ENo.928 蒼月樟葉

TURN-6

「はぁーしっかし逃げ足のはやい肉だったなぁ」

夜空を見上げながら戦闘を思い返してひとりごちる。
肉だなんて貴重だから食べられる程度に残すのも中々難しく、
結局料理の技術さかレコットが自分の分だけちゃっかり確保するだけに留まった。
あの肉は誰かの食事になるのだろうか、あぁ食べたいなーおにく食べたいなー。
しかしこの世界、アンジニティの基礎は以前居たFalseIslandとほぼ同一である。
つまりそういった敵から手に入る食料の多くの末路は―――。

「勿体無い……様な……そっちのが有益な事のが多かったから……仕方ないか……。」

視線を手へと落とす、先程からちまちまと作業しているのだがやはり手だと綺麗に行かない。
何をしてるかって？
細かく刻んだ葉を薄い紙で巻いているのだ。
まぁ雑なりにも巻けたので仕上げに巻紙の端を舌で舐めくっつける。
そしたら乾かすために軽く振る。
これでとりあえず完成、片方の端から溢れてる葉を整えすこし潰す。
こちらが吸口だ。
ちなみに葉はおっさんからパクって、巻紙はブランクカードを薄く剥がしたモノだ。

『全く手癖の悪い』

「まー元シーフですから」

ははは、と笑って手巻き煙草の吸い口をくわえる。
ポケットからジッポーライターを取り出す、浮き彫りのような狼の装飾が施されたそれは蒼月家一族に渡されるモノだ。
これ一つで元の世界の一部界隈では身分証代わりになる。
このジッポライター一番の特徴は装飾と思われがちだが実は点る火こそ真の特徴。
赤の混じらない青い火、世界の理にすら介入を許さない。
そういった意味が込められている……だったかな？
その青い火はこの否定世界でも変わらず青く点る。
そんな火も他に燃え移れば赤く変わる、煙草の先には赤い火が点る。
特にこれらに感慨は無い、私には無関係の意志だから。
一族だからといって別段責任ある立場でもないし、所詮落ちこぼれ。
深く煙を吸いこみ、吐き出す。
吐き出された煙、煙草の先から流れる煙、それぞれ風に吹かれ同じ方向へと漂っていく。

「はぁー」

煙草を咥え直し、デュエルディスクにセットされているデッキから１枚カードを引く。
―――天翔束子のカード。
どうやら相手の攻撃射程がそこそこあるため後列に配置されることは思っていたよりデメリットではなかったようだ。
グレムリンの様に罠ばかりしかけてしまう悪癖があるカードよりは確実に仕事をしてくれた。

「まぁでも、喧しいから見張りには向かないね。
　なんかどっか飛んでっちゃいそうだし。」

２枚目。
―――グレムリンのカード。

「流石に二日連続落とし穴オチはないわー二重の意味でそのオチはないわなぁ」

３枚目。
―――ブラウニーのカード。
実戦ではまだ一度も使ってないがいつの間にか読み取れるようになっていた。
前列に召喚される小人、耐久力は高いとは言いがたいが全うな意味では束子よりは使えそうか、若干コストが高いけど……。

「うーん……？」

どうやら２枚一緒に引いてしまったようだ、ブラウニーの後ろに重なっていたカードがある。

―――Summon Minidragon。

「ミニドラかぁ、FalseIslandではそこそこ召喚としては使えてたけど……」

また深く吸って吐く。
ミニとは言えど竜族、そこそこのサイズでそこそこの強さ、そんな印象だったけど……。
今後使えるようにするためにも試しにこちらを召喚してみる？
偶然とは言えこの手に収まったのだ、何か運命的なモノかも知れない。
なんか邪魔そうだったらさっさと外せば良い事だし……。

「ミニドラゴンを召喚！」

ディスクに刻まれたカード配置場所のひとつにカードをセットする。
すると目の前の一部の空間にノイズが一瞬混じり、其処にミニドラゴンが姿をあらわ……あらわす……が。
そこにはドラゴンとは言いがたい、成犬サイズの２足歩行のトカゲが出現した。

「えっ」

思いのほかミニサイズすぎる上にトカゲな事に気を取られている間にセットしたカードが書き換わっていく。
☆２、ミニドラ、前列、火霊力Lv2、Tinder。

『☆２、つまりランク２のモンスターカードです。
　ランクはそのモンスターの大よその強さを表します。
　同時にランクが高いほど強い、という意味です。』

「えっ　これ強いの？　ホントに？」

『強さの基準を設けたのは私ではありませんからお答えできません。』

「……そうか」

まてまて、見た目から判断してはいけない。
これでもドラゴン、トカゲにしか見えないけど、ドラゴンなんだ。
いやもうどう見てもトカゲだけど！ドラゴンだし！
火霊力って事は火属性だし！
Tinderだって火属性だし！
ファイアドラゴン的なのの！小さい奴だよ！これは！
混乱し始めた頭を解消するために大きく煙を吸って吐き出す。
ほとんど深いため息だ。

