ENo.368 千曲信月

　此処が、―アンジニティ―、か。
空が赤く濁って見えるのは、気のせいだろうか。
なんとも言い難い湿っぽさが気持ち悪い。
分割世界の掟に触れた場合、”その世界からの追放”以上の罰を求められる場合がある。
その行き先がアンジニティ、世界の掃き溜め。
様々な世界で否定された”無法者”が集まる世界。
フム、無法者だらけの土地、か。
そのような輩には、綺麗な空気など与えられない、と言うのか。
…分かっている。
俺は、やってはいけない事をしてしまったから…。

　俺の過去…など、どうでもよいな。
俺自身も、昔話をする事は苦手だ。
聞かれても、俺の仕事を少し耳にしただけで嫌悪した者は多い。
まあ、構わん。
冷たい目で見られるのには慣れているからな。

　しかし、この世界は異様だ。
どんな黒い経歴や罪を犯しても、此処に居てはそれがまるで当たり前の様なのだ。
掃きだめの世界…それがこの、アンジニティ。
俺と同様に、罪を犯した者や、何らかの歪みでこの世界に辿り着いた者もいるらしい。
後者の人間も、この世界の異様さを不思議に思っている様子は無い。
フム、適応力があると言うのか、この世界の事を分からないだけなのか…。
それは、本人にしか分からないがな。

　さて、何処へ行こうか？
此処から街は大分道のりがある。
この街で売られている野菜や果実も、色が危なっかしい。
フム…予想以上に厳しい世界だな。
此処を独りで歩くのは少々厳しいだろうが、構わん。
俺には元の世界に戻る権利など無くなってしまった。
ならば、否定された人間はそれらしく、此処で生き抜いてやろうではないか。

　…帰りたくないと言えば、嘘になる。
しかし、俺は元には戻れない。戻ってはいけないのだ。

　さて、進む準備をしよう。
この鮮血のコートも、すっかり身に馴染んでしまった。
この世界には俺と似たようなものが多く存在する。
危機感を、常に持っていないとな。

　では、食材を買おうか。
味のする果実を一つ…360PSか…。
それでは、この味のするおにくを…800PSか…。
あの。
店番よ。
非常に言い辛いのだが…。
あと少しまけてくれないか？
…あ、ああ。そんな事になるとは思っていた。
戦闘をするのは構わんが、俺が一歩退こう。
大人しくあぶない果実にしようか。
　
　果実…。
フフッ、俺とした事が、何を迷っているんだろうな。