ENo.2126 バロンケイス

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　ここに来てもう6日目になる。オルゼの街で、仲間と再会したところからか.　　　　しかし前日までと同様、敵の外見に対して気を揉んでいるのは僕だけみ
な。ちょっとしたうっかりで僕は傷を癒す薬を買い忘れていたことに気が付　　　　たいだった。リーシャちゃんは逃げるな食材と叫んでいる。え、君、これを
いた。買いに戻ろうとした所に立ちはだかった生物がなんとも奇妙だったの　　　食べる気か？確かに僕らはこの5日間肉といえるものを口に入れてこなか
で記しておくとしよう。..　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　った。ちょいと腹がなっているのも認めよう。しかし、このグロテスクな光景
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　をそんなに軽く受け流せるのかい？と思考していたが、数回ループした所
　それは身の丈ほどはありそうな虫（後で調べたところ、カマドウマというら.　　　で諦めがついた。僕の思考回路も捨てたもんではない。ちゃんとループ回
しい）、そして肉の切り身だ。この肉の切り身というのはレトリックではなく、　　　避処理は組み込まれていたようだ。偉いぞ。そうだ、細かい事を考えても
そのままの意味。つまり肉屋で売っている、あの肉が跳ねたり飛んだりし　　　仕方が無い。目の前においしそうな肉が転がっている。それだけだ。それ
ているというワケ。リンゴや無機物に命が宿るのを百歩譲って受け入れた.　　　だけなんだと自分自身に暗示をかけた上でチラリと覗き見をし、それを数
僕に向かって放たれたこの一撃は、認識と覚悟の甘さを深々と貫き、精神　　　回繰り返して落ち着いたところで、改めて敵を眺めた。カマドウマはそれ程
を揺さぶった。芯まで響く、良いボディブローだ、これは堪える。仮に僕が　　　　動きが素早くないが、あの逞しい後脚で跳ねたら、その瞬間消えたように
バラバラになったとしよう。するとある時、それぞれの部位に命が宿って挨.　　　見えるかも知れない。油断ならない感じだ。おにくのほうはと言うと、素早
拶を交わしたりダンスを踊ったりするんだろう？あら、左腕さん。あなたの　　　　い身のこなしで手近な物陰に隠れこみ、僕らから距離を取ろうとしている。
リードは最高だわ。やぁ右脚君、君の足運びはいつ見ても素晴らしいよ。.　　　　的の小ささも相まって、一撃お見舞いするのでさえ難しそうだ。特に、僕の
うえ。想像するんじゃなかった。僕の気分は一気にブルー。長年苦手な所... 　　攻撃は一番効果が薄そうに思える。暖簾に腕押し、赤身に鉄球。反してリ
としてきた虫が、巨大な姿となって眼前に迫っている。そんな事はもうどう..　　　ーシャちゃんは風で巻き込めば効果が高そうだし、レヴィ君はやつをさらに
でもいい。僕の苦手意識によって揺り起こされた葛藤は、とてもちっぽけな　　　細かくした上でこんがり焼く事が出来そうだ。二人とも頼りになるね。
物だったと自覚せざるを得ない。虫が飛びついてきたらどうしようとか、そ
ういった懸念事項は頭の隅まで押しやられた。しかしこれはひょっとしたら.　　　　　カマドウマの後脚から繰り出される突進は見た目どおりの威力だった。
良かったのではないか？荒療治である事は否定出来ないが、虫への苦手.　　　見当違いの方向へ飛び跳ねる事もあったが、直撃を受けたリーシャちゃん
意識が払拭されつつある。問題のすり替えに過ぎないのは分かっている。.. 　　とレヴィ君はかなり痛そう。それにしても、後ろで控えるリーシャちゃんに飛
高い適応能力を開花しない事には、ここセルフォリーフではやっていけない　　びかかるとは見上げた脚力。あそこまでは届かないと思っていたのに。単
のだ。そこの所を理解して欲しい。.　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　なる突進と言えど、ここの生物に関して言えば、用心するに越した事は無
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　いなと改めて認識する。幸い僕には一度も飛びかかってこなかった。もしか
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　して、避けられている？嬉しいはずだが、外見で避けられる事が多かった
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　僕は虫にさえそういう扱いを受けるのかと、なんだか腑に落ちない。そうこ

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うする内に的の大きなカマドウマは順調に攻撃を受けて沈んでいった。数
え方は分からないから暫定的にこう言っておこう。残るはおにく、ただ一切
れ。

　素早く、また的が小さいおにくと言えど、三人の包囲攻撃には為す術も無
かった。攻撃を避けてカウンターを仕掛ける事もあったが、カマドウマの突
進に比べれば肉にペシペシと叩かれた所で痛みはさして感じない。ほどな
く、僕ら以外元気に動き回る者は周囲にいなくなった。終わってみればなん
て事はない。やっぱり動いてるのがいけないんだな。できればレアで。それ
が彼、おにくの遺言だ。確かに受け取った。僕らでいう葬儀の指定だろう。
僕はこの一戦でより一層、神経を太くする事に成功した。それも君のお陰
だと、ウェルダンで焼かれたおにくを口に運ぶ。レアだと彼の面影が残りす
ぎてて、ちょっとね。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　BalloonCase

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