ENo.949 キャプテン・ユーモラス

冷たい風の吹く森林を抜けると、ようやく視界が開けて海が見えてきた。
険しい海岸も徐々に砂浜になっていく。
潮風にあたると、蛭戸教授の指令で丸１年、孤島でヒトデの調査をしたことを思い出す。
もう一度アカデミーで仕事ができる日が来るのか、未来を思うと暗澹たる気持ちだ。

不機嫌な僕は、バーディ君を捕まえて尋ねた。

「どうして君やユーモラスさんは僕に固執するんだ？
　他にもヒズルシードに選ばれた人はたくさんいるんだろう？」

「カオルはヒズルシードとの融合係数がズバ抜けて高いんだトリ！
　そのひずるしさを無駄にしてはいけないトリ！」

「よくわからないけど、それはすごい強いヒーローに変身できるってこと？」

「すごいなんてのは控えめな表現だトリ。
　カオルは途方もないヒーローになるトリよ！
　はっきり言って、カオルが秘めている潜在能力は、理論的にはあり得ない規模なんだトリ！」

バーディ君は淀みなく営業セリフを紡ぎ出す。
まるで僕が宇宙の法則をねじまげる万能の神にでもなれるような口ぶりだ。
あまり持ち上げるので、つい、

「どうして僕なんかに、そんな力が？」

と聞き返すと、突然、

「それは私が説明しよう！」

草むらから野生のユーモラスさんが飛び出してきた！
前の方を歩いていたエルモアさんが何事かとこちらを振り向いたけど、
ああいつもの事か、というようなリアクションをして、そのまま行ってしまった。
ユーモラスさんは全然気にせず、ポーズを決めたまま解説を始めた。

「ヒズルシードは、人の願いに呼応して力を与える宝石！
　抑圧された願いが大きければ、解放したときのエネルギーも大きくなる」

「抑圧……？いったい僕が何を抑圧してるっていうんです？」

「隠さなくても良い。
　君はそうやって真面目なフリをしているが本当は……
　もっとこう、うんこうんことか叫びたいんだろう！」

僕はあきれ果て、ユーモラスさんを無視して早足で歩き出した。
まったくバカにしている。
小学校の頃から、うんこうんこ言ってる同級生にはうんざりだったし、
中学生になっても、おっぱいおっぱい言ってる奴らは軽蔑していた。
テレビに出る下品な芸人の一発ギャグなんて見るに堪えないと思うし、
バラエティ番組なんか時間とリソースの無駄だと思っている。

「人をおちょくるのはこれで最後にしてください。
　このあたりは治安が悪いから、さっさと抜けますよ」

僕は、背中ごしにユーモラスさんに言い放った。
直後、後ろで「とうっ」というかけ声が聞こえたと思ったら、
ユーモラスさんは無駄に跳躍して、再び僕の前に立ちはだかっていた。

「それが！抑圧と！いうのだ！」

人の顔をビシビシ指さしながら言ってくる。

「いい加減にしてください！僕は……」

「まあ落ち着きたまえ」

抗議しようとしたとたん、ユーモラスさんが勝ち誇ったような表情に変わった。
僕が無視して横をすり抜けようとすると、小声でささやく声が聞こえた。

「君は自分が極めて真面目な人間である、と思っている。
　だが、そのアイコン５はどういうことかね？」

僕には言葉の意味がさっぱりわからなかった。
アイコン……５？アイコンって何だ？
あとで聞いた話だが、これはユーモラスさんの得意技の１つ「メタ発言」であり、
世界の支配から抜け出し、ひとまわり上の概念を操る究極奥義らしい。

「わからないのか？
　ちゃんと表示されてるじゃあないか、アイコン５が」

「いったい何の…」

　←アイコン５

「何だこりゃああああ！！」

「無理をするな！安倍沢君！
　こういう表情をするといい！そしてアヘアへ言うといい！」

「絶対嫌だああああ！！捏造だああああ！！」

「カオル！認めるんだトリ！認めないとシャドウに食い尽くされるトリ！」

「意味わかんねえんだよコンチクショー！！」

僕の叫びで、前を歩いているエルモアさんたちがまた振り返ったけど、
ああいつもの事か、というようなリアクションをして、そのまま行ってしまった。
偽造写真を見られなくて本当によかったと思う。