ENo.1619 比売巫女等

「ちょっとー、この横暴雀ー！？　ばにーがクビってどういうことなんですか、どういうことだってんですかい、この！美脚と美声と美顔と茶目っ気溢るる素敵兎のばにーが！！」
「…だから…深夜はやめてって…」
「今すぐ起き上がらないと、よくよく聞こえに聞こえる兎耳を移植しますがよろしいか」
「いいわけないでしょ…、…もう、何なのー…」
「最初から言い直したほうがいいんで？」
「いい。いらない。っていうか、クビにしたいの、私じゃないもん」
「何ですと？」

「御祖母様に、外の変な子を使うのやめなさいって、変に縁と所縁を増やすのはよくないって」
「これはこれは、何と真っ当なご意見で」
「…変ってのは認めるんだね…、ともかく、そういうことなの。御祖母様から、何？使い魔さん？何か、代わりにそういうの。貸してくれたんだよ。すずめの代理と称したからには、みことちゃんに力を貸すのは比売家の義務だって」
「巫女如きが使い魔とは、小生意気な」
「…なのかな？　よくわかんない…」
「無力は才能ですよ？」
「…バカにしてる？」
「まさか。バカにわかりやすく訂正いたしましょう、助けてもらえるばかりの性質も極めれば才能だというのですよ」
「ん、…んー…？　…あれ、今、率直にバカにしたよね？」
「気の迷いです♪　なれば、真にばにーはお払い箱ということに…ふふ…シーズンも改まったというのに、短い登場シーンでありました…」
「あからさまにしょぼくれないでくれるかな、何か悪いことしたみたいな気がするし。…たまになら、遊びに来てもいいよ？　あ、深夜とか変な時間とか困るタイミングはナシで」
「その辺りの迷惑なタイミングを禁じられたばにーに、一体いつ来いってんですか、この能無し雀め！！」
「来るなって言ってるんだよ、この騒音兎めー！！」
「逆ツンデレですと！？」
「ふふりです、私だって成長して、言い負かされてばかりじゃないというところを、
「わかりました、朝食時に普通に座ってることにします」
「やめて、御祖母様に睨まれちゃうからやめて、本当にやめて、謝るから」

「まぁ、興味が尽きず隙あらん限り、ご都合主義と一抹の制限を体現したこのばにー！　あなたの傍に、背後に、足元に、天井裏に！」
「ちょっと怖いからやめてくれないかな…」
「常々いたり、いなかったり？」
「どっちかはっきりしてよ…」
「お呼びでなくてもきゃぴっと登場♪」
「そろそろツッコミ疲れてきたんだけど…」
「今晩はここで朝日を拝む予定です」
「今すぐ帰れーー！！？」
「きゃｖ」

　きまじめな子と聞いていたのに、散らかっているね
　散らかっているけど、きまじめな子と聞いているよ

　服を持って来たけど、ついでに片付けてあげようか
　片付けるついでに、服も仕舞っておいてあげようか

　一つ残らず、ひめさまの、望むとおり
　全て丸ごと、みこさまの、願うとおり

　君は僕らの、思うまま

「…何やら、二重に猪口才な夢を見ました…」
　寝床で頭をもたげ、窓からの明かりを瞼に焼き付けます。
　無理矢理の起床を、眼球を通して脳みそに促し、力いっぱいに瞼を開ければ、薄らぼんやりとした視界が像を結び、
「…あれ、荷物が…」
　起きてから、朝着替えるついでに片付けようと、少々のだらしなさに目を瞑って放置した諸々が綺麗に片付けられていました。
　寝る前に、寝ぼけながら、そうしたのだろうか？
　自分に問いかけても答えは出ません。
「はて…、…ルームサービスだとか…？」
　サービスがあったとしても、さすがにそこまではしてくれない気もします。
「…あ、泥棒さんだとか」
　ようやっと、はっきりと目を覚ましてみれば、不思議さは危機感へと変わります。
　何も取られていなければ、不思議は不思議なれど、困ったことは何も、

　も…

　荷物が、増えてました。

「…な、なんで…」
　そこにあるのは、一着の。
　見慣れぬ。
　真新しい。
　私に誂えたかのような。

「なんで、新しい衣装がここにありますかー！！？」
　ここは異界、元の世界との行き来は不自由であるはず。
　その認識が誤っていたというのか、いや、間違いはないはず。
　当たり前であるはず、のことが覆される現実を受け入れることはなかなか容易でなく。
　容易でないことを簡単に片付ける方法はただ一つ。

「…さっ、今日も元気よく探索に向かいましょうか！」

　逃避じゃありませんったらありません！
　ただの後回しなんですから…！

「罠です、連中、卑流呼様を果ての果てへと落とし貶め陥れておいて、私という使いを送り出すのが精一杯である事情を知ってか知らずか、あっさりちゃっかりがっつりきっちり、かようにくだらぬ代物を送りつけてくるなどと、これは罠に違いないというものです…！」

　ただ、その衣装はとても暖かそうで。
　北風と太陽の、太陽が悪者に思えてきた私です。