ENo.1171 夜叉

七輪と夜叉。双方の戦いを殺し合いと呼ぶには不釣合いなほど
それは一方的な試合展開となりあっけなく幕を閉じた。

もとより夜叉は疲労困憊。最愛の刺客を相手するには余力がなさすぎたと言えよう。

「あなたに殺されるなら本望だわ。」

殺意を向けられて尚嬉しそうに微笑み返すその様は死に場所を見つけたように満足げである。

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本来七輪が受けた任務は逃亡した夜叉の身柄確保、口封じである。
激しい抵抗があった場合は始末も考慮に入れて良いとの事で
ラスティは最初から身柄確保などと甘い事を考えてなどいなかった。
彼にとってラスティは妹以上の存在であり、喪失感は完全な殺意に変わるのにさほど時間はかからなかった。

どうしても許せない。

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「ほんまはな・・・塵一つ残すつもりは無かったんやが。
　その必要もなくなってしもうての。」

理解ができないという夜叉の反応を他所に七輪は続ける。

「あんたが手をかけたアイツな。今はもう無事らしいんやわ。
　せやから、当初の規定通り身柄拘束という形で進ませてもらう。」

生きている・・？
夜叉の血の気が一瞬で引いていく。
彼女が全てを捨ててまで愛した男の言葉がにわかに信じられなかった。
あの時確かに助かるはずがないほどの深手を負わせたと言うのに。
しかし、その安堵に満ちた表情からは全てが失敗に終わったということだけが真実だと思い知らされる。

「・・・そう。」

「正直今でも腹は立ってる。勿論、再発がない様おまえさんの能力も全て奪い取る。」

「・・・そう。ふふ、そうね。あなたの心も身体も手に入らない。
組織に戻ってももう任務はできないわ。居場所なんてもうないのかもしれない。
それでもあなたは殺してくれないのね。」

「死にたきゃ勝手にすればええ。その身体じゃほっといても死ねるじゃろう？」

なんて悪意に満ちた言葉。自分自身に向けられた言葉。自分に向けた彼の言葉。
なんて嬉しいことか。

「身柄確保だと、組織までは私を連れてってくれるのかしら？」

「死にたがり相手にする気は無いがな。」

「いいえ、私は生きるわ。」

だって、やっぱりあなたが好きなんだもの。

「なんなら証拠を見せたっていい。私がこの身体で街まで戻れたら。
そしたら・・信じてもらえるかしら？」

自分でもなんてことを言っているのだろうか。
以前の私なら潔く死を選ぶだろう。
力を失うことは死んだも同じ。無様に生き恥晒し這い蹲ってでも生き延びようなんて考えたこともなかったのだ。

でも、それでも生きていたいと思った。愛していたいと思った。

それなら何にでも耐えられる。

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精神論というものは嫌いではない。
すぐ諦めるやつよりかは茨の道だろうと突き進むやつが好きだ。
どんな屈強でも笑顔を絶やさない、そんな強さが彼は好きだ。

何処か少し。何処か少しだけラスティと同じ瞳。

「好きにせい。約束は守る。ただし、面倒を見るのは組織までの護送までや。」

「構わないわ。」

かくして、２人の旅路は始まる。帰り道など、わかりもせず。