ENo.1680 姫白上総

先日の試合を終えて、夜━…　天気は雨

キャンピングカーの外に一人　普段は神経質過ぎるほど気にする

髪も、服も　雨に濡れ、泥に塗れ

上総は静かに、真っ黒い雲に覆われた

空を見上げて居た

…━頭脳には自信があった━…

…━精神力は十二分に培われた━…

…━あれ程無かった体力も身に付いた━…

…━力を行使する為の技術も手に入れた━…

…━チカラを━…

…━望んで止まなかった、チカラを手に入れた筈だった━…

…━夢の島で　スベテ　を　得た筈だった━…

『どうして…　ボクは完璧になった　筈、なのに…』

雨を吸い込み、重さに耐え切れなくなり　緩み、外れる黒いリボン

気にする様子も無く、もう１度呟く

…━どうして━…

キャンピングカーの中から、心配そうにオリフが出てくる

窓から眺めて居た様だが、普段と違う様子に声を掛け辛かったのだろう

傘を開き、上総に声を掛けるオリフ　だが、その声を遮るかの様に

「ヒメッ？　何時までもそんな所に居ると　風邪引━…

『ガキィィィンッ！！』

側に有った岩に　愛用の槌で一撃　岩に僅かな亀裂を作る

「……　ヒ、ヒメッ？」

掛ける言葉を見失ったのか

差し伸べた手をそのまま　硬直するオリフ

「どうして…　駄目なんだ、まだ　もっと…　何故答えてくれない…」

上総は、そんなオリフを気にする様子も無く

ブツブツと呟きながら　山岳方面へ……

小さくなる背中が見えなくなるまで黙って　見つめる

姿が見えなくなると、溜息をつき

上総の落とした　汚れた黒いリボンを拾い　自室に戻った

　

雨も止んだ翌朝

目を擦り　上総のベッドに目をやる

ベッドには　誰も居なかった。

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日の出少し前　…━オーレイユ号

「どう？　……居たッ？」

「最近人が入った感じはする…　船を動かした形跡は無いけどな」

「それじゃ……」

「ああ━…　十中八九、この島に居る」

「そう考えるのが妥当ね」

「取り合えず、だ　結構、人は居るみたいだし　聞きこんでみる」

「うん、よろしくね　それじゃ……」

「ああッ　また連絡するよ」

船に乗り込んで居た男は　電話を切り、ポケットに収めると

甲板まで出て　僅かに陽の光を受けた　雲に覆われた空を見上げ

「　上総……　」

そう　一言呟いてから　島に　足を踏み入れた。
　