ENo.3288 クァール

　-- スティルフ東方の森のそばにて --

「あの時はびっくりしたよなぁ…　あれ、どうみても林檎じゃなくて '' ひと '' だったもん。」

アップル退治の依頼を終え、スティルフの街に戻って一通り食料を買い込んだ俺は、
休憩もそこそこに次の依頼の目的地に向かっていた。

スティルフの東側にある森に、巨大化したハムスターが出没するらしい。
それを退治（？）して欲しいという内容の依頼を受けたんだ。

いざ、ハムスターの居る森を目の前にすると、林檎退治の時の記憶がよみがえる。

　森の中で、突然襲ってきたアップルさん。

そこまで強い相手ではなかったけれど…気迫せまってて、ちょっと怖かった。　
　というより、正直気持ち悪かった。

　アップルさんをやっつけた後に現れた男女の2人組。

冒険者だと名乗った彼らも、林檎退治の依頼を受けてたみたいで、
俺が先に退治しちゃったことを知って、少し残念そうな表情をしてた。

…ちょっと悪いことしちゃったかなぁ？

　冒険者のサニーとファニー。

彼らの名前は、スティルフの街を見て回っていたときに、聞いたことがあった。

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ふたたび、森へと目を向ける。

「冒険者…か。」

彼らの様に、街の人々の依頼をこなして、名声を得てゆけば…
俺が有名になって、人々の口から俺の名が流れるようになれば…

俺の噂は、姉さんの耳にも届くだろうか？
姉さんは…俺が里を出て、姉さんを探していることに気付いてくれるだろうか？

………。

俺の旅の目的は、単純なものだ。

「姉さんに、逢う。」

ただ、それだけだ。それが、今の俺の望みなんだ。

望みを叶えるために、逢いたいひとのために…
できない事なんて、何があるっていうんだろう？！

冒険者としての道を選ぶことに、躊躇いが無かった訳じゃない。

名声を得るなんて、都合の良い妄想でしかないのかもしれない。
不相応な依頼を受けてしまって、道半ばで斃れる危険だってあるかもしれない。

だけど、わずかでも可能性が増えるのなら…
賭けてみたい。そう、思ったんだ。

「………。」

願いを叶えるため、逢いたいひとのため

力が及ばないことを恐れてできないなんて　
傷つき倒れることを怖がってやれないなんて

そんな弱さを抱えて生きてゆくのは、きっと、哀しいものだろう…

そう思ったから、俺は、冒険者としてここに来たんだ。

「姉さん、俺に、すこしだけ勇気をくれよ。小さくても、気高く誇れる、勇気を。」

呟いて顔を上げ、俺は森へと足を踏み入れた。

………。

……。

…。

でも、巨大化したハムスターって…
アップルさんみたいに顔だけハムスターで筋肉質の体してるのかな？(汗)

ううう。やっぱり出会いたくないよぉ……