【-メルンテーゼ・浜辺-SummerVacation/昼】



海へ来ている。

元は、龍貴が「海釣りに行く」というので拙者も同行しよう、というただそれだけの話だったのだが。
“海”と聞いた途端、何の琴線に触れたのか、常に騒がしい妖精がひと際騒がしくなった。


＊

くるくる、わあわあと支度をする自分の周りを回る妖精。
この喧しさにも、最近だいぶ慣れてきてしまった自分を感じる。

熱く、力強く語られたが、何を言ってるのかはまるで分からない。
適当に『そうだねプロテインだね』的な相槌を打ちながら、必要そうな手荷物をまとめる。

だから“まんきに”とは何だ。——という疑問は、嫌な予感しかしないので胸にしまい。
どうやら頭が桃源郷にいってしまったらしい妖精を残し、その場をそっと後にした。


＊


よく晴れた海辺はそこそこ人が集まっており、いくつかの出店も出ていた。
懸念していた昼食も、それらの店で手軽に済ませる。
焼きそばを売る店もあるのは、確認した。

欲した本人に、「欲しければお主もくればよかろう」と声をかけたが、
怠惰な体勢でごろりと寝転がったまま「あぢい」とうなるだけであった。
一応滞在予定時間とおおよその場所を告げたが、来るかどうかは…
いや、あのまま寝ている可能性が極めて高い気もする。



…そろそろ、水分補給が必要であろうかな。
竿を投げる龍貴の後姿を視界におさめながら、買った氷を借り物のパラソルの下でかきだす。
どこから見つけてきたのか、もしくは例の良く分からない力で出したのか——
“ぺんぎんちゃんですの！”と言いながら妖精が持って来たかき氷機が、
がりがりと小気味良い音を立てる。


——久々に晒した額をさらりと海風が撫で、ふと手を止めた。
細めた目で、眩い陽の下の風景を見遣る。


根気よく釣りに興じる龍貴。
浜辺で遊び、波間に泳ぐ人々。
焼けた白と青と、行き交う様々な色彩。

…それらの全てが何故か、どこか午睡に見る夢の様に思えた。
王への叛乱が起きている世界だとは思えない、あまりに長閑で日常的な風景だからだろうか。
それとも、

それとも自分が、本来“ここに居るべきではないもの”だからだろうか。

……。

ぱさ、と器から零れた氷の小さな音で我に返る。

竿をしまい、ぱたぱたと砂を蹴って駆け寄る龍貴を待ちながら。
自分も同じ選択だったので、他のものは要らなかったか——と、少し笑った。





*****





【.:。+゜ おまけ。知ってしまったみなみちゃん.:。+゜ 】



それは、片付け中の浜辺に落ちていた——一冊の、雑誌であった。



『週刊メルンナックル　うきうきサマー特大号！
今が旬！イケてる水着大特集☆今年のメルナクガイズはこれでキメろ！！』

（ものすごくどうでもよさそうに　ぺらり）

（あまりのアレさに、砂浜へ無言で雑誌を叩きつける忍者）
（そしてまた拾い、ゴミ箱へINする忍者）



【-完-】

どうしてこう、見抜かれてしまうのだろう…。
思っている事や考えてる事、悩んでいる事に対して、巳南さんはいつも適切に答えてくれる…。

龍貴にとって、それはとても素朴な質問であった。

謝罪し、相手から許しを得れば関係は壊れない。
償っても償えない罪や、背負うばかりで許されざる罪は、巳南さんはどう感じるのだろうか…。

…巳南さんの手は大きい。乱雑でなく、優しさを感じる。
何故か、巳南さんに励まされると事が為せる気力がふつふつと内から沸いてくる気がする。

慣れ…。経験…？
確かに…、技術は一つ覚えてから次の技術を学ぶ。武術も基礎が大事という事なのかな。

竹光の柄に手を触れ、息を大きく吸う。

敵との距離を保ち、間を取る　”間合い”
これを応用して、なにか身を守ることが出来るような気がする。
それに、囲まれた時は巳南さんからのアドバイスが無ければ、どうすることもできなかった。
次はどういう動きを取るのか。そういうことが実戦に重要だと深く感じた。

　
黙して間を置き、
　

　
これでも気を使ってるほうだ、と付け加える。