ENo.217 ルギウス

アンジニティにある、座礁船。
その一角で―――。
「……後、１歩だったのですがねぇ……」
愚痴りながら、目を開く。詳しくは前回の日記参照（ぁ
ゆっくりと目を開くと……こそ泥がいた。すっごい嫌そうな顔で。
「…ゲ、でたロリコン…。」
ふぅ……と深呼吸して、いつもの笑みを浮かべる。
「繰り返しますが、私はそういう趣味はありませんよ？」
「や、流石にそう毎回毎回神出鬼没に現れると説得力に欠けるわ。
　特にその笑顔？」
顔を引きつらせながらも、すっごい距離を取られている。
「ところで、なにがもう少しだったんさ？」
「神出鬼没の方が面白い　でしょう？
　……もう少しでご馳走にありつけそうだったのですが邪魔が入った。それだけの事ですよ」
くつくつと笑う顔を張り付つけて。
「や、逆に怖いから」
なんて、突っ込みを入れられて。
「ふぅん……。まあいいけど。」
実際にどうでも良いのだろう、寧ろ……ざまぁみろくらいに思っている顔だった。
「驚く顔を見る　私が　面白いんです」
しれっと答えながらも。
「ええ、個人的な事ですしねぇ……あなたには、どうでも良いでしょう」
さして残念そうな顔はしない。
「ところで、簡単なアドバイスですが―――酒を売る店は１回ごとに変えた方がいいですよ？
　遠い所で売る方が良い」
「そんなの言われなくても解ってるわよ。同じ場所でそう何回も売る訳ないでしょ？安く仕入れているってバレるじゃん。」
「それは結構、流石に手馴れてらっしゃ……る……」
不意の頭痛。思わず右手で額をおさえた。
「どしたの？…ははぁん。解った。」
ニヤリと笑って。
「ずばりあれでしょう？風邪！こんな場所で寝てるからよ。」
こそ泥である彼女は、全くもって的外れな推理を披露した。
的外れだが、ノることにしよう。
「ええ、どうやら少し体調を崩してしまったかもしれませんね。
　嗚呼、心優しい美少女が看病してくれればすぐにでも治るのですが―――」
無駄に芝居かかった動作で苦しむふりをしよう。
「ああ、そうなんだ…困ったねぇ。此処に居るのは単なるこそ泥ですからねぇ。
　良ければその美少女とやらをさがしてこよーか？多分いないだろーけど。」
ニタニタと普段の自分を見ているような笑みを浮かべる彼女。
ｻﾞﾏｰ♪という心の声が聞こえてきそうなすごい大喜びだ。
「ええ、非常に残念です。
　看病のお礼に、ちょっとしたお菓子くらいは用意できたのですがねぇ」
ごーほごほ　とわざとらしい咳まですると……。
「はい、風邪薬とかいい物はないけど、酒ならあるわよ？
　卵酒ってのがいいと思うんだけど、今かこれで勘弁ね」
ものっそ早い変わり身を見せられた。
「……いっそ、清々しい変わり身ですね。
　ちなみに、風邪で体温が上がっている人に普通のお酒を飲ませるのはあまりよくありませんよ？」
酒を受け取って、飲む。
懐からお菓子を取り出して―――今日は、エクレアだった。
なぜか冷えてる。
「あ、そうなの？でもあんた風邪じゃないでしょ？
　如何見ても魔法関連かなんかの類よねソレ。若しくは女と入れ替わるときのなにかかしら？」
ニタァ……と意味深な笑み。
「ほう……」
推測を聞いて、色々と評価を改めた。
（……天性の危機感知に、洞察力も中々……生き残れば、彼女は化けるかもしれませんねぇ。
　このお子様舐めてかかると痛い目に合いそうです。）
「エクレアというお菓子ですよ」
はい、お礼です　と渡せば。
「お、おぉぉぉぉ♪ナニコレナニコレ！？なんか、真っ黒だけどでも凄くいいにおいがっ…！」
この変わりようである。
「ふふふ〜♪」
すっごい得意げだっので。
