ENo.44 黒鷺天地

【ツァオベラー・フェスト参加中！】

それは、とある某日のこと。魔法学校カメーリエ分校では二日間、文化祭が行われる。
この文化祭は最大規模で行われ、俺の知っている文化祭とはとても比べものにならない。とにかく規模がでかい、これ重要！
出店は外部参加も含めてとにかく多く、これほど多いと全部まわるのには二日間はガチで必須かもしれない。しかし文化祭というのは二日間かけてでも全部まわってみたくなるというのがお約束。俺も通っている学校の文化祭や他校の文化祭をとことんまわってみたが、それぞれのよさというものがしっかり出ている。そのよさがしっかり出るほど文化祭に力が入っているし、活気もある。
やはり文化祭はいい…、なんというか心踊る！これぞ青春、…という台詞は最近のライダーっぽいな。
俺は沙耶からこのことを知り、ユフィたちとやってきた。沙耶はユフィたちをつれて女性同士でまわっており、現在俺一人。まぁ…、たまにはユフィもガールズトークのように女性同士で何か楽しむのもいいだろう。とりあえずは俺も早速まわってみることにする。
…こういう時に誠司がいてくれるとうれしいんだけどなぁ。彼とまわる文化祭は毎回楽しくて仕方がない。

「すみませーん、通してくださーい」

人ごみの中、よろよろと道を通る一人の少女。この人ごみの中では、やはりまともに動くのも大変だろう。
少女は制服を着たポニーテールの眼鏡っ娘のようだ。よく見ると…、どこか見覚えのある少女に似ている気もする。
人ごみに押されつつも、よろよろと歩く少女。途中、転びそうになったところを、俺はそっと支えた。

「おっと…、大丈夫？」
「すみません、助かりまし―、…た……」
「んっ……？」

なにやら突然、少女の言葉が止まる。こちらをじっと見ているが、何かついているのだろうか…？
とりあえず怪我もないようなので何よりだ。この人ごみでは怪我にはまず注意したいところである。
少女はゆっくりと元の姿勢を取り戻すと、ゆっくりと口を開き…。

「天地さん…、ですか？」
「えっ…、あぁ…そうだけど？」

彼女はどうやら俺の名前を知っているようだが、何故だろう？ただ…、その声は確かに聞き覚えがあった。
改めて見てみると…、髪色や身長なんかも一人のある少女と共通している。偶然かもしれないが…、もしかすると……。
俺は女性の手をとった。

「あっ―」
「ここだと人が多いな…、ちょっと目立たないところへ行こうか…」

もしそうであるなら、ここで聞くのは不味い。
俺は少女を連れて、一度目立たないところへと移動した。

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「やっぱり、君だったんだねっ」
「はい、二日目まで時間があるので、来ちゃいました。それにしても大盛況ですね…」

女性は髪を結ぶリボンを解き、眼鏡を外してみせた。そしてすぐにまた眼鏡をかけ、髪を結ぶ。そう…、彼女の正体はエレインだった。
二日目のライブを控えている彼女は時間が許される間、こっそりとこの文化祭にやってきていたのだ。旅の仲間や他のメンバーと一緒に来たのだろうか？
とにかく彼女も今一人になってしまっているらしい…、同じもの同士がこうして揃うのも何かの縁というものか。

「ところで…、以前天地さんが話していた彼女さん…確か、ユフィさん…でしたっけ？ご一緒じゃないんですか？」
「あぁ…ユフィなら俺の仲間と一緒にまわってるんだ、女性同士仲良くねっ。…で、こっちは男一人取り残される身という訳で」
「あらら、そうなんですか……。……あっ、ではもしよろしければ、一緒に文化祭をまわってみませんか？」
「えっ……？」

その言葉に一瞬、俺の中の時が止まった。いや待て、いいのかそれはっ！？
なんというかバレたら不味いって…、まぁこうして二人いるのも不味い気はしないでもないが。
う〜ん、とにかく何らかの誤解が生まれそうな気がしないでもないのだが？

「駄目、ですか…？」
「いや、その…、……俺でよかったら、よろしくお願いしますっ」

ええいままよっ！こうなればとことん付き合うとしようか。とりあえずエレインのことがばれないようにうまくエスコートしなければなっ。
そういう訳で、俺の一日限りのシンデレラとの文化祭が始まった。変装的に姫という感じはしないが、細かいことはたぶん気にしてはいけない。

まず最初に向かったのは二層体育施設・グラウンド外周部で出店しているカフェ・オリュゾン。
直径なんと2mもある巨大鍋で作るパエリアは豪快な調理を見て楽しむのも出来たてのパエリアの味を楽しむのもよし…、一粒で二度のおいしい。
ミートボールのパエリアは噛んだ後の肉汁がたまらない絶品のミートボールにホクホクのじゃがいもとアクセントの松の実が実にいい仕事をしており、ライスも黄金比率の味付けによって具との相性もバッチリ。この量でお手ごろ価格で楽しめるはここだけだろう。
そしてシーフードパエリアも、シーフードの旨みがライスにしっかり染みこんでいてこれがまた実にイイ！鮮度の高い海老、イカ、貝などのほかにキラーオクトパスや陸裸亀貝も入っていて、こちらもお手ごろ価格で楽しめる。

続いて向かったのは、屋内専用ブースにあるミニチュアガーデン。
簡単な作業用カウンターと複数人用の丸テーブルと椅子のセットが置かれている「箱庭」を模した店で、ここでは果物と氷をミキサーで粉砕したクラッシュタイプの飲み物が楽しめる。
オレンジ、キウイ、アップル、ピーチなどの果物を使ったフルーツジュースはさっぱりしていて、喉の渇きだけでなく気分も満たしてくれる美味しさ。ちなみに俺は二杯もおかわりをしていた。いやーこれは本当に、美味しいッ！この他にもミントを添えたソーダもあるので、炭酸が欲しい！という人も是非。

