ENo.44 黒鷺天地

それは一年前の、俺の誕生日に起きた出来事である…。博士から電話をもらい、すぐに博士のいる研究所へと向かった。博士の様子から何か大切な話でもあるのだろうかと俺は予測していたが、まさにそれが後に現実となろうとは思いもしなかった。
途中、俺の友人・公総誠司と出会い彼もまた暇つぶしという理由で共に研究所に行くことに。念のため博士にも連絡をすると『特に問題はない、彼にもいずれは話す予定だった』とのこと。誠司も博士のその言葉に何か妙なものを感じていた。
博士の研究所につけばいつものように入口近くで俺達を待っていて、ドアを開いて研究所内へと招く。いつもと変わらない研究所内…、ゆっくりとソファーに腰をかけると博士は白衣のポケットから一つの小さな箱をテーブルの上に置き、俺の目の前へと寄せた。箱を開けばその中には光を発した蒼色の水晶体が入っていた。そしてわずかに箱は、カタカタッと動いている様子だった。

「博士…、これって確か部屋に置いてあってあの箱ですよね？」
「なんかカタカタ妙に動いてるけど、何なんだよこれ？おっちゃんが呼び出したのにまさかこれが関わってるのか？」
「その通りじゃ。二人には決闘着について以前、話をしたことがあったのぉ」
「はい…。ということは…、まさかこれは……」

スフィア…、決闘着を封じるための器の存在。器に秘められた力を解放する時、決闘着は使用者の身を包み込み、その姿を現す。
博士が目の前に置いたこの蒼い水晶体も、決闘着の封じられたスフィアの一つ。こうして光を発し、カタカタと動いているのも何かに共鳴しているかのようにも思えた。俺はそこで博士がこれから何を告げようとしているのか、それが大体わかってきた。

「博士…、俺をこうして呼び出したのは……」
「君の考えているとおりじゃよ…。天地君…、君にこの決闘着を託したい」
「……やっぱり、そうですかっ」
「ちょっと待てよおっちゃん…、それはつまり…、天地にあのバケモンと戦えってことかよっ……！」

博士のその言葉にに、その時の俺は動揺していた…。誠司は思わずテーブルに思いっきり両手を叩きつけ、博士へと怒りの眼差しを向けていた。
博士が俺に決闘着を託すこと…、それは俺にあの獣を倒すための力となってほしいということ。こうしてスフィアが共鳴しているのであれば、おそらくその資格者は俺になる。俺が研究所に訪れた時に、同じような共鳴する様子を博士は目にしていたのだろう。だからこうして、俺に箱の中身を明かしたのだ…。

「…………」
「否定しねぇんだな……」
「無理は承知じゃ…、当然強制もするつもりもない。じゃが私は…もし天地君がその力で戦うことを決めてくれるのならば、スフィアを君に託したい。異世界からやってきたあの獣は以前よりも強さを増やしておる。フォーススーツの強化も、量産も、未だ追いつける状況ではない。今のままでは被害が増えるのも時間の問題じゃ」
「だから天地に命捨ててこいってのかよ！？ふざけんなっ、資格だろうがなんだろうが天地はまだ普通の学生だっ！」
「誠司……」
「天地、お前も何か言えよっ！突然呼び出されてこんなもん託されて命かけて戦いに行けだって？冗談じゃねぇってんだ…！」

この決闘着の資格者が本当に俺なら…、俺はこの街を本当に護れるのか…。この力でこの街を護るのか、それとも…普通の学生としてこれからを生き続けるのか、俺は迷っていた……。戦いに出ることは当然死のリスクも大きい…、痛みも辛さもたくさん味わうことになるのだろう。しかしここで仮に普通の学生としての生活に戻るとしよう…、もし対抗するための力が失われ、本当に街の被害が壊滅的なものとなれば…俺を育ててくれた商店街の人たちが死んでいく。そして俺も…やがてその命を奪われることになるだろう。
街の人々は必死で今も対抗する術を生み出し、そしてあの脅威と戦ってきた。大切な人たちを…、大切なこの街を護るために…、その命を燃やしてきた人達もいる。
大切なものが失われる悲しみは、俺もよくわかっている。幼い頃に母さんを失い、辛い思いをしてきたのだから……。けれどそんな俺を商店街の人たちは支えてくれて、家族のように俺に笑顔を取り戻すために考えてくれていた。これ以上負担をかける訳にはいかない…、だから俺はその優しさを支えに立ち上がることができた。だから…今度は俺が、みんなの力になりたい…。出来ることなら手を伸ばしたい…、けれど腕は確かに恐れて震えている。俺にこの力を使う根っからの覚悟があれば…、俺は…、俺はッ……！

『番組の途中ですがここで臨時ニュースです。先ほど午後一時四十分…、麗入茄商店街上空から異型の獣の出現が確認されました。獣は以前現れたβ型と呼ばれるものと同じもので、十体ほどの数が確認されています。フォーススーツ部隊が全力で進行を阻止していますが、そのうちの三体が攻撃を退け、現在商店街に降下。付近の市民は商店街近くの麗入茄高校の体育館へと避難を行っています。待機していた部隊が獣の活動を阻止するも、一体を相手に複数人で対処しなければ難しい状況となっています。また、フォーススーツ部隊の人数が現在不足しており、苦戦を強いられている状況です――』
「「――ッ！？」」

