ENo.3016 滝宮姉弟

ハネズ「・・・ふぅ、片付きましたのね。」

この地に蔓延る巨大竈馬にも慣れてきたものです。

あれが思いっきり抱きついてくるのを避けられれば、の話ですが・・・。

外見が外見なので、落ち着いて避けるのが難しい生物なのですよね。

ハネズ「直線的に飛んでくるだけなので、割と避けやすいはずなのですが難しいものですの。」

さて、レディカは今日も怪我で療養しているようですね。

元々は普通の女の子でしたし、一朝一夕でまともに戦えるわけはありません。

私達双子は昔に戦闘経験があるので、ある程度は動けるのですが・・・。

スオウ「怪我は大丈夫か？いくら望んだからといって、レディカにとっては不慣れな戦闘だ。無茶は・・・。」

レディカ「あたしも少しずつ慣れなきゃいけないんです。戦闘も、この世界にも。」

スオウ「・・・そうか。だが、限界は見極めるんだぞ？無事に脱出するにはそれらも必要だ。」

レディカ「はいっ。い、一緒に脱出するなら、大怪我なんてできませんからねっ。」

スオウ「ふむ・・・レディカ。」

レディカ「な、なんでしょう？」

スオウ「いい顔をするようになったな。」

レディカ「え、あっ・・・み、皆さんのおかげですからー！あたしなんてまだまだ！」

・・・二人は二人で仲がよろしい事で。

スオウは良くも悪くも、男女を分け隔てなく対等に接しますからね。

とはいえ、険悪な関係で旅を続けるよりは精神衛生上、とても良い事です。

しかし、仮にこの状況下で恋愛関係にまで発展してしまうと、他のメンバーとの間に―――。

スオウ「ハネズ、どうした？」

ハネズ「・・・はっ。なんでしょう？」

スオウ「いつになく難しい顔をしてたぞ？何か問題でも発生したのか？」

ハネズ「ふふ・・・き、きのせいだと思いますの。」

スオウ「そうか。それならいいのだが。」

う、うーん？

最近、ちょっと些細な事で心を乱されてますね？

リビングドールだった頃はこんな事もなかったのですが・・・人間とは業の深い生き物なのですね。

男女分け隔てなく愛する、それが昔の私だったはずっ。

少し、気を引き締めないとですね。

ハネズ「スオウ、そろそろ移動を検討しませんか？」

スオウ「移動？」

ハネズ「ええ、この地で身体を休めながら留まっている方が安全ではあるのですが・・・食料や物資の補給も必要です。」

スオウ「ふむ、潮時か。ここの竈馬にも嫌気が差していたところだ。」

ハネズ「この双眼鏡で見る限り、東の方向に街らしき建築物も見えますしね。一気に山岳を越えて東の街へ向かうべきでしょう。」

スオウ「距離はどれくらいだ？」

ハネズ「直線距離でもここからタルタスへの半分程度の距離と推測されますの。 2〜3日あれば到達できるのではないでしょうか？」

スオウ「なるほどな。補給にタルタスへ引き返すよりは現実的な案だ。休憩はできんが、俺達も少しずつだが戦闘にも慣れ始めている。大きな問題でもないだろう。」

ハネズ「山岳を越えた先の生物はここより強くはなりそうなのですが・・・背に腹は変えられませんね。」

東に移動するほど、強い生態系が形成されているように感じます。

しかし、移動ルートはほぼ東のみ。

無茶を承知で行軍するしかありませんのね。

少しずつ、手持ちの装備も強化はされてきてはいます。

対処できる・・・そう信じて移動しましょう。

スオウ「・・・ところで、この双眼鏡はどうしたんだ？」

ハネズ「昨夜、いい感じのガラスと粗大ゴミが落ちていたので作ってしまいました。」

スオウ「簡単に言うが、レンズなんて加工が難しいはずなのだがな。」

作れてしまうものは作れてしまうのですよ？

直接的に旅や戦闘の手助けになるようなものはなかなか作れませんけどね。

戦闘関連は素直に己を鍛えたほうが早いでしょう。

・・・もっとも、造形と構造が比較的単純な防具くらいなら私の手で作れるとは思いますけれど。

スオウ「・・・ハネズ。」

ハネズ「なんでしょう？」

スオウ「この世界は別世界の何かに『否定』された者達が集うと聞いている。」

ハネズ「そのようですね。」

スオウ「俺達は誰かに否定されたのだろうかね？」

ハネズ「そうかもしれませんし、偶然迷い込んだだけかもしれません。しかし、否定されるだけの要因は持っているのは確かですね。」

スオウ「俺達二人は禁忌とされる人間への転生をしているし、その世界に反する律に抵触している。レディカは知らないところで家族に否定されたのかもしれん。レニーとクロネはわからんがね。」

ハネズ「・・・何が言いたいのです？」

スオウ「各々、来るべくしてこの世界に来たのかもしれないと思ってな。杞憂ならいいのだが・・・。」

ハネズ「仮にそうだとしたらどうするのです？」

スオウ「否定された者を収容する為の世界なのだろう？つまり、世界は俺達を外に出すつもりはないということだ。」

ハネズ「ならば、この世界の律にも反してしまえばいいのですよ。」

スオウ「・・・！」

ハネズ「今までも何でもアリな人生でしたからね。世界の常識に囚われるなんて馬鹿馬鹿しいのです。」

スオウ「ふ・・・ははっ。ハネズらしい悪くないアイデアだ。」

ハネズ「仮に戻れぬ世界だとしても、一人じゃありませんからね。寂しくも辛くもありませんのよ。」

スオウ「そうだな。少なくとも、ハネズと一緒ならば退屈はしそうにない。」

・・・しかし、この世界の一部が破壊され、隔絶されたこの土地から出られるとの噂は流れています。

仮に私達は出られたとしても、同時にこの世界の無数の無法者も外に出てしまう事になってしまうのですよね？

それ以前に、一体なぜこの世界の一部が壊されたのか。

同時になぜ外の世界から大量に人が飛ばされてきたのか。

このアンジニティの混乱を求める人物の犯行でしょうか・・・？

もしくは、外から何らかの方法で否定された人を無作為に呼び寄せ、あえて嘘の『破壊された』という噂を流し、大量に扇動している可能性も・・・？

扇動すれば本当に壊す輩も現れるかもしれませんし、一人よりは大量の人の方が捜索・破壊活動は行いやすいものです。

・・・様々な可能性が多すぎて今は判断できませんね。

ハネズ「今は次の街を目指しましょう。そこで何らかの情報も得られるかもしれません。」

スオウ「ああ。急ごう・・・と言いたいところだが、またお客のようだ。」

眼前にいるのはいつもの巨大な竈馬・・・とおにく。

竈馬も食料が足りないのは理解できますが、素直に隣のおにくを食すべきだと思うのですけどね？

とはいえ、昨日戦った感じではおにくも手強いお相手でしたので、無理に手を出さずに組んでいるのかもしれません。

面白い世界ですのね。

ハネズ「・・・連日、懲りない生き物ですのね。」

スオウ「来るならその都度、蹴散らすまでだッ！」