ENo.2354 ソニア・スパルタクス

※今回は直接的な百合描写はありませんが、根底はやっぱり百合です！！
※※Eno.401のラ・フィーリィル＝クルスさんと、Eno.3306のライリッド・スティリードさんをお借りしています！！

とある、昼下がり。

ソニアは、一人でゆっくりとしていた。

オルゼという街に到着し、探索行にも一息つけたところだ。

山越えという過酷なルートを選択し、山間の凶悪な敵に敗北を喫した。
故に、パーティーの損耗も激しく、街に立ち寄りゆっくりすることになったのだ。

パーティーメンバーと別れ、ソニアは一人で物思いに耽っていた。

考えることは、一つ。

首元に鎮座する、黒革の首輪。
それを撫でることが、最近のソニアの癖になっている。

脳裏に浮かぶのは、二人の女性。

一人は、言うまでもなく、愛しきご主人様の姿。
その寵愛を思い出し、ソニアの身体がカァッと熱くなる。
身体の奥底から、湧き上がってくるような感覚。
湧き上がってくるものの正体は、──情欲だ。

自分の手が、自分の肌を撫でる。
右手を、左肩に置いて、つぅーっと動かす。

ご主人様には、似ても似つかぬ手触り。
戦場を駆け抜け、鍛えに鍛えた掌は、まるで樫作りの扉のように分厚く頑丈だ。
しかし、想像を喚起するには、十分だった。

いくら果てても、絶えず続けられる寵愛。
時に激しく、時に優しく。
ソニアの身体を、隅から隅まで、全てを弄ぶそれは、ソニアの『剃れ』を掻き立てた。
そして、まるで雌犬のように腰を振るソニアを、フィリィは熱っぽい視線で見下すのだ。

──もっと、枷を外せ

まるでそう言っているかのような、雄弁な瞳が、ソニアをさらなる痴態へと駆り立てる。

寝室で、
広間で、
浴室で、
町外れの茂みで、
バーのトイレで、
深夜の公園で、

この世界に来て以来、様々なところで、主人の命ずるままに、己の肉欲を解放した。
それは、主人の愉しみでありながら、ソニアの歪んだ願望でもあった。

根底に横たわる、深い愛情。
それは、あの年齢をして、貴族という立場がそれをさせるのか。
ソニアには、まだわからなかった。

ただ、はっきりと、主人もまた自分を愛し、必要としてくれることはわかっていた。

　　　　　　　　　　フィリィ
故に、ソニアはご主人様を求めた。
どうしようもなく、本能のままに求めた。

そんなだからこそ、『島』を離れ、新たな探索行でも、彼女の背中を追いかけた。
そして、彼女は以前と変わることなく、ソニアを受け入れた。

ソニアの奥底に眠り続け、ソニア自身が望み続けていたこと。
『受け入れられる』ということ。

それを叶えてくれた人物に傾倒するということは、ある意味で自然なことなのかもしれない。

ソニアは、自我を保ち、自意識を持ちながら、フィリィに傾倒していた。

だからこそ、業が深いとも言えるのだが。

そして、もう一人の女性。

この世界に来る、もう一つの理由。
未だ、忘れることの出来ない女性。

ライリッド・スティリード。

その少女もまた、フィリィと違う角度でソニアを『受け入れた』のだ。

そして、ソニアは感情を抱く。
どうしようもない、獣じみた、本能的な感情。

──貪りたい、

という、どうしようもない感情。

何度、その柔肌を味わい尽くそうとしたかわからない。
しかし、それは為されることは無かった。

理由は、一言では言い切れないかもしれない。
ただ、間違いなく言えることは、

それを彼女が望まなかった

ことが挙げられるだろう。

毒術師という奇特な家系に生まれ、数奇な運命の元に生を歩むその少女は、ソニアの愛情を理解することは出来なかった。
しかし、彼女は、同時に、そんなソニアを『受け止める』ということをやってのけた。

行き場を失った、彼女の情念は、ただ鬱屈するだけだった。

そして、そこに現れたフィリィという少女の存在。

二人の少女の間で、ソニアの危うい均衡は成り立ってしまったのだ。

もし、ソニアがライリに出逢わなければ。

ただ、フィリィに堕するだけの人物になっていたかもしれない。

もし、ソニアがフィリィに出逢わなければ。

感情のままにライリを蹂躙し、二人の道は決定的に分かれていたかもしれない。

……しかし、そうはならなかった。

ある意味で、奇跡とも言える差配の元に、ソニアの均衡は存在した。

天の導きに感謝すべきなのだろう、とソニアは思っていた。

……だが、ソニアの中に、２つの感情がない交ぜになっているのは事実だった。

ライリに向ける恋慕。
フィリィに向ける恋慕。

どちらも、真実だった。

だからこそ、ソニアは思い悩んでいるのだ。

「贅沢な、悩みよな……」

自嘲気味の笑みが、溜息と共に漏れる。

ただ、武の頂のみを追い求めていた人物が、決して手に入らぬと諦めた『愛』というモノに出逢い、思い悩んでいる。

それは、誰が見ても贅沢と呼ぶだろう、と、ソニアは思った。

いつか、答えを出さなければならないことかもしれない。

しかし、今のソニアには、それを導き出すことは出来なかった。

怖れ
不安
戸惑い
焦り

色んな感情がない交ぜになって、まとめられない。

「一人で懊悩としていても、答えは出ぬ、だろうな……」

そんなことは、分かり切っていた。
分かり切っていたからこそ、ソニアは一人で物思いに耽っているのだ。

その日、ソニアの嘆息は、尽きることが無かった。