ENo.725 イロコイ・ミュウ・アエンナ

第七話　そうだ、じんじゃにいこう！

練習試合を無事に終えて、一時の平和の時間を過ごす。
ゆったりとした街の雰囲気。イロコイは木のベンチにちょこんと着地して、その風景を見ながら空を見つめていた。

「セシリアか…思った以上に素質があるようだ」

練習試合で特にイロコイが目をつけたのはセシリアであった。
彼女はイロコイと似て、前衛で戦闘を行いつつヒーラーとしての役割も持つ僧兵タイプであった。
防御に徹してスキを見て的確に急所を狙うイロコイと、自慢の素早さで耐えぬきながら戦うセシリア。
戦い方はまったく違うとはいえ、戦況を見極めて仲間を援護するというところは同じであった。

「味方への回復魔法は的確だったな、だが、もう少し戦闘に気配りが必要だったか…」

セシリアも性格は、仲間思いなところが強く、前にでて戦うよりは支援にまわる傾向があるように思えた。
イロコイはそう指摘するが、打たれ弱いアノが前衛にでて、小霧も後衛で体力に自信はないというチーム。
味方を信用して自分も前にでるという判断はあの状況では思いつかないものかもしれない。
見極めが肝心とはいうが、思った通りにできないものである…。

・・・

「さて、まだまだ時間があるな…どうするか…」

集合までには時間があり、各自、自由行動といった様子。
戦闘訓練、適当に買い物、クトネに告白、やりたいことは色々とあるが…。

「そういうものは、だいたいいつでもできるな…よし、ここは……同胞に挨拶にむかうとしよう」

イロコイは、この世界にいる者たちと密かに交流を深めていた。
互いに息の合った者が集まる、ギルド、集会、ただの雑談場所と…
一言では表せないくらいの『コミュニティ』というものが広がっている。
実際に、イロコイも『森の民』で集まることがあるようだ。
挨拶へむかう。そう思い立ったイロコイは街から離れていった。

・・・

「…ここ、か…？」

少し戸惑う様子でイロコイは目的地にたどり着いた。
若干ヒビの入った壁が目立つ建物に、社が設置されており、賽銭箱がある。
『くれはじんじゃ』…そう呼ばれる神社に足を踏み入れたが、その場所は若干寂れた雰囲気がしていた。

「…神社はもっと神々しいものと聞いていたが…」

イロコイの言う神社というものはどれほど神々しいのだろうか…。
そこは想像できないが、期待よりは格段に下といった様子を見せていた。
マントレットに乗って、ふよふよしながらゆっくり賽銭箱に近づいてみる。

「あっ、みゅうちゃんだ！」

女の子の声がした。イロコイはその声に聞き覚えがあった。この人物は…。

「紅葉か、会いにきたぞ」

ENo.712 紅葉

とてとて、という効果音が聞こえてきそうな足をした少女がイロコイの目の前に姿を表した。
少しボサっとしていて髪が跳ねてる白髪のショートヘア。
綺麗な水色の目で、さわり心地のよさそうな獣耳をしている。
顔を見ただけでも、人外であることはわかったが、それよりも特徴的なのは足であった。
まるで山羊のような…いや、山羊そのものと思える下半身をしていた。
人間と思わせる部分は上半身と顔のみで、手ももふもふしていた。
袴をつけていない綺麗な花模様の入った弓道服は、獣人である彼女によく似合っていた。

「いまおちゃだしますね！お茶っ！」
「ふむ、頂こう…だが何を、そんなはりきっているんだ…？」
「かみさまみならいとして当然のことをやってるまでです！」
「…ふむ、そうか」

いくら神様とはいえ、やってることはどこかの巫女に似たようなものであった。
神とはそういうものだろうか…？　イロコイはどこか疑問に思いつつ紅葉についていった。

・・・

小さな神棚のある小部屋に案内された。そこで二人でお茶を飲むことになった。
妖精とっては、ちょうどいい盃に緑茶が入っている。わざわざ気を利かせてくれたようだ。

「そういえば、神様といっていたな、一体何の神様なんだ？」
「えっとねー、ほうじょうとかとくいです！」
「ほうじょう…、ああ、豊穣神の部類か」
「それでー、神様でのお名前は、くらたつひめっていうんだってー」
「ほうほう…」

興味津々と言った様子でイロコイは話を聞いていた。
それもそのはずで、イロコイは大地の妖精であり、小さな芽を地面に生やすくらいの力はあった。
これは豊穣の部類の一つであり、それに近いものを感じているようだ。

「そういえば、みゅうちゃんは何のよーせーさんなの？」
「ふむ、そういえばまだ言っていなかったな…ボクは大地の妖精だ」
「はわ！大地！なんかすごそう！」
「そんなことはないぞ、せいぜいできることはこれくらいだ」

そういうと、イロコイは小部屋からでて、まったく草木の生えていない庭でしゃがみ込む。
地面に何か力を加えたようなしぐさを見せると、小さな芽が生えてきた。

「！！」
「とまぁ、これくらいだな…さすがに樹を生やすほどの力はな……ど、どうした？」
「すっごーーーーーーーーーーい！！」

ものすごく驚いた様子を見せたかと思うと、次は目を大きく開いて輝かせた。
ずいずいと顔を近づけてイロコイを見つめる。

「何を驚いている…これくらいのことは豊穣神と呼ばれているなら簡単に…」
「できないよ？」
「……」
「なんにもできないからしょーこはないけどかみさまです！」
「…そ、そうか…」

