ENo.3088 十六夜　沙月

アップル「おいぃぃ・・・死ぬぜぇ？てめぇ死ぬぜぇ・・・？」

二体の林檎男が続けて叫び、互いの闘気と殺意が否応無く場を包み込む。
私の武器は鬼蜘蛛と名付けたこの長い針であるが、それを先制とばかりに投射し、林檎男の右目に突き刺さった。
そのまま林檎男に突進して刺さった鬼蜘蛛を引き抜き、足蹴にしてふわりプラーと真向かいになるように飛び、間合いを取る。
正直私の鬼蜘蛛はこの一本だけではないので回収する必要はない。
だが、プラーとは今しがた組んだ即席ＰＴであり、まだ実力や特技、戦闘スタイルも把握してない。
なので、安全に闘える様にプラーとの立ち位置を林檎男達を挟んで向かい合う形にするついでに追加ダメージ為の行動であった。
先制攻撃は完全に成功したが、戦意喪失するほど林檎男達もやわではない様だ。
痛みでむしろ怒り狂ってるようだ、恐ろしい形相で此方を睨んでいる。
そして本格的に戦いが始まった。

林檎男の動きは見た目よりも早く、無駄は多いが補って余りある力で押してくる動きだ。
こっちにきてまともに食事をしたのがついさっきだったせいもあり身体が思うように動かない。
直撃だけはしないように翻弄していたが、ガードの上から体力が削られていき、とうとう致命的なダメージを受けてしまった・・・

ツキ「ま、・・・ず・・・い・・・」

ツキ「ふっ・・・ふふふ・・・戦況把握・・・現状打破するには・・・・敵、甲の撃破を最優先する。」

切り替わってしまってからは現状で一番生存率が高い行動を取ってしまう。
それが例え味方を見殺しにするやり方であろうが・・・
幸い今日は敵一体がすでに死にかけだったためにまずそいつを最優先で撃破し、そのあともう一体を挟み撃ちにするという思考にたどり着いた。
うまく事が運び、最期はプラーの背後からの攻撃で林檎男はゆっくりと背後を見、何かを悟ったようにして倒れ落ちた。

アップル「俺らも所詮はこの程度・・・って、こと・・・か・・・・・・」

そういって僅かに哀愁を漂わせ、静かに瞳を閉じた。

ツキ「敵対象の殲滅を確認・・・周辺察知・・・敵対象いｔ・・・敵・・対象なし」

なんとか意識を取り戻し、理性でもって微笑ながら必死で纏っていた殺意を吐き出すように息を吐いた。
するとそこにさらに二人の冒険者が現れた、どうやら林檎男を倒しに来ていたらしい。
依頼が先にこなされたことを悔しがっていたが、これも早い者勝ちである。

ツキ「なんとか、なりました」

プラー「中々強かった。押し切れたけど強敵だったね」

プラーさんが屍に向けて十字を切る、たしかこちらでの供養の仕方だったはずだ。
それを見て私も同じように屍に向けて、合掌して頭を下げる。

プラー「体に余り力が残ってない……、少し休憩しよう」

私も余力が残ってないので、こくりと頷く。
出来ればさっき貰ったお茶を欲しいなと思ってプラーさんを見ていると、

プラー「またお茶飲む？」

といわれ、思わず喜びが顔に出てしまった、それほど余力がなかったのである。

ツキ「あの、でも宜しいのですか？」」

プラー「うん。街で軽く露天を見たとき、この世界のお茶も売ってたからね。」

大分安かったみたいだし気にしなくて良いよ

催促してしまったようでちょっと恥ずかしかった。
お茶を飲んで一息ついていると、プラーさんが料理の準備を始める。

プラー「移動する前に腹にしっかり食べ物を入れよう」

片付けはできなかったのでここぞとばかりに私は野菜を持っていき、

ツキ「お野菜でしたら切り揃えておきます」

切った野菜をみてプラーさんはなぜか少し引き攣っていた、きちんと出来てたはずなのになにがおかしかったのだろう？
ともあれ、そこからはプラーさんの独壇場であった。
あっという間に良い匂いがしてきて、私もプラーさんも唾を飲み込む。
プラーさんは掻き込む様にして口に入れていった、私も気付いたら食事に夢中になってました。
多めに作ったスープも、あっという間に二人で食べ尽くして、私は木影で腰を落ち着ける。

少しするとプラーさんがうとうとし始めた、実際自分も気を緩めたら寝てしまうような心地よさである。
流石に寝るのは憚れたのかプラーさんは伸びをして身体を起こした。
一連の行動をみててつい微笑んでたらプラーさんがこちらをみて少し照れていた。

プラー「よし、暗くなる前に移動しよう」

ツキ「分かりました」

道具や火の後始末等を行い、移動を開始した。

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三時間ほど歩いただろうか。
森を抜け、次の移動予定であるオルゼの街を目指していた。
プラーさんは方位磁石で常に方角を確認して迷わないようにしていたが私は胸騒ぎがしてどうにも気になっていた。
といっても明確になにかが悪いわけでもなく方向もあっていたので、淡々と森を進んでいく。
太陽が沈み始め、茜色に染まり始めると胸騒ぎが顕著になっていった、そして気づくのが遅すぎた・・・

ツキ「逢魔が時……」

もはや接触は避けれない、というより向こうの陣地に吸い寄せられたのか、私は空を見上げてそうポツリと呟いた。
こんなに近くになるまで気づかないなんて、未熟にも程がある、いや相手が上手すぎたのか？
林檎男とは比べ物にならない圧倒的な気配の殺意をもってそれはやってきた。

それは――巨大な蟻と赤い服を着た少女だった。
昆虫としては余りにも異形であり巨大であり、その巨大な歯をガチリガチリと鳴らす。その眼は舐める様に私達を見下ろしている。
隣に居る少女も恐らく人間ではない。人間がこの様なものと共に居れる筈がない。

ザクロさん「消えるがいい、我らの平穏を乱す者よ。」

変わるまでもなく撤退が一番だと本能で悟っていた、それほど圧倒的な差があった。

プラー「隙を見て逃げよう。まともに戦ったら多分３分持たない」」

ツキ「……はい」

そして、絶望的な逃走劇が始まった。