ラジオから流れる突然の臨時ニュース。とうとう時が来たのか、商店街に獣達が降り立ったようだ。下手をすれば体育館まで向かっていく…、そして一般市民にも手を出すだろう。以前同じ敵が現れた時も、一般市民が重傷を負って病院に搬送される事態が起きたこともある。そして今回は規模が以前とは違う。このままでは最悪の事態が現実のものになるのも時間の問題かもしれない。
もうこれ以上…、誰かが苦しんだり、涙を流したり、傷ついたりするのはもう嫌だ。この力で何かできるかもしれないのに…、ここで何もしないままじゃ大切な人たちがどんどん傷ついて、涙を流して、苦しんでいく。だから俺は…、そんな思いはもうさせたくはないっ！俺は覚悟を決め、目の前の蒼のスフィアを手に取った。

「天地ッ！？」
「ごめん…、誠司。博士…、スクーター借りますっ」

俺はスフィアを手にして立ち上がり、走り出した。勢いよくドアを開き、玄関にかけてあるスクーターの鍵を手にして研究所の外へと出て行く。外に置いてある古いスクーターに鍵を挿し、エンジンをかける。ヘルメットを被り、ハンドルを握れば、俺の手を誠司が掴む。俺の手を掴む力のはいった誠司の手…、俺はそっと誠司のいるほうへと向いた。

「これから何処へ行こうとしてるのかわかってるのか！？その蒼いたまっころに実際どんなもんつんでるか知らねぇけど、お前が死んだらお前を思ってきた皆はどうなんだよ！？」
「……わかってるからこそ、行かなきゃいけないんだよっ。例えどれだけの力があるかわからないとしても…、それでも可能性があるのなら…」
「行っても何も出来ないまま終わるかもしれないんだぞっ！？」
「何も出来ないまま終わるつもりはないよ。それに博士がこうして貴重なスフィアを託してくれたんだ…、それは博士が俺を信じているからこそだと思う。そうでなければ…最初からスフィアを託すなんてことは考えない。それに博士も…、俺に託すべきか悩んでいたはずだっ。あんな様子の博士を見たのは…本当に初めてだもの。だから俺は…、博士が託してくれたこの蒼のスフィアを信じるッ！」
「馬鹿野郎……。……だったら、お前がどんだけやれるか…俺が全部見届けてやるっ。けどもし万一のことがあったら無理にでも連れて行くからな。それだけは覚えとけっ」
「誠司……。……、わかったっ」

誠司は近くのスペアのヘルメットを被るとスクーターの後ろの席に座り、彼もまた一緒に行くことを決めた。俺がこの力で本当にこの街を護ることが出来るのか…、本当にこの蒼のスフィアに護ることの出来る力があるのか…、それを見届けるために。誠司を後ろに乗せ、俺はスクーターを走らせて商店街へと向かった。今の俺に出来る最大限のことを成し遂げるために…、大切なこの街を…大切な人達を護るために。そして向かっていく俺達の背中を、博士は静かに見守っていた。

本当にごめん、誠司…。それと…、ありがとうっ。
博士…、行ってきますっ。

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商店街に異型の獣が降りてから十数分…、既に数人ほど部隊の人たちは獣によってその身を傷つけられて倒れている。救護班が到着すればすぐに倒れている部隊の人たちのもとへ。部隊の人たちのうち一人は腕を食い千切られ、大量に血を失っている。食い千切られた腕の止血処置を施す中、敵の気をそらすように残りの部隊の人たちが必死に戦いを続けている。異型の獣は三体とも生きていて、部隊の人たちは少ない人数で必死にやりあっている状況…、今のままでは明らかに部隊のほうが不利だ。
ここで俺達は商店街に到着し、俺はスクーターから降りればヘルメットを外して誠司に預かってもらう。彼もまたいつもと異なり真剣な表情でこちらを見守っている。獣は俺の気配に気づくとすぐに首をこちらに振り向かせ、ギロっとこちらを睨んでくる。

「（よし…、相手はこちらを次の標的に選んだ…！）」
「無茶はするなよ…、天地」
「大丈夫だよっ…、こうして見届けてくれる友がいる。なら今日は…なんとなくだけど、負ける気がしないよっ！」

右手にぐっと掴んだ蒼のスフィア。これが果たしていかなる力を俺に与えてくれるか…、その時の自分はまだ知る訳もなく。しかし博士が託してくれたこのスフィアの力を俺は信じ続け、目の前の異型の獣へと足を進める。戦いとは実に恐ろしいものである…、しかし時として戦わなければならない時がある。自分にとっての大切なものを護るために俺は前へ足を進める。恐れを捨て、他が為に俺は…この刃を振るう。力を貸してくれ…、蒼のスフィア！
…その時である。俺の思いに蒼きスフィアが応えたのか、スフィアは突然と光の強さを増してまぶしく光りだす。身体中にも不思議と力が湧いて…、次第に身体が軽くなっていくような感覚があった。

「―っ！？」
『GURURURURURU……』
「この光は！？」

蒼く美しく輝く光…、スフィアに秘められた蒼きタキオンの光。蒼きタキオンは俺の身体を包み込むと、短い時間で身体を包んだタキオンは使用者にあわせた姿かたちへとその姿を変えていく。光が粉のように散りゆけばあらわになっていく蒼き衣の姿。タキオンから生み出された蒼の決闘着…、タキオン・オブ・アズール。これが…、俺の決闘着。託された思いは、こうして形となって俺と一体となった。

「これが……、決闘着……？」

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■今回のちっぷすのような何か

・公総誠司

前期の同名キャラと似ているがあくまで別人である。
天地とは高校一年の頃からの友人で、頼れる兄貴分のような存在らしく、彼にはよく助けられているらしい。
ちなみに料理が得意のようだ。