったのかを知ろうとした。
そこで見たのは、私以外誰もいない街で。ただ逃げるように去った。

残っていたのはこの忌まわしい体と、その人喰いとしての能力。
そしてこの体を生み出したものへの復讐心だけだった。

故郷には菫が咲いていた事だけはなぜか覚えていた。
私は菫を手に取り、誓った。誓いの内容は忘却に喰われた。

私はこの体に宿っている記憶を頼りに旅をすることにした。
目的は、この体の故郷に辿り着き、根源を滅ぼすこと。

私の記憶がなくても、体の記憶は残っている。無性に悲しかった。
記憶の爪に、まだ彼が生きている証拠を刻み込まれているようで。
今も変わらず、恐怖に震え続けている。

里に辿り着くまではすぐとは行かなかったが、想像していたよりも
あっさりと見つかった。あまり隠すつもりがなかったのだろう。

しかし、足を踏み入れた時には既に里には誰もいなかった。
記憶を頼りに奥へと進む。最深部の祭壇には大量の血の跡。

体は歩み続ける。追うために。彼らを追う術は心にあり、
祭壇にある装置の起動方法は体にあった。

どこに繋がっているかは分からなかった。
ただ、そこには私たちの世界に住む人間という種族が、
異なる形で存在していることは祭壇に刻まれている文字から理解した。
その形はエンブリオ。紅い花を喰らうモノ。

モクラはただ、相手を見つめている……

モクラは一礼をして立ち去った……

モクはある方向を指さしている……

モクは静かに武器を構えた……