ENo.3205 ゴブリン・ワーナー

罠師「くっそ臭ェェェェなァ、オイ！！！！！」

砂浜の波打ち際で、ゴブリンがじゃぶじゃぶと宝箱に海水をぶっかけている。

罠師「くっせえ。くっせえ！！　鼻が曲っちまうじゃねェか！」

宝箱「………………」

ぷんぷんと香るアブない果物の匂いと、その匂いに中てられて
宝箱の中に吐き戻した吐瀉物とを海水で洗い流す。

罠師「このくっそ宝箱が、手間ァかけさせやがって面倒くせえェなァ」

悪態を吐くゴブリンの足元には、ごろごろと野菜や果物が波うち際に放置されている。
どれも宝箱の中に詰めた物を洗い流す為に一度取り出したものだ。

罠師「ったく、ここンとこ、妙にツイてねェとくらァ。

　　　　街ィ出て暫くは悪くねェ道行きだったが、
　　　　ＤＯＱにゃァ物獲りされるわ、
　　　　　　　　　草賊どもにゃァ追いかけ回されるわ

　　　　　　　　　白石を拾ったかと思やァ石英だわ……」

ぐちぐちとネチっこい愚痴を零しながら、宝箱の蓋を開けてごしごしと内側を荒く洗う。

罠師「……くっせッ」

宝箱を洗っていた襤褸切れにデカっ鼻を近づけて顔を顰める。

罠師「グゲェ……このまま匂いが落ちねえんだったら、いっそこのまま置いてくかァ？」

宝箱「……………」

いぎぎ。と、ゴブリンはぎざぎざの歯を噛みあわせて鼻の上に皺を寄せる。
嫌そうな顔をして、宝箱の中を覗きこむ。
　

罠師「あーあー。中がびっしょびっしょで染みになっちまってらァ。」

罠師「ふん。木板は土ン中ァ埋まってたわりにゃァ腐ってもいねェみてェだが、
　　　　……あーあ。なんだ、ここらァ、ニスが剥げてんじゃねェか。」

罠師「こっちはこっちで、装飾の周りになァんか、焦げ目がついてやがるし。
　　　　箱ォ壊されたら宝箱の意味がねェじゃねーか」

罠師「ったく、手間かけさせてくれるぜ」

宝箱「……………」

愚痴をぶちまけながら、膝の上に宝箱を乗せる。
服が磯臭い海水に濡れるが、ゴブリンにとっては今更だ。

罠師「ふん。よい、せっ！　……っと」

板が腐っては使えるものも使えなくなる。と、荷物袋から
濡れていない襤褸切れを一枚取り出し、
ゴブリンは、宝箱の中に手をつっこみ荒っぽい手つきで底を拭いていく。

罠師「くっそゲロ臭ェわ、くそ七面倒くせェわ……」

ゴシゴシ

罠師「オレ様は役に立たせるためにてめェを引っ張ってきてやってンだからな？」

ゴシゴシ

罠師「……まだくせェ……ってェか、このシミ、やたら頑固でやがる」

ゴシゴシ

罠師「………………」

ゴシゴシ

宝箱「………………」

罠師「………………」

そのうちに、ゴブリンも悪態を吐くのに飽きたのか、
黙々と宝箱から悪臭をこそぎ落とす作業を続ける。

　　　ざざぁ……

　　　　　　　　ざざぁ……

誰から返事があるわけでもない故、ゴブリンは黙々と手を動かし続け、

──宝箱を洗いはじめてから、二時間後

チカッ

罠師「………んァ？　……なんだァ？」

ふと、ゴブリンが、途中で宝箱の中身を洗う手を止めた。

罠師「あァン？　今、宝箱の底でなァんか光った……ような……」

罠師「…………」

だいぶ磯の匂いで誤魔化されてきた宝箱の内部を覗きこむ。
砂っぽい底の方をざりざりと指で擦る。

罠師「なんだア？」

最初に見つけたときには気づかなかったが、底の方に模様らしきものが描いてある。

罠師「底のこいつァ、×マーク？　いや、十字架……かァ？」

罠師「……？　なァんだってこんな襤褸箱にこんなもんが描いてやがんだ」

罠師「……ああん？　それにこの周りの形、ただの染みかと思ってたが……」

罠師「こいつは……」

罠師「なんかの、地図……か……？」

⇒To Be Continued......

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