ENo.3324 リオゼラ

───案外夢は見る性質のようだ。

そう自覚したのはつい最近である。

丁度ギルドとして行動を共にするようになった辺りからだろうか。

今まではただ、夢の合間に過ぎる濁流にすぎなかったそれらが、いくつかの風景を映していることに気付く。

ある時は長いファーのような生き物…トカゲ…いや、幻獣の類だろうか。
そいつがばつの悪そうにこちらを見つめていた。

視線の先から察するに、俺ではなく俺の肩辺りを見ているようだった。

「何処へ行く、仕事を放ってまた漫遊か？」

耳元から不機嫌な声がする。

見やれば、小さな龍…だろうか。
そいつが幻獣に話しかけていた。

静寂に包まれた、埋もれる程の本が満たす空間は、声が良く響いたように思う。

またある時は赤毛に黒い触角のような物が生えた男に悪態をつかれていた。

「俺が何処で何をしようと俺の勝手だろ。こっちももうガキじゃねぇんだ。親族だからって口出しされる義理ねーぜ。つまりほっとけ」

どうやら俺とは身内の関係にあたるらしい。
あまり似ているとは思えないが。

黙って見据えていれば、沈黙に居心地が悪くなったらしいその男は、そっぽを向いて出て行った。

小さな家が、妙に広く感じた。

そして───

今回の夢では、亜麻色の髪の女に小言を言われていた。

「何で遙煌はセルフォリーフに救援に行かないわけ？」

遙煌というのが何なのかは知らないが…確かセルフォリーフについては、ファング達が話していたはずだ。

元々分割世界よりセルフォリーフの救援に来たはずだった…ということだったか。
…ならば遙煌とは分割世界の一つなんだろう。

生憎そんなことを訊かれても、答えなんて持ち合わせてはいない。
なので、いつも通り沈黙を決め込むことにした…

はずだった。

「3年前の偽島での件のせいだよ。
調査に行ったはいいけど収穫なし、事態は収束、島は消滅、骨折り損のくたびれ儲けさ。
で、今回もそうじゃないかってね」

…俺ではない。

俺ではないが、口が勝手に動く。

今までは、その場にいる者の視点を得ても、あくまで俺は傍観者だった。

自分に対して言葉を投げかけられたこともあったが、返答を返したことはない。返さずとも場は勝手に移り変わっていたし、そういうものなのだろうと思っていた。

だが、どうやら今回はそうではないようだった。

「そんなの行ってみなきゃわかんないじゃない」

亜麻色の髪の女が食ってかかる。

「それは俺じゃなくて上の人に言ってよ。
というか寧ろ、行きたいなら君一人で行きゃいいじゃないか。
アイオールはそこら辺に積極的なんだし」

俺に言われても仕方がない、という点は、夢での俺と同意見だった。
アイオール…これも国の名前だろうか…。
…最近聞いた覚えがある。

「だって私今遙煌に留学してんだもん。
一応軍属の研究員になってんだもん。勝手に動けないわよ。
調査に行くんで研究員つれてきますーってでも言ってもらえないと！」

研究者。
なるほど、ファングと同業にあたるのだろうか。

確かに同じように白衣に身を包んでいる。

アイオール…そうだ、ファングの出身国がそんな名前だったのではなかったか。

「そこで俺に頼むのが間違ってるって言ってるんだよエル。
俺に独自権限なんてないの
精々進言はできるけど9割受理されないし、何より俺自身偽島の二の舞はごめんだよ」

はあ、と夢の中の俺はため息をつく。

エルと言うのはこの女の名前だろうか。

ふと視線が女から外れ、窓の外へと投げられる。

「俺らの仕事は基本この世界の事が優先なの。
他の分割世界にまで手を伸ばしてる余裕がないんだよ。
ただでさえ人手不足なんだから」

そこには

青い瞳と黒い髪の自分が映っていた。

違う。

それはフェアーの色だろう。

視界が淵から黒く染まっていき、そして

いつものように落ちる。

「何よ、＿＿＿のケチ！」

視界が黒埋まる間際、残響のようにそう女の声が響いたが…

意図したように自分の名前と思わしき部分だけが抜け落ちていた。

目を開けると、いつまで経っても馴染まない部屋が映る。

青瞳、黒髪、赤髪、アイオール

それらはおそらく、フェアーとファングの二人と関わることで得た要素が夢に現れたものだろう。

だが

エル、遙煌…

この二つには全く覚えがない。

リオ「これは…誰の記憶だ…」