ENo.987 Cecgii=Verwandt

前半：おりじなる・後半：ちゃんとアンジ

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空を漂う小さな影。

小山の上にそびええ立つ古城を眺めるようにゆっくりと旋回し、ふわり舞い降りる。

城の石畳に爪が触れる軽い音。

全身を振るい、淡い藤色の毛に張り付いた氷をはじきとばすと、白い息を吐いた。

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「おかえり。」

カツカツと規則正しい足音。
冬の空気のように冷めた声。

冷たい石畳の上、
両手で抱えられる程度の小さな竜が、頭を上げる。

どこか冷たい風貌の少年が、両腕に服を抱えてうんざりした顔で立っていた。

その様子に、竜は目元を和らげる。

「ただいま。」

「外に出るなら護衛を連れてけって言ったよね？」

竜の穏やかな様子に、男がむっと顔をしかめて言う。

「散歩くらい、一人でしても良いでしょ？」

「危ない」

「それに、大勢連れてる方が目について危ないじゃない」

「そういう問題じゃない。襲われたらどうするんだ」

男のイライラとした問いかけに、穏やかに答える。

いつの間にか竜の姿はなく、
竜がいた場所には一糸まとわぬ少女がちょこんと座っていた。

白い肌が寒さでほんのりと赤く染まっている。

「殺せばいいのよ」

首をかしげて、花が綻ぶようにふわりと笑う。

その様子に男は眉を上げ、それもそうかと一言漏らすと手に持っていた服を少女の肩にかけた。

「そういえば、あれから夕さんは？」

服に袖を通しながら少女が尋ねる。
少女の問いかけに、男は眉を寄せた。

「相変わらず気配は途絶えたままだよ。」

「そう…」

少女が肩を落とす。男は言葉を続けた。

「意図的に魔力を絶っているか、僕の魔力が届く範囲から出たか、或いは…」

「何らかの障害が妨害している？」

男が首を縦に振る。

「それが一番面倒だけど、可能性は高いね。」

小さく、吐き出した溜息は白かった。

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「…っと。こんなもんか」

歪み曲がった網の上に肉を並べ、フェアーは満足げに手をはたいた。

網の下には形の不揃いな木片や紙くずが積まれている。

「ったく。結局野宿してるのとかわんねーじゃねぇか」

そう一人ごち、煙草を一本取り出すとマッチを擦って火を点けた。

わざとらしく溜息をつきながら大きく煙を吐き出すと、
用済みとなったマッチをそのまま網の下に放り投げる。

パチパチと乾いた音を立て、徐々に火と煙がのぼっていった。

相変わらずのタルタスの街。

フェアーは、現在身を寄せているリオゼラの住処……の近所の家の屋上で煙草をふかしていた。

なぜ屋上かといえば、火を使うために広い場所が必要だったためである。

ちなみに、ここの家主には許可は取っていない。
そもそも現在住んでいる者がいるのかも不明だ。

料理をするのであればリオゼラの家の台所を使えばいいのだが、
その案は、リオゼラ本人の”台所は使っていない”発言によって即却下となった。

短い付き合いではあるものの、
彼が使ってなさそうなものがどのような状況にあるのかを推測できる程度には、
フェアーはリオゼラという人物になじみ始めていた。

どの程度放置されているのかもわからない台所を掃除をしてまで使うのと

寒空の下、屋外でひたすら肉の様子を眺めるののどちらが楽か――

わざわざ秤にかけるまでもなかった。

火から少し離れて適当な場所に腰掛けると、
ふうと紫煙を吐き出し、短くなった煙草を灰皿にこすり付ける。

長く伸びた髪がばさばさと風に乱れた。