何となく嫌な予感はしてたけど、切った時に何の反応もないから油断してた。それは認める。

　でもまさか本当に叫べるのかよこいつら。最初に口を削ぎ落しておくべきだったのかこいつら。切ったとき発声器官なんて無い純粋なジャガイモだったぞこいつら。どうなってやがる。薄く切って揚げるべきか……いやでも一枚一枚が叫び始めたらトラウマになりかねない……し、今回のとは違うから、まあ、いいんだけど。
　魚の素揚げと目が合うのも苦手な部類としては出来る限りご遠慮願いたい。
　むしろ怖い。これを生命力と括って良いものか。本当に心臓に悪い。熱湯の中からなのに響きまくる。そんな断末魔まで自己主張されても困るというか、なんだろう、こいつらに罪悪感を覚える事すら癪に思えるのは俺の心が狭いのか。
　クローシェは強いな……ほんと……。
　料理というか、料理の手伝いでこんなに疲弊するのも初めてな気がする。……疲労した事はあるけど、あれは、料理というか、戦闘だったからな……。


　ジャガイモの絶叫を聞きながら道の話。世界を渡る事。
　俺は役目でもあるけど、かなり安全な方法で渡ってるんだよな、改めて考えると。道作るのも正確には俺じゃないし。急に飛ばされる事もほぼ無いし迷う事も無いし。渡った後に困る事はあっても不可能になる事はないしな、言葉が通じないとか。
　あんまり経験者らしい経験してないからな。トウカが戻りたいのなら何かしら方法探すってのもあるだろうけど、そのあたりはソルトの方が詳しい気がしないでもない。クローシェは元々ここのだっけ、でも飛ばされても順応できそうなんだよなぁ。適応力というか。トウカもその感じはあるけど。
　なんとなく、同じ世界から別のルートで来てる人も多そうな予感。知人に遭遇する可能性は低いだろうけど。
　法則と方法。手段について。その辺りには全く触れた事ないからな……理屈は分かってるんだけど。分かってる分、無理は出来ないしな。色々あるとは知ってても、それが再現できないあたりは難しい。


　若干、見えないし読めないっていうのに不便を感じ始める。俺の仕事じゃないから当然だけど。見える人多いのかね、前に練習試合した中にも、いたみたいだし。かなり鬼気迫ってたけどあれは、ソルトかな、相手は。
　選択をミスした気はないけど、むしろ当たりだとは思ってるけど、もう少し待った方が良いな。今動こうとしても何にもならない。
　剣……剣どうするかなぁ……。

ため息をひとつ、ついて。

ふと目に入ったソルトの人形に、釘付になった。

　きょとんとして首を傾げる。最近、こういうことが多いのは、どういうことだろう。

再び現れたマッスルポテト。否。娘の目にはもう食材にしか見えていない。
何処か嬉しげな声で、笑う。

じいと、じいと視線は一点。ムキムキなええ笑顔のポテトに。

食材扱いには、慣れたようだった。

ぐ、と小さく掌を握る。