ENo.2531 リノア=セラフ

【今までのあらすじ】
空からアンジニティに落ちてきた彼女は、一部の記憶と色覚と味覚が無くしてしまっていた。
欠けた記憶と無くしたペンダントを求めて、彼女はこの荒廃世界をフラフラと彷徨う。見ず知らずの土地、見ず知らずの場所。初めて味わう外の空気。ガラにも無く彼女の心は踊っていた。
手がかりはそう多くない、無くしたペンダント。ヘッドフォンに収録されている声。そして、顔も思い出せない『誰か』の存在。
そんな事を考えながら、宛てなくフラフラしていた所を、獣耳の少女と魔法少女の二人組に出会い、同行することに。

三日目：死海概念

変な二人組だった。
獣耳の眼光鋭いヤツと、なんだかきゃぴきゃぴしてる不思議なオーラのガキだ。
どっちもこの場所については知らないらしいが…、今の目に不自由してる私は藁を掴む思いでこの二人を頼る事にした。

リノア（施設の連中ではなさそうだけど、用心に越したことはないだろ…）

信用しきったわけじゃなしに、少し利用するだけだ。
戦闘能力は、ごろつきに絡まれた時に確認済みだし…、中々できる手合いのようだし。しばらくは安泰っぽいな。
もしかしたら、油断をすれば寝首を狩られるかもしれない。

この場所は、どうやら治安という物が悪いらしい。金品強奪何でもござれみたいだ。

リノア「ペンダントも、拾われたら売られているかもしれない……か、アレが私以外の役に立つとは思えないが。
面倒な事に成る前に見つけてしまいたい所だな。色々いじられても困るし」

どうして、こんな愉快な事になったんだろう。

＊　＊　＊　＊　＊　＊　＊　＊

思い起こせば、36時間前の私は、軌道エレベーターにいたはずだった。

リノア「最終段階、とか言ってたっけ」

『そうだ、これからお前には、この軌道エレベーターの頂上まで登って、死海へ降りてもらう』

リノア「ずーっと、言ってたもんな、アンタたちは。私たちをこんな目にあわせてまで、成し遂げたい物ってなんなんだい」

『今までの実験を覚えていないのか…、そういえば死海についての記憶は制限されるんだったな。+BR+死海っていうのは、誰も見たことがない現象が詰まってるんだ』

リノア「なんだそれ、お伽話じゃあるまいし。まるで魔法じゃないか。お前らは、施設の時に与えた絵本の内容を未だに信じているのか？
私ですら、あんな幸せで頭が春な世界は信用していないぞ。お前らにさんざん理不尽な”現実”を突き付けられたからな」

『…なんとでもいうがいい。世界を統一して平和をもたらす。それが私たちの思想なのだから。そして、死海にはそれを可能にするだけの力がある』

リノア「おいおい、ほんっとうに、私たちはお伽話のお姫様か？　あの子は逃がして置いて正解だったな。
くだらない妄想で、人生ってヤツを弄ぶのがお前らの趣味か！　性癖か！？　クソみたいなもんだな、私でもわかるぞ、狂ってるってさ！！
ここで八つ裂きにされても文句言えないぞ！？」

『できないと判っているクセに…、兎に角、死海にはそれだけの力があるのだ。何としても、その力を手にしなくてはいけない』

リノア「ヤなこった。テメーで行け、テメーで。なんで私たちなんだよ」

『普通の人間には、概念兵装＜Imaginary Equipment＞は使えない…、死海を耐えられるのはハンドラだけだからさ』

リノア「……もう、勝手にしろよ。私は疲れた……、これで終わりなんだろ。
バカバカしい現実ってヤツから覚めれるなら、してやるさよ」

こいらは、何度言っても、何も聞かない。

＊　＊　＊　＊　＊　＊　＊　＊

間近で見た死海は大きかった。
色は例えようがない、玉虫色だ。虹色だ。夢色だ。どんな絵の具をぶちまけても、この色は再現できそうにない。
靄がかかっている。霞がかっている。2メートル先が見えない。

何が、誰も見たことのない現象だ。確かに珍しい光景ではありそうだが、これだけなら再現できそうだ。
ただ、すごく居心地が悪い。

一歩足を踏み出す。
頭に激痛が走る。先ほどまで見ていた玉虫色はおぞましく変化し、霞はうねりを持って形を変える。
作り出されるのは、少女の型取り。

「の…える！？」

その瞬間、落ちた。
次の一歩は踏み出せなかった。踏み出す暇もなかった。
玉虫色、虹色、夢色は、白に、黒に、グレーに汚く混ざっていく。
霞はより深くなっていく。なんだろうむしろ…視界がぼやけている感覚だ。

強烈なイメージが流れこんでくる。
人、人、人、血、血、血。廃墟、施設、遊園地、お花畑、血、奇形。
これは危険だと、処理しきれないと、頭が喚いている。
なんと言えば伝わるか…、今まで生きてきた一生が一瞬の内に脳内に流れ込んでくる感じか…、無論、その中の出来事は、”あることないことがごっちゃ”なのだが。

不意に、ペンダントを投げた。コイツから、イメージが流れこんでくる気配を感じた。

落ちていく。死海から、あぁ…、あの空に浮かんでいた、この場所は、こんなにも遠い場所だったのか…。

そして、あの一日目に。

＊　＊　＊　＊　＊　＊　＊　＊

あぁ、そういえば、そんなんだったな。ぼんやりと思いだしたぞ。

リノア「ノエル……、それは……、誰の名前なんだ」

思い出したことと、思い出せないこと。
…気楽に生きるには、早いぞって事かよ。

あわいおもいでは、あおいおもいで
かすむおもいでは、あかいおもいで
さめないうつつは、いまだかんそくされないまぼろし