ENo.3339 刃皇耶　竜斗

竜斗「…………」

ユエルン「…………」

アキ「…………」

声もなく、砂地を３人で歩く。
あちこちボロボロになっており、顔は疲労の色が濃い。

アキ「ねぇ、まだ？」

ユエルン「もうちょっとですから」

アキさがもう何回目になるのか分からない、『まだ？』を言った。
実際、歩き始めてからそんなに経った訳でもない。
いつもだったら笑ったり、おしゃべりしながら余裕で歩いてるくらいだ。
それが今は何でこうなったのか。
時は少し前にさかのぼる。

―数刻前、砂地―

ユエルン「本当にいいもふもふでした」

この子ずっとそれ言ってるな。
と言うかこんな表情してることの方が珍しいが。
それだけ精神的に満たされたんだろう。
何を隠そう、俺も満たされた。

アキ「うん、これで次こそは！！」

竜斗「何も賞は取れないと思うぞ？」

アキ「うっさいわねー、やってみないとわかんないでしょ！？」

こっちはこっちで野望に燃えている。
森からついさっき出てきて今は砂地。
大人しくなったもふもふ、もとい毛玉、
もとい巨大ハムスターと戯れ（？）終わったばかりだ。
あっちとしてはいい迷惑以外の何者でもなかっただろうが……まぁそこは勘弁して欲しい。
二人がコレだけ満足してるのでよかったなぁと思う。
まぁ其の代償として、かなり疲れたが。

竜斗「やれやれ……」

ユエルン「次はどうしますか？」

おい、口元緩んでるぞ。
しかしこういう細かい所も気遣ってくれるのはこの子の優しさと言うかいいところだ。
この後は砂地を抜けた先にあるエスタの街まで行く予定だ。
そこで休んだり買い物をしたりした上で今後の方針を決める感じ。
なので軽く説明しておく。

竜斗「この先に街があるみたいだからそこまでだね、詳しくはその後決めよう」

ユエルン「分かりました」

体力はないが精神力は満タン状態。
なので少し先にアルその街までもすぐ着ける、そう思った。
が、しかし……

アキ「あ、なんか目の前にまた何かいるよ」

竜斗「え」

ユエルン「…………」

ここで戦闘か。
ユンさも表情を急に引き締める。
さすがにこの体力状態でまともに戦闘できるとは思えない。
相手によりけりだが……。

竜斗「って、マジカ」

目の前に出てきたのは蛸だった。
蛸が珍しいとか言うわけではない。
モンスターとしてはよく出てきてる部類だ。
いや、砂地に出てくるのは珍しいが。
海近くても流石にそれはない。
なんだよデザートオクトパスって。
いや、そんな話じゃなくって。
蛸や以下などの軟体動物系のモンスターは基本強めな性能を持つのが多い。
しかも、最近ちらほらと依頼先などから噂を聞いていた。
キラーオクトパスって言う強力な動物を最近見かけるらしい、と。

ユエルン「……いけそうですか？」

竜斗「正直、びみょい」

こっちは疲労がかなり蓄積してる。
対して向こうはかなり元気なご様子。
しかも噂に聞く強者だ。

竜斗「やるだけ、やろうか？」

そういって魔石を取り出す。
ああいう手合いの触手は剣で行って切れない場合もある。
硬かったり斬りにくかったりするのだ。
斬れれば一番楽なんだけど、動けなくなるし。
とまぁ、保険のために遠距離からの攻撃をするつもり。
が、しかし

竜斗「……うぉ」

ユエルン「どうしました！？」

竜斗「術式構成ミスった」

バスンッ

そんな効果音と共に蓄積していた魔力が抜ける。
焦りすぎだ！

竜斗「くっそ」

敵の触手は目の前だ。
構成は変わらず俺とユエルンが前衛。
いつまで持ちこたえられるかな、苦笑と共にそう思っていたが。

ガッ

竜斗「んぁっ」

案外その時期は早く来た。
思っていた以上に疲れていたらしい。
頭部をしこたま蝕腕で強打されて宙を飛んだ感じがする。

ユエルン「竜斗さん！？」

アキ「ちょ、ちょっと！？なにやって……」

二人の何か叫んでる声が聞こえたが、
そこから先俺は意識を失った。

竜斗「もうちょっとだから、がんばれ」

そして、今に至るわけだが。
ああまで戦力さがはっきりしてるのもな。
悔しいのもあるが、自分にがっかりだ……何も出来なかった。

アキ「……もう歩けない、車とかないの？」

ユエルン「本当に、後ちょっとですから」

アキ「そうでもなきゃ、おんぶとか」

ユエルン「…………」

ユンさが困った顔になってしまう。
アキさも本当に限界なんだろう。
一度の敗北は精神にも肉体にも重度のダメージが残る。
元々肉体ダメージは残ってたんだし、精神だけで立ってたんだ。
精神のほうが折られたんじゃ、こうなってはしかたない。
ココで休むのも仕方ないのかな、そう思っていた矢先