「ミニドラ、Tinder」

指示すると技を使う。
ミニドラは口をあけるとその前方に僅かな火を放つ。

「うーん、回復能力持ちだから見た目よりは頼れる気もするし、
　下手な技使うよりはマシなのかなぁ……。」

こうして戦闘外では技を使うタイミングを指示できる事がわかっていた。
しかしカードそれぞれの性格があるのか、グレムリンは指示してないのに勝手に穴を掘り始める。
まぁ生来悪戯好きなのだろう、そういう妖精だもんしかたないね。
ちなみに戦闘中は指示だしてる暇が無いので勝手に動いてる。
別に仲間を攻撃したりはしないみたいだし問題ないね。
大分短くなった煙草をミニドラの方へと投げる、地面に落ちていくそれを指指しながら

「ミニドラ、Tinder」

ミニドラが発した小さな火が短くなった煙草に見事命中し、その残骸である灰は風に揺られながら散り散りに着地した。
少し風が強くなってきたかな―――。
流石に今の服だと寒さを感じる、どうしてこんな薄着なんだ私。
というかこれ明らかに布足りてないよ、横から見たら大変な事になってるし。
今は髪下ろしてるからいいけど背中とかほぼ剥きだしだからね？
なにこれ！おかしい！私はこんな変態チックな服着ない！
私の好みじゃないし！まぁ動きやすいっちゃ動きやすいけど！
なんなの！もう！だめだろ！痴女か！いや……なんだ！？
流石に寒くなってきたしそろそろまた衣替えも考えないと、でも布は減らせても増やせないのがつらい。
どこかで布の調達か、いっそ他の人から服を奪うというのも良いんじゃ？
追いはぎの如く服を剥ぐ、それだ！天才的すぎる！！
ヒャア！デュエルだ！！

「寒っ　ミニドラ！」

呼ぶと近づいてきたミニドラを抱きかかえる。
さすがに火属性、ぬくい、こいつの名前はカイロ、そう、今決めた。
比較的体温が高めな自分だけど自分の体温なんて感じられない。
自分の事に無関心……とは違うと思うけれど。
私は私を感じられないから、誰かが私を感じていてくれないと、私はそこに存在していられない。
他の誰かが居て初めて私がそこに存在する意味があるんだ。
隣に誰も居ない、それは寂しい事、だけど私にはそれ以上に―――。

「ギャウ」

ミニドラが苦しそうに声を上げる、どうやら無意識の内に力を入れすぎていたようだ。

「あー　ごめんごめん、苦しかったね」

力を抜いて触れているだけのように、嫌ならば直ぐに逃げ出せるように。
動物の扱いは慣れてる、小さい頃からまだ人間に変化出来ない子供達とは良く遊んだ。
私が本当の15の頃、そうしてじゃれあった奴らはもう私を追い越して、今じゃ立派に構成員だ。
そいつらの子供とまた遊んで、それが又育って、その子供と遊んで―――。
不老、と言うのも楽じゃない。
私だけを取り残して世界が進んでいく。
私の知る中で私と同じ時間を持つ存在は二人居る。
進んでいく時の中で私を停止させた存在―――imitation。
そしてそのimitationと敵対し、私の双子の弟をimitationとの戦いの道具に仕立てあげた―――。
二人は少しばかり奇抜な外見だがどちらも人間の姿をしていた。
彼らは自分たちを神だと言った。

「メリア、居る？」

『御用でしょうか』

「用って程じゃないけど　imitationは今何してるの？」

『私が伺っているのは、あなたの居るアンジニティ、そこに隣接するセルフォリーフ、
　それらとは別の世界で何かしている。という事だけです。』

「不安じゃない？」

『護衛役である私よりも強いマスターに対し不安など感じません。
　感じるのは不満だけです。』

「ははは　アイツに仕えてる人達は皆そう言うね……。」

imitationは無数にある世界、それらの世界全てから等距離にあるという裏界と呼ばれる世界に自らの本拠地を置いている。
其処には人間、亜人、動物、化物、怪物―――。
無数の存在が各々自由に暮らしている。
共通しているのはimitationに保護されたり、連れてこられたり、生み出されたりしたモノだ。
大なり小なりimitationに対し感謝をしており、中には自分たちでそこを護る防衛隊を組織したり。
imitationの身の回りの世話や知能の低い存在の飼育等を行う侍女達も居る。
そうした特に自我の強いモノ達は皆口を揃えて言うのだ。
力不足は自覚しているがもう少し我々を使って欲しい、と。

「私にはそこまでしたい相手には見えないんだけどなぁー」

『……マスターに関係する人物で私が嫌悪感を抱く者が二人おります。』

「ホムンクルスさんが珍しいね。」

『何時までも反抗的なあなたと、愚かしくも父親に歯向かうXaos様です。』

「そりゃ私も光栄だよ。」

私は苦笑した。
けいおす、と言う存在とは出会った事が無いが、仲良くなれそうな気がした―――。