…紅葉は、どうやら修行中の身とのことであった。
とはいえ、何もできないことをまさかはっきりと『どや顔』で言われるとは思わなかった。
ちょっと呆れ気味な様子を見せるイロコイであった…。

（豊穣の神に小さな芽を生やしただけで驚かれるとはな…）

この後、どうやったらできるのかを問われたので、教えてみたものの…
結局紅葉にはできない感じ終わった。まだまだ修行不足である。

・・・

「さて、これが社…、そして、賽銭箱か…」
「みゅうちゃんはじめて？」
「ん、うむ…昔出会った東洋の友人から話だけは聞いていたのだが…願いが叶うと聞いた」
「んー、ほんのちょっぴりうんがよくなるぐらいだよ？」

イロコイがここにきたのは紅葉に会うためだけではなかった。
神社…そこは願いを叶える力があると言われている。
とはいえ、それは当たるも八卦当たらぬも八卦なのだが。

「まぁ、一度は試してみたかったんだ、ではさっそく…」

イロコイはコインを取り出す。
表には偉そうなおじさんの横顔、裏にはワシの絵が描かれた異国の硬貨であった。

「なにそれー？」
「２５セント」

わ、ワシントン！？

「ボクの世界の通貨なのだが、別に良いよな？」
「うん、いーよー！」

その辺に特にこだわりはないらしい。
イロコイはコインを賽銭箱に投げ込んだ。

「えーと…どうするんだ？」
「えーとねー」

やり方を紅葉に説明してもらう。
軽く礼をして、次に深く礼をして二回頭下げ、拍手を二回打って、もう一度礼をする手順のようだ。
これを二拝二拍手一拝というらしい。

「そのあとにー、ねがいごとをするんだよ！」
「ふむ、わかった」

言われたとおりに、二拝二拍手一拝を行う。

パンパンッ

そして…。

「お婿さんができますように！！」
「あっ、別に声はださなくてもいいよ」
「うえぇっ！？」

お願いごとを「する」というのは口で言うのではなく思うだけでもよかったらしい。
紛らわしかったようだ…。イロコイは思わず変な声がでてしまう。

「だ、誰も聞いていないよな…？」

キョロキョロとあたりを見回す。
……猫があくびをしている。
その視界にはくれはと猫しかいなかった。
猫に聞かれたくらいならいいやと、ほっとする。

「ふぅ…よかっ……」

安心して後ろを振り向くと、ソリーリャとセシリアがいた。

「ＮＯーーーーーーーーーーーーーーーー！！！！」

アメリカンな反応で叫ぶイロコイ…一生の不覚といった様子であった。

「い、イロコイさん……大人っす」
「……」

セシリアは顔を赤く染めてそういった…。
ソリーリャの反応や目つきはいつもと変わらないが…なんか、視線が痛かった。
どうやらソリーリャとセシリアもこの場所を知っていたらしい。

「いいか、このことは絶対に秘密だぞ…！大声でこんな…！」
「は、はいっす…！」
「……（こくりっ」
「おむこさんってなにー？」

お婿さんを探していることは別に隠してるわけではない。
だがそれを大々的に発表する気は本人には当然なかった。
まるで「ただいま恋人募集中です！」って大声で叫んでしまったかのような
誰でもいいから結婚してほしいような必死な姿に見えて…非常に恥ずかしかった。
セシリアは口はきっと硬いだろう。ソリーリャはまず喋らないだろう。紅葉は純粋な君のままでいて。

「わかればいい、紅葉はわからなくていい……ところでお前達はなぜここに…」
「ちょっと通りかかっただけっす！お賽銭いれていくっす！」
「……（ごろごろ」

セシリアはどうもここの常連っぽい雰囲気だ。
ソリーリャに関しては、ひなたぼっこするにはちょうどいいという感覚かもしれない。
だが、ここで出くわしたのは偶然というほどでもない。
なぜならこの二人もくれはじんじゃコミュニティだからであった。

「あっ、イロコイさん！ソリーリャさん！そろそろ集合時間っすよ！」
「そうだな、そろそろ戻るとするか」
「…すー」
「寝るな！」
「きゃうっ…」

紅葉もなかなか騒がしかったが、なんだかんだで、いつものメンバーが一番騒がしいのであった。

「それじゃ、またな、紅葉」
「また会うっすー！」
「……」（ばいばいーと手を振る
「うん、またねー！」

とてもいい笑顔を見せて、気持ちのいい別れができたのであった。

・・・

イロコイ・ミュウ・アエンナの婿探し日誌
紅葉神社と呼ばれるところに言った。紅葉は純粋すぎて見ていて眩しいと思った。
何はともあれいいやつなのは間違いない、同胞として手厚く歓迎しよう。
…大地の魔法の一つくらいは教えておいたほうがいいかもしれないな…

・・・

※というわけで『No.712 くれはじんじゃ』を書かせてもらいました！
　くれはちゃんかわいいよ！参拝数で神社が豪華になるらしいぞ！
　是非参拝してあげてね！！