竜斗「……見えた」

ユエルン「…………」

アキ「本当！？」

あの砂山の先、街が見える。
ユンさがあからさまにほっとした表情だ。
色々と大変だっただろう。

アキ「蜃気楼とかじゃないよね！？早く行って休も！！」

竜斗「大丈夫だと思うぞ」

今は夕方近くなってる。
全体的に冷えてきてるから空気の密度も上と下でそこまで違わない。
急に元気になったアキさに苦笑しつつ、とりあえず街に急ぐことにした。

Cerfolief −Esta−

アキ「はぁ、やっと着いた〜」

ユエルン「素敵な街並みですね」

竜斗「ああ、そうだな」

そこは古い建物が続いており、落ち着いた雰囲気を感じる。
どこか、懐かしい感じがした。

竜斗「ライカとか、こんなんじゃなかったか？」

ユエルン「どっちかと言うと、フェルの方がそれっぽいですね。ライカは港町ですし」

竜斗「そうだっけ？」

ユンさも同じことを考えていたらしい。

アキ「もー！二人とも何してるの！？早く行くわよ！！おいてっちゃうんだからね！！」

竜斗「はいはい」

ユエルン「今行きます」

苦笑を浮かべてアキさに続く。
現金な子だな。
あ、元気とかけたのよ？今。

とりあえず、宿屋兼酒場に。
ＰＳを払って２人分と１人の部屋を取る。

竜斗「アキさはもう寝ちゃいな、疲れたろ」

アキ「うん、そうする」

そう言って鍵を受けと……受け取れよ。
何で出したほうじゃなくこっちのほう見てんだよ。

アキ「私そっちじゃないの？」

竜斗「はぁ！？何でやねん」

アキ「だって私も一人でゆっくり寝たいわよ！それに、竜斗と同じとか出来ないわ！」

竜斗「なんでやねん！？」

そうするとユンさと一緒の部屋に俺がなるだろ！？

竜斗「おちつけ、俺が一人だ」

アキ「えー！？確かにそれは理屈が通るけど竜斗がそんな豪華な部屋とか納得が行かないわ」

酷い言われようである。

アキ「いいじゃない、クォと二人で！あ、それも問題か。でもまぁよし！！」

竜斗「いや、あのぉ……」

ユエルン「はは、は……」

お前は俺をなんだと思ってるんだ。

竜斗「とまれ、落ち着け。二人部屋の方がグレードは高い。一人部屋は超安部屋だぞ」

アキ「え」

竜斗「一人部屋の金額２倍しても二人部屋に届かないくらいだ」

アキ「……し、仕方ないわね。今日は我慢してあげる！」

やれやれ……

ユエルン「…………」

竜斗「あのー、ユエルンさん？」

ユエルン「なんでしょうか？竜斗さん」

竜斗「目線怖いんですが、どうかしました？」

ユエルン「別に、何でもありません」

な、なんだかなぁ？
何かしたかね？

竜斗「とりあえず、何かのもうか」

そう言って、酒場で席につく。

竜斗「まぁ、色々とお疲れ様でした」

ユエルン「お疲れ様でした」

そういって、エールを飲む。

竜斗「明日の早朝には出ないといけないから程ほどに切り上げようか」

ユエルン「はい、分かりました」

そういって、マップを広げつつ依頼板を遠めに見る。

竜斗「ここでゾンビ討伐以来か。またオーソドックスなのあるな」

ユエルン「巨大山猫退治、なんていうのもあるんですね」

竜斗「まぁ、一番近くはコレか……やけに報酬がいいな」

ユエルン「依頼内容と報酬がつりあってない気もしますね、どうします？」

竜斗「んー……」

サラミをつまみエールを煽って背もたれに深く寄りかかりつつ考える。
何かあるにしても、200PSしか違わないしな。
後、何とかなりそうな気がする。
俺らの仕事は基本、直感が大事だ。

竜斗「ま、何とかなるんじゃない？この順番でいこうか」

ユエルン「それじゃ、次はコレですね」

次の仕事は、“食料の運搬”に決定！！