徹頭徹尾、僕の人生は恐怖に満ちている。
幼いころは母の叱責が恐ろしく、成長するにつれ祖父の妄執的な教育に恐怖を感じ、今はありとあらゆるものが恐ろしくなってしまった。

作家なんて職業についているものの、その実僕がこんなことをやっているのはできうる限り素の自分を見られたくないからだ。
作家ならば、己の姿を必要以上に晒すことだってないし、名前を出すのも最小限で済む。
こんなに理想的な引きこもりの形はないだろう。

問題があるとすれば、僕に作家としての才能があるかどうかという根本的な問題だったが、幸い僕には祖父という偉大な狂人がいた為、話のネタには困らなかった。
魔術師なんて胡散臭いものを僕は欠片も信じちゃいないが、彼の書いたものが僕の生きる糧となってくれているのだから、その点は祖父に感謝しているし、彼の墓に献花ぐらいはしてやってもいい。
そう、だから僕は魔術書なんてものが力を持つなんて、てんで信じちゃいなかったのだ。


……………………ふと気を抜くと、ため息と嘆きの言葉が漏れ出てくる。
今、この地に僕はありのままの僕として立っている。立たざるを得なくなっている。

アンリエットというエンブリオ（正直、僕はこの可憐な少女人形に対してなんら知識を持っていないのだが、とりあえずいえることはおそろしいということだ）や、クロウという異邦人（彼もまた別の世界からこの地へ来たというが、僕と同じ世界の人間とは思えない。やはり暗黒大陸とかそういうところの出身ではないだろうか、怖い）、それにリシュレナというこの地に住まう者と出会ったけれども、やはり素の自分で向き合うことは恐ろしい。

何より、日の光みたいな明るさが僕の目を焼くようで、直視できないのだ。

……果たして、これから先僕はまともに旅をすることができるのだろうか。

帰りたいなあ、そして豪華とはいえないけどそれなりにあったかいベッドで眠りにつきたいよ。