ENo.577 カヤ・ボーフォート

一回休み

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この世界に来てずいぶん経った。
その間ずっと走り続けていた気がする。

オルゼの町の宿屋で身体を休めながらカヤは少し荒い息をはいた。

「こんなときに風邪を引くなんて・・・」

町の中
多くの人がいる場所。
せっかく情報を収集するチャンスだったのに・・・

「お食事をお持ちしました。」

宿の人が食事を運んでくれる。
今はとにかく休んで身体を休めるしかない。

「ありがとうございます。ご迷惑をおかけしてすみません。」

「いえ、いいんですよ。ゆっくり休んでくださいね。」

ウミネコに敗北し、この町に倒れながら駆け込んで宿を取った時に宿代は2週間分ぐらい渡してある。
宿の者に邪険にされることはないだろう。
シーツも毎日交換してくれるし、頼めば薬も買ってきてくれる。

しかし、・・・

「飽きちゃった。」

贅沢はいえないが、似たような味付けのかゆばかり。
同じ人が料理しているのだから仕方ないのだろうが、カヤにはちょっと塩気がきつい。
これでも少し薄味にしてもらっているのに・・・

この宿に泊まって1週間。
体調はなおりつつあるが、まだまだ全快には遠い。
そして、自分は塩漬けされている気分。

あまりのことに今日の昼は少し毛色の違ったものを買ってきてくれないかと頼んでしまった。
いつも料理を運ぶ人が気を悪くしないように、シーツを運んでくれるメイドさんに。

「カヤさん、こんなのいかがですか？」

そういってメイドさんが持ってきてくれたもの。
袋に入ったお菓子と持ち運び出来るようなカップに入った紅茶。
食事を頼んだつもりだったが、どうやら勘違いされたようだ。

「ありがとうございます。」

そういう自分の顔のひきつりに宿の方は気づいただろうか。

そして、その日の昼は塩味の強い焼き魚と野菜を塩ゆでしたもの。
それに塩味いっぱいのお米を握った「おにぎり」というもの。そして塩コンプからとったお茶だった。

お昼を残してしまった身体に休息を。

Cafe ＆ Boutique“Le coffret a bijoux”と印刷された袋に入っているお菓子を食べたとき、久々の甘いものに身体が少し楽になった気がした。
甘いチーズケーキは心を癒してくれる。

お紅茶をいただいてほっとした。

なんでも、移動する店舗が出ていて、そこで購入したとか。
メイドさんが興味本位で購入したらしく、味の保証はないと言われてしまったが、なかなかのもの。
きっと平時に食べても美味しかったと思うが、今の状況だと至福の時間とも言えた。

その日の夕方町に出て、夕食を外で食べようと思い、Cafe ＆ Boutique“Le coffret a bijoux”を探してみた。
Boutique　と書いているからには服なども売っているはず。
不思議な書やあやしげな薬や食事しか売っていない町が多いこの世界で服を買えるチャンスは滅多にないだろう。

「大きな方舟の横に構えているお店・・・・か・・・」

バタバタとせわしなく走る人がこころなしか多い・・とは思っていた。

買い物袋を抱えた猫耳の少女が走っていく。
青い髪の少女と眼があう。だが、彼女もばだばだと走っていく。
ゴスロリの少女も「大変！」と言いながら走っていく。

今日は何かあるんだろうかと考えていた自分は、やはり病み上がりで判断が鈍っていたようだ。
街の人に聞いて方舟に向かう途中で気づくべきだった。

街の人から聞いた場所で・・・
空を悠然と行く舟を目で追うしかできなかった。

「せっかく服を買うチャンスだったのに・・・・」

カヤはためいき一つついて・・・・今度こそ美味しい料理のお店を探すことにした。
この町にはあと少し滞在する。
あの船が戻ってくれることを願いつつ、それはないだろうことも知っていた。。。