ENo.2531 リノア=セラフ

【今までのあらすじ】
アンジニティに空から落ちてきたリノアは、途方にくれていた。
色覚と味覚を失い、記憶も欠けている。身に付けていた大事なペンダントも無くしてしまう。
徐々に思い出していく記憶。死海という未観測事象の塊で出来ている場所。そこへ至る道。
ノエルという少女の名前と、落ちている時に、投げてしまったペンダント。
そして、二人の奇妙な同行者。始まったばかりの、初めての自由な時間。
彼女は、記憶を取り戻す為に、頭を抱えるのだった。

四日目

リノア「クソッ！」

丸裸になったフレームだけの束子を蹴飛ばした。
つい先程まで、襲ってきた束子の毛（？）を毟りとって遊んでいた。丸裸にした所で、イライラが最高潮に達してきて、見事なボレーシュートをかましてやった。
どこまで飛んだかなんて知らない。星になったかもしれない。遺品である束子を束子たらしめているいる毛は辺りに散乱している、どれもコレも無造作に引っ張られて切れていたりするが。
手慰みにもならなかった。細かい作業で更にイライラが溜まっただけだ。

イライラしている原因は、勿論これだけじゃない。先日の記憶遡行からの手がかりから、何も進展していない事が大きかった。
ペンダントは投げ飛ばして相変わらず見つかる気配がない。ノエルという名前からも、何も思い出せない。
そもそも、あの死海の記憶すら、正しい事かどうかすら怪しい。

何しろ、施設のヤツらの弁を信じるのではあれば、あそこは未観測事象の塊ともいえる場所らしい。
と言うことは、起こっていない事を延々と刷り込まれる様な場所ということだ。それじゃあ、正しいとは言えないし、そもそもなかったとすらも言える。
ノエルは存在するのか、存在しないのか。ソレすらも定かではない。
あの場所で、あの状況で、咄嗟に名前が出た事から、存在すると思ったほうが正しいかもしれないが…。

ヘッドフォンから聞こえる歌も気になる。これがノエルである可能性だって、ある。
ノエルという名前自体は男性名だが、死海で見たシルエットは確実に少女の物だった。名前ではなく、愛称なのかもしれない。
しかし、ノエルが愛称になる名前なんて、それこそ山ほどあり得るだろう。

リノア「ここで行き詰まりか…」

やっぱり、ペンダントを先に探すべきだ、そう思った。
これ以上の記憶遡行は自己では限界がある。外部からの刺激、そういう物に頼ったほうが早いし確実だし。
投げてしまった記憶があるとは言え、そんなに遠くに落としては居ないだろうとも思う。
概念兵装の力を引き出すにも、あのペンダントは必要だ。

＊　＊　＊　＊　＊　＊　＊　＊　＊

概念兵装＜Imaginary Equipment＞
ペンダントの為には、こいつの説明を思い出しておかないといけない。
今の状態でどこまで正確に思い出すことが出来るか、怪しいが、可能な限りは試みよう。

概念兵装、略してIEは、使用者の脳波を読み取って、その本質に近い形で顕現する事のできる兵装だ。
脳波をどう読み取るのか、それは脳に最初の実験でチップを埋め込まれる。これが脳波リーダーになり、発信装置にもなる。
所謂、スティモシーバーという技術。
脳波は全て電波に置き換える事が出来る電気信号だ。
専用の装置を備えれば、解析も出来るし、外部からのスイッチで微弱の電波を発信することで脳を操る事もできる。操ると言ってしまえば、誇張表現が過ぎるが…、ある程度であれば、幻覚させることなどが可能、だったはずだ。

IE自体は、自己増幅するナノマシンとかだった気がする。一定の形状を取るまでは、目にすることができない。
脳波からハンドラに一番有効である形状をナノマシンが構築する。ある種の、自分の分身の様なもの。
私が見たことのあるIEは、一つを除いて他者を攻撃する物だった。つまりはそれだけ、人は敵対心が強いという事なんだろう。他人を蹴落としてでも、そういう事なんだろうか。私にはよく分からないけど。

さて、ペンダントはコントローラーと言った。これは、正確に言えばチップをある程度制御し、電波を流したりするスイッチだ。
それ以外にも使い道はあるが、IEを操作するのに当たって必要なのは、脳波に幻覚を起こさせる仕様のそれだけだ。後は、体調管理パロメーターだとか、座標確認だとか、それっぽい機能がごっちゃり付いてるだけとなる。

私が使っている概念兵装とは、そういう武装なのだ。

＊　＊　＊　＊　＊　＊　＊　＊　＊

リノア「そういや、脳にチップなんて入ってたな…、逆検索とか出来ねーかなぁ…。」

チップに働きかけてコントローラーの位置を逆算とか……、そういう代物じゃないから出来ないけど、出来れば…楽なのになあ。
こんな事態にならなければ、アレに頼ろうという気すら起きなかった。そもそも、アレの使い道はここに来るまで私自身が忘れているぐらいだ。大体持ってるだけだったし。
そりゃあ、自分の脳を弄るのなんて怖いさ。他人に弄られるよりはマシだが、自分自身ですら、自分の思考を弄るというのは、恐ろしい。
でも、今は見つけ出してそれをするしかない。独力が無理なら補完できる物に頼る。当然だろう。

リノア「ちょっと弄るだけさ、ちょっと弄るだけ……。記憶野に電波飛ばしてさ、覚えているはずの事を表に出すだけさ」

それが、必要だと思うんだ。
せっかく出た外。得た自由。これまでの経緯は全て……、私の人生だからこそ、知っておきたい。
ならばこそ、まずは、装置を探しだして、記憶遡行の旅にでる。
でなくちゃ、いけない。

しこうは、ぐげんかする。
もうそうは、げんかいする。
そして、わたしは、ゆめのせかいのひとになる。