ネクター。
エンブリオへ契約の証に捧げる紅い花だ。そして今回の一揆の発端ともなった花。


俺は村を出るまで、この花が「ネクター」という名前だとは知らなかった。
村では、この花のことを「血の証」と呼んでいた。精霊と契約を交わす際に、この花に自分の血を一滴落とし、それを契約相手へと差し出す。自分の血を花に落とすのは、戦場で精霊に力を借りる代わりに、精霊の身が危うい時には自分の命をもって精霊を守る、という意味があるらしい。

実際のところ、エンブリオとの契約には自分の血を捧げる必要はないし、自分の命を呈するような場面に遭遇することもないだろう。
今あらためて振り返ってみると、俺の村での、契約をする際の一通りの儀式も「精霊と契約をするため」というよりは「戦士として生きることの決意表明」という意味が大きかったように思う。


なにはともあれ、そのネクターがないと、俺達の傭兵家業もままならないので、今回のネクター独占には困ったものだ。
……だからといって、積極的に一揆に参加するかは別の話だが。
誰かがさっさと王を玉座から引き摺り下ろしてくれたらいいんだが、そうなると今回の俺の収入も減るしなぁ。
とりあえず、ほどほどにぶらぶらしよう。





さっき知ったんだが、どうやら一揆参加者の間で「SummerVacation」なるものをやるらしい。
せっかくなので俺ものんびりと海釣りへと行こう。