ENo.2831 ひなた　＆　ひかげ

「ねえ、ひなた。あたし気付いたことがあるんだけど。」

「ひーちゃん、どうしたのいきなり？」

「もうすっかり冬よね。」

「う…うん。どっからどう見ても冬だよね。」

「あたしも寒い寒い思ってたのよねー。」

「さすがにノースリーブはやめたほうがいいんじゃない？」

「そう思うならとっとと上着出しなさいよ。」

「はい。」

「ふむ。これで寒い冬もばっちりね。」

「ジャージ１枚で凌げる寒さとも思わないけど。」

「あとは気合よ。元気があれば何でも出来る、いち、に、さんだーっ…てね。」

「さんだーじゃないとは思うけど、ひーちゃんがそれでいいならいいんじゃないかな。」

「で、ひなた。」

「今度は何？あったかいものでも淹れようか？」

「ホットミルクで頼むわ。砂糖特盛りでね。」

「さすがにそれは身体に悪いよ…。」

「ごきゅっごきゅっごきゅっ…ぷはーっ、寒い日の一杯はこれに限るわねっ。」

「うん、そうだね。」

「で、ひなた。」

「あ、ごめんごめん。おなかも空いてた？」

「まったくひなたあんたは気が利かないわね…ってそうそうそうじゃないのよ冬なのよ。」

「え？冬の話はさっき済んだよね、確か。」

「いやいやいや、話は終わってねえでございますよひなたの旦那。」

「いや、いきなり変なオヤジ口調に変わっても困るけど。」

「そう固い事言わずにうぇっへっへ…。」

「変なエロオヤジになったね。」

「ようようねえちゃん言い乳してんじゃねえかこの野郎。」

「女性なのか男性なのか困るよね。ていうかおねえちゃんネタはもうよしてよ、恥ずかしい。」

「まあまあまあ、ひなたおねーちゃんのことはこの際あんまり関係なくてね、ていうか全く関係なくてね。」

「なら振らないでよそれ。」

「言葉のあやよ、あや。そんなことよりもっと大事な事があるのよ。」

「話が横道に逸れすぎだからとっとと言ってよ。」

「ふむぅ…このあたしとの会話をを楽しんでないご様子ね。ま、仕方ないわせっかちなひなたさんに免じて
かんべんしてあげましょう。男は早いと嫌われるらしいわよ？」

「何の話だよ。」

「あたしもよく分からないわ。そんなことよりひなた。」

「もう、なんだよひーちゃん。」

「冬の前は秋よね。」

「うん、まあ、そうだね。普通は。」

「歳を取ると季節の移り変わりを早く感じるらしいけど。」

「大人になると時間の流れが速いってのはよく聞く話だね。」

「いい大人が時間を無駄にしてるいいわけよね、と思ってたんだけどさ。実際随分早いのよね。これってあたし
が年取った証拠かしら？」

「ひーちゃんはまだまだ若いよ。どこから見ても僕と同じ１１歳だよ。」

「ありがと。それはこっちに置いといて、確か２、３日前にはろいんはろいん騒いでた気がするのよね。」

「あー、そういえばそうだね。」

「あたしとひなたがこっちの世界に迷い…いや迷ってない迷ってない、迷ってないのよいい？わかった？」

「うんうん、それは大丈夫。」

「で、あたしたちがこの世界に遊びに来てあげたときは確か暑かった気がするのね。

それがほら、たかだか１０日足らずでこの寒さよ。」

「そう言われると確かに早いね。」

「そこであたしは思ったのよ。この世界ってもしかして１年が５０日…いや、場合によっては３〜４０日
くらいしかないんじゃないかってね。だとしたら大変よひなた。」

「ひーちゃんは何が大変なの？」

「３６５日たったら成人式よ、大人の階段上るにしても全力疾走すぎよ。まったく世も末、時はまさに世紀末よ。」

「えっと…さすがに世紀末はあと９０年近くあるんだけど。けどひーちゃん？」

「なによ、なんか文句あるの？」

「ひーちゃん早く大人になりたいっていつも言ってたよね。嬉しくないの？」