「いやはや、見事な推察ですね」
褒め殺す事にした。
「と、当然よってか当りかい…」
「私にしても推測の域をでないのですがねぇ？」
一応、断りはいれておく。
そしてエクレアを只管見つめている彼女。以前なら毒見を慣行したのだろうが、今は違うのだろう。誰かに教えて貰ったからだ。故に…。
「はむっ！！！」
食べた。
「んぐっ……！！！！！！！！！！！！！！！！！！」
いま、彼女の中で壮大な大宇宙が広がっているのだろう。
この世に、こんな物があっていいのかと。一口を、只管噛み締めている。
生地に程よいクリームの量。そしてそれをコーティングしているチョコが程よいアクセントを…以下略
「はぁぁぁ〜………これが、こんなものが外にはあるのね」
「セルフォリーフでは、こういったお菓子が普通に販売されているそうですよ。
　それこそ、子供が買える値段で」
品質はピンきりだが、そこは言わない。
「んぐんぐっ…ぷはぁ。せるふぉって…反対側でしょ？
　へぇぇ…いいなぁ…。」
隔壁の向こう側に思いを馳せているのだろう、そんな顔をしている。
「ええ、自由なる地でしょうねぇ……。
　作物が多く実れば、争いも減るでしょう……争いが減れば、治安も良くなる。
　治安が良くなれば……まっとうな職にも就けるというものです」
ニヤニヤと笑って。
「もっとも―――この世界に追放された方々がまっとうな職に就くとは思えませんが」
「あー…つかないだろーねぇ。でも私追放された訳じゃないし。
　でも、私もあれだなぁ…多分就かないと思う。色々旅して回りたいしっ」
「……ええ、様々な場所を巡るのは楽しいですよ？
　その土地にしか無いもの　なんてザラですからね」
浮かべている笑みから、いつものニヤニヤした感じが無くなる。
旅は楽しいのだ……自由を実感できる。
そんな旅を思い出していると。
「う〜ん…あ、そだ。旅にでるのは確定なんだけどさ。
　良ければ私の訓練につきあってよ！」
「……訓練、ですか？」
唐突な提案だった。
「うん、訓練♪いやね？実際タルタスから先ってあまり言った事ないんだ…。
　ゴブリンとか山賊とかいるって話きくけど、その、自信なくてさ…」
いつも強気でいるが、少し震えている。一人はやはり不安で怖いのだろう。
「なるほど。
　いいでしょう、私で良ければ訓練には付き合いますが―――手は抜きませんよ？」
言外に　殺してしまうかもしれない　と告げる。
手は抜くが、それを伝えては実戦の感覚は養えないだろう。
「や、そこは手をぬいてよ……実戦経験なんてないんだからさっ」
「……大丈夫ですよ、死んでも生き返らせますから」
ニヤニヤと笑う。
「流石にゾンビになるのはなぁ…了解。死なない程度にがんばるわ。」
寧ろ死ぬ覚悟くらいなければならないのだと決意を決めたのだろうか、顔つきが変わった気がする。
「ゾンビは死んだままですが―――まぁ、その意気ですよ」
「よぉぉしっ♪そうと決まれば早速…」
緊張しているのか、すっごい息巻いている。
ならば少しクールダウンしてもらわないと。
「気が急くのはわかりますが、ここでの戦闘行為はご法度ですよ」
張り紙？を指差す。
そこには、船内での戦闘行為の禁止などが書かれていた。
「表に出ましょうか、私は狭い方が楽ですが……訓練なら広い方が良いでしょう」
「わ、解ってるわよそんなのっ」
といいつつ用意してたらしい闇の弾丸。ひっこめると空笑い。
それを確認して笑みを浮かべつつ……。
「先に、行ってますよ？」
それを告げて外に出る。
「ま、まてー！！！」
後を突いてきてどべんっ！と転んだ音が聞こえた―――。

次回に続く？