ENo.2229 ヘッセ・ハーマンバルド

タコとまさに食うか食われるかの戦いをしたが仕留めそこねた。
逆にこっちが食われかける失態を見せるはめになって、思い出すだけでぞっとする。
まだ体にあのタコの粘液が絡んでいるような気がしてあんまり愉快な気分じゃないな。
近くの街に駆け込んで事無きを得たが、ずいぶんみっともない姿だったので不憫に思われたのか
近くの湯場を快く貸してもらえた。大いに感謝する。

ここエスタの街はのんびりとした気風で過ごしやすそうな穏やかな街だ。
古めかしいつくりの街並みは味があってなかなか面白い。
残念ながら懐かしさを感じることは出来なかったけど、こんな街も悪くはない。
（俺の中に郷愁の念と呼ばれるものはない、なんでだろうと自分でも不思議に思うが
たぶん自分の所以がわかってないからなのかもしれない）
幾つか必要なものをこれまでの依頼で得た金で取引する。
それから今後の行き先を決めるための情報を得るために噂話から確実な筋の話まであらかた聞いてまわる。
ここから南や東に進むのは多くの冒険者の間でかなり厳しいらしい。
街々で得られる依頼も手強く危険だという話もいくつか聞いた。
さてどうしたものかと考えこむ。

ここ最近の調子じゃ、俺はもっと慎重にならざるを得ない。今回は助かった、だが次があるかはわからない。
例外がなければ誰の命もひとつきりで俺は”たまたま””運良く”生きながらえている。
過去相棒と引換に得た命が幸運なのか未だにはっきりと答えられないが、
生かしてもらった命を無駄にすることも旅を止めることも俺には出来なかった。
どちらにしてもあいつに顔向けできないような気がして。

初日の順調さが今は夢のように思われる。だけど懐かしがっても仕方ない。
地図と手持ちの情報を照らしあわせて大体の道筋を決める。
本音を言えばもう少しこの街で体を休めたかったが、厳しい行程になることを考えると一度休めば進めなくなってしまうような気がして早々に街を出た。
少し空気が冷えてきた気がする。体調に注意しないとまずそうだな。