「ひなたあんた馬鹿ねえ、ほんとに。」

「なんだよいきなり。」

「だって考えてもみなさいよ。３６５日の間に夏休みがひぃふうみい…最低７回あるのよ？ほとんど夏休みだけ
で終わっちゃうじゃないの。」

「それはそれで嬉しいんじゃないのかなひーちゃんは。」

「馬鹿ねえひなた、夏休みばかっかってことはね、夏休みの宿題ばっかってことなのよ？」

「えー、ひーちゃん夏休みの宿題僕にまかせっきりだよね、いつも。」

「あたしが夏休みの宿題をひなたに押し付けるためにどんだけ苦労してるかわかってないでしょう？」

「わかりたくもないよ、そんなの。」

「さて…ようやく身体もあったかくなってきて舌の回りも滑らかになってきたところで本題よ。」

「今までのまさか前振りだったんだ…。」

「ふ…前戯には時間をかけるもんだって言ってたわ。」

「どこのだれだよそれ言ったの。」

「なによひなたいきなり。わけがわからないわ。」

「それはこっちの台詞だよ。」

「まあまあ。なんだかわからないけど怒りっぽいひなたにひとつ、いい提案をしましょう。」

「提案って？」

「クリスマスということだし、プレゼント交換をしましょう。」

「クリスマスだと言うことはわかったけどプレゼント交換は嫌だよ。」

「なによ、このあたしと交換するのがいやだって言うのねそうねそうなのねもしかしていつのまにかどっかに
女でも作ってきやがりましたのねとっとと白状しなさい。」

「そうじゃないよ。」

「なによ、だったらいいじゃないの。」

「だってひーちゃんのはいつも同じでしょ？」

「ふふふ…聞いて驚け今年のクリスマスプレゼントは大ふんぱつしたのだよ。聞きたいかねひなたくん？」

「『さん』とか『くん』とか気持ち悪いなあ、でなにをくれるの？」

「じゃじゃーん。これを見よっ。」

「…いつもの肩叩き券じゃん。」

「いつもとの、とは失礼ね。ひなたあんたの目は節穴なの？よーっく鼻の穴かっぽじって見なさい。」

「鼻の穴は広がらないけど…全…力…肩叩き券…嫌だよ余計に。」

「失礼ねー。いいこと？このひかげ様がひごろお疲れであろうひなたのために全力で肩を叩いて
あげようっていうのよ？ここはかんるいにむせび泣くところでしょ。」

「全力って…肩叩き壊すわけじゃないんだから…。」

「名前が気に入らないのね？だったら『殺意の波動に目覚めし肩叩き券』でも『火を吹く赤心肩叩き券』でも…
あ、通常の３倍のスピードが自慢の『シャア専用肩叩き券』でもいいわよ。さあ、どれでもお好きなのをっ。」

「どれ選んでもものすごく痛そうだね。肩叩き券の是非はこの際置いとくけど肩叩きってのはもっと優しさに
　溢れてるものだと思うんだけど。」

「う〜ん。」

「あ、いやだから無理に考えなくてもいいから、ね。」

「そうよっ、無理にひねるからだめなのね。こういうのはどうかしら？
愛の肩叩き券。」

「……ごめん、今までで一番嫌。気持ち悪い。」

「……そうね、あたしもこれはないと思ったわ。」

「普通でいいから、普通で。」

「ふむ、じゃあ交渉成立ね。ひなたあんたは男なんだから当然プレゼント３倍返しだからね、期待してるわ。」

「でもひーちゃん。」

「なによ？今更くーりんぐおふは認められないわよ。」

「いや、そうじゃなくて。」

「だったらなによ、さあさあとっととプレゼントをおよこしなさいなはりーはりーっ。」

「僕はひーちゃんがくれた肩叩き券の３倍の枚数でいいんよね。
だって…タダを３倍してもタダだし。」

「はっ、しまったっ…即時取消を要求するぅっ。」

「だーめ。」

「ど、どーしてもっ！？」

「うん、どうしてもだーめ。」

「そんなあ、ひなた様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ！！！」