…んっ？なんか普通にグルメ番組みたいになってきたぞ？
しかし当のエレインはかなり楽しんでいる…、確かにこうして色々な店をまわるのは楽しい。特にこうして誰かと一緒にまわるとそれも倍以上になるというものだ。そういえば高校時代も、同じ日に他校で文化祭が行われた時に皆で食べ比べとかしていたっけなぁ…、あの頃が懐かしい。俺の通っている大学もあと数十日もすれば文化祭…、またあの頃のように楽しめるだろうか。

「ふふ…天地さん、すごくいい顔してますよ？」
「えっ……？」
「本当に楽しそう…さっきよりもいい笑顔です。とても楽しそうなのが、こうして…わたしにも伝わってきます」
「それは、エレインも同じじゃないかっ。君だって楽しいっていうのが、顔に書いてあるくらいよく出ているよっ」
「そうですね、明日はライブも控えてますし…こうして文化祭を楽しめるのも、今日くらいですから……」

互いに文化祭を楽しんでいるということが表情にもちゃんと表れている。こうしてゆっくり文化祭を楽しめるのは前日くらいしかないのだろう…、だから彼女もとことん文化祭を楽しんでいる。こうして文化祭を楽しむのは年に一度…、二日目があろうと同じ文化祭というものはない。文化祭を楽しむ一日は、初日と二日目の内容が同じだとしても決して違うものなのだ。思い出の一つ一つが違うもので、そしてそれがたくさんあるほどうれしくて…。こうしてエレインと文化祭を楽しめることが本当にうれしいことは確かなのだ。
今まで楽しんできた文化祭とは違うけれど、こうして一日限りのシンデレラとの文化祭を楽しむというのも…悪くないかも。

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様々な出店をまわること数時間…気がつけばすっかり終了時間まであと一時間ほどである。
文化祭をまわっているとあっという間に時間が過ぎ去っていく。本当にあっという間だ…、高校の時は文化祭終わった後に皆でお好み焼きパーティもしたっけなぁ…。
今回は大体七、八割以上は制覇した。さすがにこれほど活気があると全部制覇するのは難しいが、これだけ楽しめれば十分満足だろう。

「ふぅ…、今日はうーんと体力使っちゃいましたね」
「だねぇ…、まぁ…こうして色々まわるのにうーんと体力使ってとことん楽しむ、それが文化祭の醍醐味なんだけどねっ。どうだったかな？」
「はい、とてもいい思い出になりそうです…今日は本当に、ありがとうございました」
「いや…こちらこそありがとう。一人でまわっていたであろう文化祭をこうして楽しくまわることが出来たんだ。一つ礼を言うだけじゃ足りないくらいだよっ」
「ふふ、では…その足りない分の代わりに、明日はライブに来てくださいね？」
「あはは…、ちゃっかりしてるなぁ」

明日はユフィと二日目のKT2ライブにも行く予定だ。特にユフィはカロリの大ファンなので明日のライブをすごく楽しみにしている。
KT2のライブということは明日はマイも文化祭に来るのか…、顔を見れるのはライブくらいになるかもしれないけれど。

「それでは、わたしはこれで失礼しますね。また明日」
「うんっ…、また明日っ」

互いに一礼すれば、エレインは何処か満たされた後のように気分よく歩いていった。
本当に一つ礼するくらいじゃ足りないかもしれない。これは明日、遅れないようライブにいかないと……。

「一日限りのお姫様との文化祭はどうでしたか？天地さんっ」
「（ぎくぅぅぅっ！？）」

聞き覚えのあるこの声。まさかそこにいるのか！？
恐る恐るゆっくりと後ろを向いてみた。…が、そこにいたのは……。

「びっくりしました？」
「ルーリか…、びっくりしたよぉ…。今の声真似、えらく似てたんだけどっ」

ルーリとこうして会うのは、宿で初めて出会った時以来である。
何やらこちらをにやにやと見ているぞっ。待てっ、これは決して、浮気ではない！浮気じゃないぞぉ！？

「大丈夫ですよっ、天地さんのことですから浮気じゃないのはなんとなくわかりますっ。下手したら、後が怖いですもんねぇ」
「あははは……。…で、ルーリ。今、お姫様って言ったのは――」
「決まってるじゃないですか。エレインさんのことですよ？」

ルーリは彼女がエレインであることを把握していた。
話によれば、人ごみで周りがよく見えず道に迷っていたエレインと偶然にも遭遇して道を聞かれたんだとか。髪色と声色や顔、そしてかすかに見えた彼女の目でわかってしまったらしい。
まぁ…、確かに敏感な人にはすぐにわかってしまうものかもしれない。

「明日はちゃんとライブに行かないと駄目ですよっ？貴重な一日、楽しませてくれたんですから…」
「だねっ……」

今日の夕焼けは綺麗だ…、いつもよりも綺麗に見えるのは満たすもの満たしたからだろうか。
ちょうどそこへ出店まわりを完破した沙耶たちが戻ってくる。ユフィは目を回しているようだが、大丈夫か？

「大丈夫です…、問題ないですよぉ…」
「…本当にユフィさん、大丈夫なんですか？」
「えーと…、明日にならないとわからない」

まぁ、明日問題なければユフィもライブにもいけそうだ。
そんな訳でこうして一日目は終了なぅ、明日はどんな一日になるのやら…。