ENo.420 健作・カルパッチョ

「ここはフリストの街だよ。とっても静かさな街さ」

ニンゲンが義務のような笑顔を作り、義務的に僕らに告げた。

「うむ、ご苦労！」

そのニンゲンに対してこんな風に労っちゃう僕は、
カルパッチョ王国の第二王子、健作。
王国主催の『爽やか笑顔コンテスト』と『3分間制限・泡を口からいっぱい出すコンテスト』で入賞したことがある――
なんてのは今は関係ないんだけど、まあとにかく「貴方は親善大使？」ってくらい良い笑顔で街に入っていったわけ！
脇にシャチを抱えて、ね。

「わーーー！ニンゲンが大勢いるとこに着いた！
すごい！みんな大体二足歩行だよ！
見てごらん雅くん！！
愉快だね、みんな陸上生活が好きなんだ。」

「うん。」

「ほらショップがあるよ！！」

ショップの兄さん「味のするお肉いかが〜？味のするお酒もあるよ〜。
すごいよ〜なにせ味がするんだ。
兄ちゃん、ほら味見してみなよ！」

（もぐもぐ）

「すごい！これが、味か！！」

ショップの兄さん「だよ！ほら買って来な！」

ショップの店員は、僕が自身の舌を手鏡で触診したり観察したりしている隙に、
僕の持っているコイン袋を奪い取って、換わりにじゃんじゃん肉や野菜を寄越してきた。

抱えきれないくらいの食べ物を押し付けられたので、片腕いっぱい野菜と肉、
さらにただしにも口に果物を咥えてもらいながら、
街をさらに歩き続ける僕たち。

「あのニンゲン、親切なのだな！こんなにいっぱい味のする食べ物をくれたぞ。」

「健作、お前ボラれてるぞ…」

「え？ボラがどうした？」

「はぁ……なんでもない…」

「元気ないぞ、ただし」

「元気なくないわけがないよ」

「つまり…どういうことだ！元気････あｒ」

「ない。」

心配になった僕は、街道から少し外れたところにある寂れた料亭を見つけ、
ニンゲンに頼んでそこの大きい水槽にただしを入れさせてもらった。
水槽のガラス越しにただしのため息が聞こえてくる。
吐き出した泡がドーナッツのような形になって水槽の上へ揚がって行き、
ぶくっと音を立てて消えた。

「健作、俺、還りたいんだ」

ぽつりとただしが言う。

「うん、わかってるよ。それは僕らの共通の意志だよ。
そのために二人三脚でここまでやってきたろ」

「うん…ん！？いや、一人二脚だろ…」

「また難しいこと言って僕を煙に巻こうとする…
ま、いいや。
出口は必ずあるんだ。
現に僕らは別の場所から突然ここに来ちゃった訳なんだし逆方向への転送もありうるだろ」

「根拠ない…」

「だからそれを探しに行くんだ！僕らの足で！」

「健作、俺のこと嫌い？」

「いや好きだが？」

「キモッ」

「『この世界は僕らが見た夢だった』なんてことは無いんだ…
だから探しに行かなきゃならないよね」

「味のするお肉いかが〜？味のするお酒もあるよ〜。
すごいよ〜なにせ味がするんだ。」

（だって、本当に味がしたんだから…）

舌を出して、先ほどの『味』を思い出していた。

料亭のおっさん「で、今日入った旬の食材はこのでっかい白黒のマグロだって？」

「俺は魚じゃねぇ！！」