ENo.2100 姫百合神

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遠い未来

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いつだったか、草加とまだ暮らしていた頃。
夢を語り合うのが当たり前だった頃。

草加はいつも”生まれさせ屋”を良いモノとして再興したい。
悪い部分はあっても良い部分に変えていくといつもそう語っていた。

悪い”生まれさせ屋”として追放された父、その父のことで迫害された母。
草加にとって”生まれさせ屋”であることは悲しむべきこと。
それでも決して捨てず、黒百合の下に、私の側に居てくれる。
それが当たり前だった頃。

私が語った夢はなんだったか、思い出せない。

きっと本当に望んでいたことを一度も言い出せなかったから。

あの頃はまだ、姫百合の家を継いで行くものだと信じていた。
だから私の本当の夢は…

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「アンジニティの風はどうも肌に合わないな」

「それはわかるかも。乾燥しすぎというか味気が無いというか…」

「味なんてあるのさね？」

全休

以前の敗北が堪え、休み休み戻っているが足の進みは遅い。
休んでもそれほど回復できないのが大きな要因だ。
この世界、アンジニティでは体調の維持が厳しく休んだ直後はともかく、歩み進めればすぐに悪化する。

「こう環境が悪いと休むにしても気が滅入るね」

「…そうですか？」

それなりに疲労の色を見せる三人に対して、あまり変わらないカノ。

「本体ではないとはいえ、マナで出来た体は便利でいいのだわ…」

「マナがあれば基本的に平気っていいわね…」

「自覚はあんまりないんですけど…」

「元々、尊杖はマナを吸うことが出来るので相性がいのだろうね。ここまで悪影響が出たのもマナを吸い続けたのも一因であるしな」

尊杖は災禍を鎮めるために、災禍を生む素となるマナそのものを奪う。
尊杖を継ぐカノはマナによって疲労を回復したり、身体能力を強化できる。
魔術的な気であり、気を魔術的に運用しているのだ。

「尊杖の方々は歳を老いても若い方が多いのが羨ましい。カノの母上も、その母上も実年齢よりも20は若く見える」

「あれは確かに羨ましいのだわ。清音ばあさんが可哀想に見えてくるのさね」

「可哀想はないだろ…普通に年取ってるだけなんだから」

清音様がああなのだから、きっと琴音も歳を取るとああなるのだろう。
家系として老け込みやすいのだろうとは思うが、漫画にでも出てきそうな老人であるのは凄いのかもしれないが。

「若いといえば車百合の16代、春奈さんは異常なくらい…」

「あの人は50代というのに、人によっては20代にも見える。15代はそれほど若く見えるという話は聞いたことがないのだが」

「まさに”輝夜”の姫…春奈さんはきっと本当に竹から出てきたんじゃないかなぁ」

「春奈さんには良くしていただきました」

「紬とカノは随分と可愛がって貰えたのさね…あちきは、体術に関して散々仕込まれた記憶しかないのだわ」

紬が車百合の輝夜を継ぐと決まる以前は凛が手ほどきを受けていた。
凛の体術はその修行の賜物なのだが、幼少期の流々舞と平行していた時期でありトラウマにも近いものとなっている…らしい。

「さて、お喋りはこのくらいにして探索に備えよう」

「休んでも、この辺りを見回っておかないといけませんからね」

それぞれ、重い腰を上げて辺りの探索へと出かけていく…

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槍

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ヴェルニール

草加にってアンジニティから黒百合の下へ送られ、黒百合から神へと手渡されアンジニティへと到るための槍

槍とは思えない形状を持ち、決して扱いやすいとは言えない。
使用者の生命に反応し、変形さえする不思議な槍。

シンの知らぬところだが、草加はヴェルニールの位置を知ることが出来る。
そうである以上、シンが草加と出会うのはもうしばらく先の話になるだろう。

…
……
………

ヴェルニールは本来は二本の槍であったものを組み合わせて作られている。

ある鍛冶屋はいい腕を持つと評判を持ち、自らの作る槍に満足していた。
しかし、ある時もっと凄い槍を作る鍛冶屋がいるという話を聞いた。
鍛冶屋はどうしてもその話が信じられず、もう一人の…若い鍛冶屋に会いにいった。

若い鍛冶屋はまだまだ技術は自分に及ばないものの、優れた腕を持っていた。
鍛冶屋はその腕を認め、すぐに意気投合した。

鍛冶屋は若い鍛冶屋に負けぬため一層精進し、
若い鍛冶屋は腕を磨くため一層精進したという。

彼らは同じ国の鍛冶屋だった。

そうして何年も過ごしていると、鍛冶屋は王宮に呼ばれ貴族お抱えの鍛冶屋となることになった。

「すぐに追いついて来い」

若い鍛冶屋はその言葉を励みに、町に一人残り腕を磨き続けた。

数年後、内乱が起きた。
若い鍛冶屋はいくつもの槍を作り、その槍は内乱で使われていった。

若い鍛冶屋の槍を望んだのは国に反抗を起こしたものたち。
貴族お抱えになった鍛冶屋の槍と初めて戦場で対峙することになる。

若い鍛冶屋の槍は盾に阻まれ槍が折れ飛ぶ。
貴族お抱えの鍛冶屋の槍は相手を刺し貫く。
しかし、折れ飛んだ槍が飛来し二人の槍を持った兵はどちらも命を落とした。

二人の槍はどちらも優れた武器だった。
どちらも相手の命を奪い役目を果たした。

そして内乱は終わり、国へ反抗を起こした者たちは捕らえられ、若い鍛冶屋の姿もあった。
武器を作り反抗に協力したとして若い鍛冶屋は火刑台に上げられる。

火に焼かれ、槍で貫かれ若い鍛冶屋は命を落とす。

使われた槍は貴族お抱えの鍛冶屋が作った槍。
火が消え、槍を引き抜くと刃先は柄から先が溶けて遺体に刺さったままとなり、
鍛冶屋は若い鍛冶屋の作った折れ飛んだ槍の先を取り付けて一つの槍とした。

その槍は武器として使われることはなかったが、鍛冶屋の工房にずっと飾られていた。

二つを結んだ絆の槍であり、境界を破壊し狂わすモノ。

後世、槍は魔術的に強化されこの世に二つとない名槍となる。
その名槍も争いに使われるようになり、いずこかへ消えていった。

…
……
………

「この槍にはどんな由来があるのだろうね。元々この形で槍として作られたのではないだろうが」

「やはりどう見ても槍というものとはちょっと違う気がしますね…」

「良く言ってもポールアーム系なのだわ」

「まあそうだろうがね。使いこなしさえすれば、もっと巨大な槍にもできそうなんだが」

「それはもう槍という必要がないような気がするけど…」

今のところ、アンジニティで生活するだけで精一杯なわけで…
使いこなすには時間が掛かるだろう。
ヴェルニール自体はアンジニティに良く馴染んでいる気がする…が。

◇

閑話

「この世界の存在意義は相変わらずわからないな」

「つい最近も言ったような気がするけど…」

「先の町でもなにか話が聞けるわけでもないというのがな。さて、この世界は表の世界にどう呼応するのか…」

◇

No.007

終了　　

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