ENo.455 Noir=D=Kreus

【黒の預言書】

　その書には、ありとあらゆる運命の行く末が記録されているという。
　それを記したのは、たった一人の・・少女。
　少女はこの世のすべてを知っていた。

　だが、本当にそんなモノが存在しているのだろうか？

　それはあくまでも噂。
　噂とはつまり、あやふやなモノ。
　ほぼ、存在していないと認識されるモノ。

　真実は・・ごく限られた者だけが知っている。

　そして、“知ること”がときに、大きな過ちを生むのだ。

「──退屈だわ。世の中の、なんてつまらないこと」

　それが彼女の口癖。
　無邪気な、けれど人智を超えた能力に恵まれた、特異な女性だった。

「コレこそ、望まれた世界でしょう？いいんじゃないですか。“平和”な世の中で」

　それが彼の役目。
　一見して温和な、けれどどこか無気力に冷めた目をした、怜悧な男だった。

「“退屈”な世の中よ。ただ、時の流れるまま、自らの寿命を全うすることが果たして幸せかしら？もっとドラマチックに、生を楽しむべきだと思わない？」
「楽しみ方はヒトそれぞれですし、“平和”だというだけで、十分幸せなのが一般論だと思いますけど？」
「少なくとも、一人、幸せじゃないわ」

　プクッと頬を膨らませ、彼女は眉をひそめる。
　それは僕も同じだよ・・と、咄嗟に浮かんだ言葉を、彼は胸の内に留める。

「・・いいこと思いついちゃった」

　クスッと小さく笑って呟く声に、彼はとてつもなく嫌な予感がした。
　そして、それは現実のものとなる。
　苦い顔とは対照的に、嬉々と輝く笑顔で彼女は言ったのだ。

　──ねぇ、賭けをしない？駒は用意するわ。
　私と貴方、想いを遂げることが出来た方が勝ちよ。

　貴方の想いはなにかしら？
　私の想いは──。

　それがすべての始まり。

　廻る廻る想いが廻る。
　廻る廻る運命が廻る。
　数多の星々が廻り逢い、別れ、そして、死んでゆく。

　其れは希望の星か。
　はたまた、絶望の星か。

　“　　　　”は静かに嗤った。

　世界が──暗転する。