ENo.217 ルギウス

この間に敗北してから　どうにも“安定”しない。
ならば、単純に力を得てしまおう―――そう考えて、夢の中に誰かを誘いこむ算段でわざわざ場所を用意した。
「さて、今宵は誰と出会えますやら……」
獲物が網にかかるまで……夢の中で祈りを捧げる。
どれくらいそうしていただろうか？
時間の概念が薄い場所なので意味は無いのだが、声が聞こえた。
「ここは…一体…」
なんたる偶然か、招待されたのは以前に少しだけ交友のあった少年だ。
確か名前は―――黒鷺天地。
見覚えの無い空間に迷いこんだせいだろう、あたりを伺うようにしている。
折角の来客だ、声をかけるくらいはしなければ。
「おや、いらっしゃい？」
「んっ…、ルギウスか。君もここに？
　というかここは何処なのか知ってるかい？」
「ここは、夢や幻ですよ……現（うつつ）以外の“どこか”です」
答えながら祈りを捧げると、私の懐から幾つか光球が現れて周囲に浮かぶ。
「つまりルギウスも正確にはわからないってことでOk？
　まぁそれはともかく…、一体いつの間にこんなところに来たんだろう…」
あたりを見渡すが出口らしいものは見つからないのだろう。
少しだけ落胆した様子が見える。
「まぁ、正確に把握してなくても出る方法は簡単です」
光球が動き始める、それが徐々に早くなっていき―――。
「私に勝つか、死ねば出れますよ？」
迷いこんだ少年天地に襲いかかる！！
「おっと！」
天地はひらりと攻撃を退ける。
「つまり…、勝てばいいわけだねっ」
そう言いながら、天地が蹴りを仕掛ける。
「死んでもよろしいのですがねぇ？」
蹴りを避けて光球に魔力の鎖をつける。
「さぁ、これはいかがですか？」
そのままフレイルのように振り回す。
「残念だけどこっちは死なすつもりはないんでねぇ」
決闘着解放！装着すればすぐさま召喚した武器――確か、ゲッコウブレードという名前だった――で光球を弾かれる。
どうやら、先ほどの蹴りは戦闘準備の時間を稼ぐためだったらしい。
「とにかくまずは勝つ！話はそれからだ！」
天地の刃がまぶしく光り、こちらに向かって光が向かってくる。
「いやいや、本気でやってもらわなければ困るのですがねぇ？」
力に逆らわずに、後方に飛ぶ。
斬撃効果は無かったようで、ダメージは避けられた。
「殺さない、死なない　ではこの空間からは一生抜け出せませんよぉ？」
そういう風に“作った”のだから。
魔力の鎖はどんどん長く、どんどん早く―――。
ニヤニヤと獲物を見据え
ニタニタと追いつめるように、フレイルの一撃を見舞う。
一撃が直撃するも、何とか体勢を立て直される。
「あいにくただそっからでるって理由だけで君の命を絶つ真似は死んでも…、嫌だねっ！」
天地が再び一撃を放つ！
それを難無く避けて、告げよう。
「……では、こうしましょう……あなたを倒して私が出て……
　あなたの恋人もあなたと同じ場所に送って差し上げましょう」
先程、フレイルが当たった場所からジワジワと体を蝕むような呪詛を送りこみ……。
『神よ、我が祈りを聞き届けたまえ……
　我に仇為すモノに災いを！！』
その呪詛を基点に、さらなる呪詛を送りこむ。
呪詛は呪詛を呼び際限なく大きくなっていくのだが……なお天地は立ち上がる。
「だったら止めてやる…、どんだけボロボロになっても！」
ただ誰かの命を奪う為に刃を振るうことはしない。
それが彼なりのやり方だ。
どれだけ回避されようと、どれだけ無駄な攻撃だろうと、なお剣を振るい続ける。
しかし……剣が当たると、そこから私は二人に別れた。
「……その覚悟と意思は立派ですねぇ。
　しかし、肝心の実力が足りないですよぉ？」
『ええ、その調子ではいつか力及ばずに無駄死しますねぇ？』
「さぁさぁ……」
『さぁさぁ……』
