ENo.2100 姫百合神

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遠い故郷

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”天槍”の修行を辛いと思ったことはなかった。
16歳の頃、草加が出て行くまでは。

草加の処分が決まったあと、私は一人になった。
今まで遅くまで帰らなかった母が付きっ切りで修行をつけてくれるようになったが、それは全て罰ゆえのことだった。

草加が去った時、私も処罰を受け”天奏”を継ぐことを許されなくなった。
それでも継承者不在とならないためにより厳しく修行をつけさせる形で”天槍”を修得させることとなったのだ。

だからこそ、私は黒百合の裏に回ることにした。
表が正しくあり続けるために、汚れ役を自ら担うことで居場所を求めた。

草加が帰ってくる場所を作るために。

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「…」

「見事に、技の設定を間違えたのさね」

「なんの申し開きも出来ないな」

全休

改めて、全休。
これからの歩数を考え見て必要な全休であるとはいえ、ここで全休したとしても私の持久は足りなくなるのは仕方ない。

「まだ今回、技が打てるだけマシというものか」

街の近くに戻り、多少の余裕が出てきたとはいえ技が打てないのは非常に厄介だ。
戦いに負けることはなくとも、この世界での力を得るには戦いに慣れていかなければならない。

「熟練が上がりやすいだけいい気はするけど」

「紬は格闘で魔術だったものだから、相当苦労していたのだわ」

「仕方なかったとはいえ、組み方が悪かった気もしますが…」

「本来の自分がどの程度の強さを持っているかではなく、この世界に自分を顕現させられているかというのは面白い仕組みだ」

「もっとも、三人は顕現する以上に探索でより強い力を得たようだがね」

「まー…世界に馴染んだだけで強くなれなかったらつまらないのさね」

自らの住む世界とは異なった法則で成り立つ力、技、そして戦い。
その中でより強さを求めなければ探索を続けていくのは不可能だ。

「私たちがマナを失っているとはいえ、完全な状態であればこの世界では神姉さんより、私たちの方が強いかもしれませんね」

「それはそうだろう、私はこの世界、この法則では弱輩者だ」

「全然そんな気しないけど」

”天奏”と謳われた槍の使い手であり、呪禁歌を用いる黒百合の上から二人目である神。
今の姿が本調子ではないとはいえ、三人はその本来の姿の片鱗を感じているため弱さを感じない。

「そのうち、”天奏”の技を魅せられればいいのだがね」

今はしばしの休息と訓練を。

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姫百合　神

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17代目の黒百合名門六家、上から二番目と言われる人物。
一人目は神と本来コンビである鬼百合琴音である。
単に年齢順で二人目、と言われているだけ。

幼き頃から才知に長け、”天槍”の修行において音を上げたことは少ない。
幼少期に琴音に護られたことがあり、それからは琴音を護るために強くなると誓う。

黒百合の17代の凛が”流々舞”の修行を始める頃、初めて業に入る。
17代では紬に次に業に入っており、ただ武芸の才能だけで”天奏”と呼ばれたわけではない。
たゆまぬ努力があってこそだ。

業。

端的に言えば、山篭りのような厳しい修行のことであるが、
黒百合の業は心技体を全て鍛える…大抵、二度と行きたくないと思うような体験をする。
霊的なものである時もあれば、物理的なものでも有れば、精神的なこともある。
凛、紬、カノの三人にとっての探索は一つの「業」でもある。
実戦の中で必要な力を身につけるという、荒行。

中学になる少し前に神の下に草加が現れ、共に暮らすことになった。
草加は良く出来た人物だったが、父親を追放され、母親はそのことで迫害され病に倒れ、残った草加は監視の意味を込めて姫百合の家が預かるとした。

神と草加は仲が良かった。
それまで自分の生活の中に琴音しかいなかった神にとって、草加は兄代わりに感じられるほど信頼を置くようになるが…

会ったばかりの頃は神の目線での草加を報告するように義務付けられており、礼儀正しく接してはいたものの監視の役目を受けたという認識から砕けることはなかった。

草加と神の話は長くなるのでいつかの機会に話そう。

高校生活。
神は草加が居なくなった後、自らを律し非常に静か心を持つようになる。
感情によって間違わず、情に溺れず、正しくあり続けるために。
黒百合の家系の者として、姫百合の後継として人との付き合い方が変わった神は周囲から浮くようになったが、一人で居たかった神にはその方が都合が良かった。

大学へは”天槍”を継げなくなったこともあり、必要だから入った。
黒百合の裏を望むようになり、一般的な社会生活から徐々に離れ、父や母のように黒百合のために過ごすようになる。

そして、15代目のこと。16代目のこと、17代目のことを考えるようになる。
ずっとわだかまっていた、草加のこと。

…
……
………

「草加がどうして追放されたのか、疑問が残る」

『またその話か、あんたはよほど15代目にしがみついてる連中が嫌いなんだね。私もそうだがね』

手鏡を通して本家にいる清音婆様と話している。

「草加の父が転生に手を出したのが本当だったとしても、草加が何故ソレを知りえたのか、それを利用したのか見えてこない」

『この話になると本当にストレートになるね。私の口からとなんとも言えないよ。草加の父についての処分に15代は関わってない。』

（それが不自然と言うものだ…当時はまだ清音様以外の15代もいたはずだ）

（”生まれさせ屋”の処遇は15代目の雪椿様が行った。15代目の誰も草加の父に関わらせず処分していることがありえるのか）

『死人に口なしさね。私は少なくとも関わっていない。他の15代は亡くなってるいる以上、残ってる資料以外には何もでてきやしないよ』

手鏡が黒に染まり、会話が途絶える。
少しずつ色を取り戻す手鏡が自分の姿を映しはじめ、清音婆様の言わんとしていることを我知らず口にする

「首謀者以外からは…か」

必ず15代の信奉者にいるはず。
雪椿様の転生に関わりがあるなにかしらの、その転生なのだから。

◇

閑話

「私が再び、あさきち様のアイコンに戻りました」

「やっぱり出来が違うのだわ」

「まー自作だと、明らかに今見ると駄目だし書き直した方がいいだろうしって良く思う」

「結局私も書き直しされないままでしたが…」

それを言うなら私もだな。なお、このアイコン(8)とアイコン(9)はセツカさまより頂きました」

ありがとうございまーす」

「絵日記もちゃんとなんとかしないとだな…」

「更新後には書きあがってないと思います」

「ずっとメイド服のままなのか、まさかな…」

◇

No.008

終了　　

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