定石通り考えれば、正規兵の出てくる進路こそ、正しく正規の道筋なのだろう。
防御が必要な場所、攻められ易い場所に人員を割く。
そのような意味では、平野部・水路に兵士が居るのも道理ではある。
山岳路や森林地帯、あるいは砂漠部のような進行し難い地域は護りが薄いと見ても良い。
（と言うか、これだけ環境が揃って居る箇所などそう在るものでは無いのだけど）

がしかし、此処のような原生生物や契約精霊が進行の妨げとなる場所は話が別だ。
進むには難しい上に、障害物がこの上なく厄介と来ている。
つまり普通は、進む道理が見当たらないのだが——。

エンブリオと言う武器の材料が転がっていると思えば、存外割に合う事もあるのかも知れない。
ま、武器は武器でも自律稼働して襲い掛かってくる武器なのだけれど。
分が悪い賭けは嫌いではないとは、何処の誰の台詞だったか・・・。

ともあれ今は、目の前の兵隊の対処である。
打ち据えるのは容易くとも、その先へと進む実入りは有るのだろうか。

慌てていた先ほどとは打って変わって、どこか無感情にアトは喋る。
まるでそれが当たり前であるかのように。

しばらく間を空けた後、サイネルは落ち着いた様子で再び口を開いた。

（不服そうな顔をしながらも、すまんと謝るレンツ。……どうやらあなたの忠告の意味を理解出来ていないようだ。
この手のタイプは都合よく難聴だったり、妙に鈍感だったりするところがあるが彼も例に漏れずと言ったところだろうか。自覚がないからなおのこと、いや自覚がないからこそなのだとも言える。どちらにしろタチが悪いのは確かだ。）

（あなたのその様子か、もしくは単に探し物にか。どちらにせよ興味を持ったようで、オウム返しで聞き返す。）

（それじゃ調べようがねーよなァ、とひとりごち言葉を続ける。）

（実例がないから、何が引っ掛かるかわからない。だからきっかけを探して欲しい。
その提案の印象は恐らく至って普通なものだと思うだろう。わからないからまずはきっかけを探すというのは順序に叶っている上に、探し物の性質を考えるとそう悪くないものだろう。——異質に感じるのはその前だ。
体質者は数年で死んでしまう。そんな自らの運命とも言えることを、目の前の青年はそれこそ他人事のように語った。）

（先程のあなたの言葉を“あなたの声で”再現して。
にひひ、と笑った彼の顔には、いたずら小僧のような笑みが浮かんでいた。）

言葉を流され、辛辣な言葉を浴びせられても意に介した様子はない。

長い、に僅かなアクセントが置かれた。細まった瞳の奥は感情を読み取らせるほど開かれてはいない。

胡散臭く手もみする。

腰のやや大きな皮袋から紙に包まれた何かを取り出した。中身は違うが、紅茶にすれば10ｇほど入るものだろう。そう説明しながら下げる男の頭は、どこか機械的であった。

　
　　　　　　右手に、魔術力場を形成した。

　
　　　　　　興味深そうに手に取った。