ENo.949 キャプテン・ユーモラス

「安倍沢君！君のツラを一定時間貸してくれたまえ」

ユーモラスさんが僕の首根っこを掴む。
有無を言わさず連行されたのは、町外れの廃屋だった。
場違いなパイプ椅子と、折り畳みテーブルが置いてある。

「あの、ユーモラスさん？
　いつ追っ手が来るかわかんないんですよ？
　こんなところで何を始めようっていうんです？」

僕の疑問には答えず、ユーモラスさんはバーディ君がとまっている箱を開けた。
中から、なにやら短冊形の紙片と……マイクを取り出す。
本当に何を始めようって言うんだ。

紙片を手に取ると、なにやら書かれていることに気づいた。
「僕らのヒーロー！キャプテーン・ユーモラース！」
「キャプテン！キャプテン！」
「おまわりさん！この人です！」
「純粋にかっこいい！」
どれもこれも、ひとことだけメッセージが書かれているようだ。

「……これは……？」

「おたよりだ！」

「え……誰からの？こんなに？なぜここに？
　一体どういうことですか？」

「質問はひとつずつにしてくれたまえ安倍沢君。
　ヒーローは人知れず悪と戦っている、が、人気も必要だ。
　当たり障りのない任務は記録され、プロモーションに使われている。
　これはその映像を見た人たちからのファンレターというわけだ」

ユーモラスさんはヒーロー協会というところに所属していて、
バーディ君はマネージャーのようなものだと聞いていた。
だがまさかファンレターまであるとは……

「じゃあ……このマイクは？」

ユーモラスさんはおたよりの束をざっと並べると、パイプ椅子にどかっと座った。

「そこに座りたまえ、お返事ラジオの収録を始める！」

「なんで僕が！？」

ツッコむより先に、バーディ君が僕のぶんのマイクを持ってきていた。

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「おたよりありがとう！
　キャプテーン・ユーモラース！だ！
　そして今日からメンバーに加わった、後継者の！」

「……え？」

「ホラ、名前！」

「いや、後継者じゃあないんで……」

「ノリの悪い安倍沢カオル君だ！よろしく！」

「勝手に言った！
　ていうかダメでしょ、今あいつらに僕の居場所が知れたら！」

「さて……今回は《カッコイイ！》《おもしろい！》部門に届いたたくさんのお便りの中からいくつかお返事していくぞ！」

「していくぞ！じゃねーですよ！」

「最初のお便りは……
　『名前はあれだがやっぱすごい！』
　名前がアレとはどういうことかね阿部沢君」

「……いや、アレだと思いますが」

「私ほどユーモラスなキャプテンが他にいるとでも？」

「そのコンセプトがまず意味不明ですよね」

「じゃあ次だ」

「無視！？」

「『ただのコスプレ疑惑発生中だけどカッコいい＞＜』……
　これは否定できないな」

「ほぼコスプレなんですよね？認めちゃうんですよね？」

「カッコいいの部分だ」

「ああ、そうですか……」

「次行こうか。
　『アメコミ！』『まさかのアメコミ勢ｗ』
　これは複数から来ているな」

「アメコミなんですか？」

「このカブキ模様を見ればおわかりの通り、和の心は大切にしている」

「大切にしてるうちに入るんですか、それ」

「だが全てのヒーローはアメリカのスーパーマンから始まった。超人となったからには、そのリスペクトを忘れてはいけないのだ」

「超人でないヒーローもいると思いますけど。
　俳優とか、スポーツ選手とか」

「それはスーパーヒーローでなく、普通のヒーローだな」

「でもキャプテン翼は「そんとき俺がスーパーヒーローだ」って言ってましたよ」

「……あれは超人だろう？」

「否定はしません」

「おおっとォ！ここでユーモア超特急、発車のお時間です」

「え、何ですかその締めかた」

「最後のおたより！『圧倒的存在感とナイスツッコミ…！』」

「ツッコミ……って、それ、僕もカウントされてるってことですか？」

「ま、あきらめて君もユーモラスになりたまえ」

「絶対嫌です」

「いまならまだ年末商戦に間に合うのにな……。
　よい子のみんな！ユーモラス変身ベルトは、12月17日発売だ！今SONYさんが生産してるから、待っていてくれ」

「それ……たぶんユーモラスさんのじゃないです……！」

「ではまた会おう！キャプテン・ユーモラスと！」

「……え？」

「ノリの悪い阿部沢カオル君でしたー！アバヨ！」

「アバヨ！？今どきアバヨ！？」