「そのままでは―――」
『死にますよ？』
戯言で心を惑わし、不規則な軌道のフレイルで叩く。
そして当たった場所から呪詛を送る。
まるでそれを輪舞曲のように繰り返す。
徐々に傷ついていく天地の身体…、それでもなお立ち上がる。
たとえどれだけ力不足であろうと、それでもまだ諦めない。
生きている限りはまだ…諦められない、とでも言うのか。
だとすれば、私の取る手段は―――
「……ああ、そうだ。
　あなたの恋人をそちらに送る前に色々と楽しませてもらうとしましょうか」
ニタニタとした笑みを浮かべる。
「絶望に落ちる顔を見るのは、非常に楽しそうですしねぇ……？」
―――怒りや惑いを引き出して、心を折ろう。
フレイルの速度が上がる、呪詛の威力が増える。
「っせいああああ！」
その攻撃を退けながらもぶっきらぼうにただ剣を振るう。
剣が当たり、分身の私が消滅する。
「……なんだ、やればできるではないですか」
光球を腕の裾や懐から新しく出す。
数は全部で四つ。
「さぁ、いきなさい」
フレイル込みで五方向からの同時攻撃！
今はそれしか残されてはいないとでも思っているのか、天地は攻撃を退けながらもただ刃を振るう。
こちらの攻撃は全て防がれてしまったが……。
「……まだまだ、足りませんかねぇ？」
飛んだ光球全てに魔力の鎖をつなぎ、フレイルにする。
「ふむ……。
　セルフォリーフであなたと一緒に闘っている方々も楽しんでから神の御許に送って差し上げましょう。
　何、すぐですから寂しくはありませんよ？」
数を増やしただけで、やる事は変わらない。
しかし、彼はどれだけ攻撃を受けようともなおたち続ける。
どれだけ身を削られようと、今はただただ前へ進んでくる。
既に避ける力も失いつつあり、それは絶望的な死への行進だと言うのに。
五つのフレイルによる波状攻撃と呪詛による蝕みでも、神の奇跡による裁きの光でも。
彼は歩みを止めない。
愚直なまでに、剣を振るい続ける。
「……目は死んでいませんねぇ……ギリギリの死を体験したことはありますか？」
「ギリギリなんて…もう何度も経験してるさ…、何度も…。その度に怒られたのは覚えてる…、けど…さすがにこれじゃあ…不味いかもしれない。でも…、それでも選択は一つしか…ない…」
「……本当に、選択肢は一つだけしか無かったのですかねぇ？
　あなた自身で行動の幅を狭めてはいませんか？」
そう思うように仕向けたのは私だけれど。
光球の数をさらに増やして、今度は八つ。
全ての光球が天地を襲い、周囲が閃光に包まれる。
光が収まっても、そこに影は残っていた。
「はぁ…、はぁ…、たとえ逃げる道を…、選んでも…、出口なんて…ない。とっくに戦いは…始まったんだ…、その間に…背中が…がら空きだよ…。それに…、仮にもし本当に君が皆の命を狙うんだったら…、戦うしか…ないだろう……」
ボロボロになってもなおたち続け、彼の目はまだ生きていて……彼の光もなお僅かにも残り続けている。
「そのタフさには呆れますねぇ……まぁ、良いでしょう。
　先に我が神の御許に……っく」
ふいに頭痛がする。
意図しないのに、この世界で構築していた姿がぶれる。
その後に―――女性の姿になった。
そしてどこからともなく声が聞こえる。
『……―――ちゃんは、やらせねぇよ……！！』
フレイルは、トドメの直前で止まっていた。
「まだそんな自我が残っていましたか……天地さん、命拾いしましたねぇ？
　どうやら、今はトドメはさせないようです……また機を改めて、神の御許に案内して差し上げますよ……」
いつも意識している笑みを消して宣言する。
そのまま、空間を解いていく―――

「……後、１歩だったのですがねぇ……」
呟きながら、ゆっくりと目を開くと―――そしたら、こそ泥がいた。
続く？