ENo.987 Cecgii=Verwandt

絶望する余裕がある奴はまだ幸せだ。

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ソファーに深く腰をかけ、煙草を咥える。

落ち着いたらどっと疲れが出てきた気がする。
疲れるのはだるいから嫌いだ。

ふう、と煙を吐き出す。

一人で住むには十分な広さの部屋。

必要最低限の家具が必要最低限、必要な位置に置かれている。
鬱陶しい装飾も無い、なかなか良い部屋だ。

家主は椅子に座り、カップを持ったまま静かに目を閉じている。
寝てんのか、と思ったらゆっくりとカップに口をつけた。
どうやら起きているらしい。

ベッドには、赤毛の学者が横になっていた。
こいつはこいつで今の今まで昏睡状態だ。
もしかしたら俺が出かけている間に起きていたのかもしれないが、少なくともリオゼラは何も言ってなかった。

確か初めて顔を合わせた時に自己紹介をしてた気がするが、名前が出てこない。
よく青筋を立ててゲオルク辺りに突っかかっている奴だ。
一行を集めた責任を感じているのか、いつも何かとくるくる動き回ってる。

大変だな、と他人事のように思う。
実際他人事なんだけど。

俺がここ、リオゼラの家に厄介になっているのも半分くらいこいつのせいだったりする。

遡ること数時間前。

街に入るなりいきなりぶっ倒れたこいつを見つけるや、
リオゼラは自分の家までこいつを担いで来た。

珍しいこともあるものだと思った。
他人になんて興味ない奴だと思ってた。

そして、持ったままでは運びにくかったのだろう。
仕込杖を渡され、荷物持ちに抜擢された俺もちゃっかりと奴の家に転がり込むことになった。

その場の勢いで転がり込んだわけだが、
家主の許可無くソファーを占領していても何も文句は言われないところを見ると、
ここに俺がいることに問題はないらしい。

ふうとまた煙を吐き出し、テーブルに投げ置いた買い物袋をぼんやり眺める。

袋いっぱいに詰められた野菜果物。
さて、この大量の食材をどう処分するか。

つーか何で毎回毎回腐りかけの食材を渡すんだ、あの店主は。

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『満たされても、満たされても。
　そこで生きる意味が無ければ。
　死よりも生の方が、恐ろしいのだ』

ざわざわとやかましい酒場で
不自然に耳に残ったその言葉に心臓が跳ね上がるのを感じ、
それを隠すように煙草の煙を吐く。

ありすが言葉紡ぐ。
獲物の首に刃を突きつけるようにじっくりと。

椅子にもたれて視線だけを向ければ、
ありすは不気味な笑みを浮かべていた。

――そりゃそうだ。生より恐ろしいものはねぇだろうと、胸の内で笑った。

「絶望する余裕がある奴はまだ幸せだ。」

白い息を吐きながら白い竜が言う。
その瞳に感情は宿らない。

「君は？」

届くように、探るように。

白竜は頭を振る。
黒い鬣の奥で瞳が揺れる。

「もういいんだ」

自分に言い聞かせるように。
搾り出すように、静かに空気を震わせた。

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絶望を抱くだけの希望がない。

正確には、希望を抱きたくないだけなのかもしれねぇな