ENo.1440 エリヴァルテ・D・レグリーゼ

「騎士ヴァルテ。これから君には試験を受けてもらう。」
「試験、ですか？騎士の昇格試験なら先日受けたばかりですが……」

騎士団長は笑顔だ。しかし、いつも以上に空気が重い。
「いや、あんな形式的な試験ではない。もっとシンプルな試験さ。」
困惑している私を試すかのように、彼は私を見続けながら言葉を続ける。
「これから、技をいくつか覚えてもらう。10の技のうち1つでも使いこなせれば、君に特別な任務を任せたいと思っている。」
その質問に、私は首を縦に振った。
より強くなれ、さらに特別な任務を受けられる。それほど良いことがあるだろうか。

しかし、その考えが甘いことは、1つ目の技に打ち崩された。

「……やはり、まだ早いか。次で最後だ。これが駄目なら、今回はなしだ。」
今までにしたことのない動きと武器捌きに、私の全身は悲鳴を上げている。

「………いや、やっぱり少し休もう。また少ししたら来るから、それまで休んでいるといい」
騎士団長は、そのまま去っていった。

結局、あのとき私が技を使えたのは、奇跡でも起こったのではないか、と思ってしまう。
あれ以来、いくら練習をしても成功することは無かったのだ。

（ふぅ……）
槍をギリギリまで短く持つと、大きく呼吸をする。
すぅ………はぁ………すぅ………はぁ………
的である木を強く見据えると、全身をばねにして自らを打ち出す。
至近距離まで一気に近づき、木を全力で射抜く。槍は木に牙をむくが貫くことは無く、枝のようにただ刺さっていた。

私は、自分の体よりも小さい木ですら貫く力が無いのだ。
たまたまの幸運で、この任務についてしまった。

槍を引き抜く。木に向かって静かに祈りをこめると、私が作った傷から小さな枝が生えはじめた。
私は、もしかしたら騎士よりも神官のほうが向いていたのかもしれない。私は自らの非力さを恨む。

心のどこかではわかってたのかもしれない。私じゃ騎士になることなんて無理だってこと。
そう考えれば考えるほど、心の中で私を惑わす声が大きく、強くなるのを感じる。
『だから言ったろ。お前には無理なんだよ。空想ばかり抱くお前じゃ、何にも守れやしない。
第一、お前はお前自身を全く、なんにも知らないんだろ？』

私は、なんなんだろう………