メルンテーゼで魔女の目撃情報があった。

それは私達に一つの選択を余儀なくされた。

彼女の傍にあるであろう奪われた魔道具を追うため。
私と兄さんに起こった異変の原因を追究するため。

私達は彼の地に行く事となった。

そこまでの移動方法はアーネが用意してくれたため、意外と簡単にメルンテーゼに到着する事が出来た。

私達がまず見たのは人の多さ。
どうやら劣悪な政治体制に人々が反旗を翻し、戦を始めるまさにその時だった。

みんなで話し合った結果、その戦に参加し情報を集めようと言う事に。
これだけの数の人がいれば何処かで彼女を見た人がいるかもしれないし、こんな大きな出来事を見逃す性格ではない。
何らかしらの形で関わっているに違いないだろう。
彼女が自由の身であれ、そうでないとしても。

更に二手に分かれて探索する事になった。
同じ場所をぞろぞろと移動するより、探索や聞き込みが出来る範囲を広げる、といったのが理由。

私はアーネと兄さんと。もう一組はオハンをリーダーとし、アセナとセナ。
定期連絡のしやすさもありこういう形になった。
分かれる時、アセナが凄く嫌がってたけれど大丈夫かな。
オハンが嫌いとかセナが馬が合わないとかじゃなく、純粋に私と別行動になるのが嫌だったんだと思うけど、なんていうか嬉しいやら困ったやら。今頃オハンが頭を抱えているかもしれない。

「このみ、話があるの」

オハンたちと別れた後、アーネが声を掛けてきた。

「どうしたの？」

「アナタ、ここで普段の魔術は使えそう？」

そう問われ、私は簡単な術式を展開しようとして————、

「あー……うん」

途中で式を組み立てるのを諦める。
何となく解ってたことだけど。

「うまく適合しないみたいです」

「やはりですか」

こういったことは実は慣れっこだったりする。伊達に幾つもの分割世界に渡ったりしていない。
……慣れっこにはなりたくなかったけど。

アーネが言うにはここではエンブリオという生命体に少しの生命力を提供し、その力の一部を借りる事が出来るみたい。
生命力を提供、といっても死に至るほどのものではなく、この世界の住人はそんな彼らと共に共存しているようだ。
契約にはネクターという紅い花が必要なのだが、それを現在の王様が独り占めしている。それがこの大きな一揆の大元であるみたい。

「私が都合をつけましたのでその辺は気にしないで。サポートは私に任せてくれればいいわ」

「それは助かるけど……」

胸を張るアーネに当然の疑問を投げかける。

「私よりアーネが直接戦ったほうが、力を扱えるんじゃないの？」

サポートする、という事はこの世界の力を扱えるという事だ。エンブリオから力を借りているのか他の原理か判らないけど間接的に私に力を貸すより早いんじゃないだろうか。

アーネはしばらく何かを考えた後、空を見上げる。

「それは……色々あるの」

あ、これは恐らく誤魔化そうとしてる。
突っ込まないほうが……良いよね。

「というわけでフォローは任せて」

少し額に汗をかきながら凛々しい顔をする彼女に私は何も言えない。言えるはずもない。

「じゃあ俺もフォローに回ろう」

何時の間にか傍に立っていた兄さんが笑顔で申し出る。

「それって私だけ矢面に立てって事ですか？」

妹に戦闘をやらせて後ろで応援だけする兄。なんでしょう、想像したら何だか腹が立ってきますね。
私のジト目に兄さんは慌てたように反論し始める。

「そうじゃなく……いや、そうなるんだが。今の話を聞いてると力の行使の補助はアーネがするんだろう？それが二人になると供給する力が半分になるんじゃないか？」

「そうね。私が出来る補助も限度があるわ」

「悲しいかな俺は戦闘に関してはこのみより数段下だ。そんなハンパな俺にも力を供給し、このみの力が落ちるよりそれを全部一人に集約したほうが良いだろう」

兄さんのいうことももっともだ。
これは演習でも遊びでもない。実際の戦争だ。怪我をする可能性はあるし、下手をすれば命を失うことだって起こり得る。
中途半端なことをするより一点に力を集めるほうが撃退するにも防戦するにも勝算が上がる。

もっとも、なんだけど……。

「やっぱり何か腹が立ちますね」

「いや、こればっかりは…………情けない兄ですまん」

苦笑いをする兄さん。こんな様子だが、心中はきっと別だろう。別に私を戦わせたいというわけじゃない。出来れば自分が前に立って、と考える人だ。
ただ、人には向き不向きがある。
サポート向きの人物より、しっかりと戦況を見極め、戦える者が力を振るうほうが無用な被害がでない。
その事をしっかり理解しているからこそ、この決断をするしかない。
だからこそ、私はそれに対して、

いつもどおりの選択をするだけだ。

「仕方ないです。その代わり、私が気づかないところのフォローお願いしますね」

「ああ、任せろ」

一人で足りないのであれば二人で、三人で力を合わせる。

それが私と兄さん、アセナやオハンたちとやってきた方法だ。
私だって一人で全部がこなせるわけではないんだから。

「ふむ」

アーネが口元に手を当て何かを得心した顔をする。

「聞いていたけれど、仲が良いのね」

「なっ！？」

彼女の言葉に心臓が跳ね上がる。
予想外の言葉に体温も上がる。

「だ、誰にそんなこと！？」

「いえ、報告にあっただけよ」

報告って……彼女の組織はそんなことまで調べ上げてるの？
これは事と場合によっては対峙することも考えないといけないかもしれない。

「まぁ、そうだな。小さい頃から一緒だし、真面目でしっかりしてるし俺も何度も助けられてるし」

「に、にいさん！？」

予想もしてない言葉に更に体が熱くなる。

「気負いしすぎたりする昔からの悪い癖もあるが、アーネも気づいたらフォローしてやってくれな」

「了解よ」

「ふ、二人とも！」

勝手に話を進められて、でもうまく言葉が出てこないから、もうそっぽを向くしかない。
恐らく赤くなっている顔を見られたくない、という理由もあるけど。
もう、恥ずかしい……。

「そうだ。もう一つ言っておかないといけないわ」

「な、なんですか……」

「アナタ達、雛神家の者と言うのはあまり言わないように」

「どうしてです？」

「敵対する組織もアナタ達の事は知っているはず。うまく力も行使できないこの状況で狙われるのは歓迎すべきじゃないでしょう？」

確かに。もし、アーネの敵対組織が魔女に何らかの理由で手が出せず、足踏み状態であるなら、それを崩す駒として、私達の身柄を拘束するという方法がある。

それは決して穏便な展開にはならないだろう。

「でも変装すると言っても……」

子供の姿になっているという時点で判りづらくなっているとは思うけれど、それでも面影はあるしばれる時はばれる。

「私に良い案があるわ」

そういうとアーネは私の髪を掴む。

「な、何を……」

「いいからじっとしてなさい」

黙ってそれに従うしかないと思い、じっとそれが終わるのを待つ。
髪を束ねられ、どこから出したのか赤いリボンで髪を止め、

「これでよし。はい、見る？」

アーネが満足げに鏡を渡してくれたので、それを覗き込む。

「…………」

そこにはツインテール姿の、更に幼さがアップした自分が写っていて、いや流石にこれは……変装になっているのかどうか、と頭の中で自問自答し、

「…………ぶっは！」

私のその様子を見た兄さんが盛大に噴出したのだった。

>封真＆衛智