ENo.1440 エリヴァルテ・D・レグリーゼ

「神父さまー！エリヴァルテから手紙が着てますですよー！」
　真っ白な鳥が、手紙を大事そうに抱えて、走ってくる。

「お、本当か……って、何で走ってるんだよお前は。」
　伝書鳩が走って手紙を届けるなど聞いたことがない、と、神父が鳥に向かって説教を唱える。

「だって久しぶりなんですもの！セルフォリーフってどんなところなんでしょうねっ」
　満面の笑みを浮かべて、手紙を渡す。

「あっ！まだ見ちゃ駄目ですよ！騎士団の人に手紙を渡したら一緒に読みましょうっ」
　と、もう一枚の手紙を咥えると、大急ぎでその場を飛び去る。

「あいよー。急ぎすぎて怪我するんじゃねーぞ。」

　エリヴァルテが教会を去って3日後に、伝書鳩のシアが喋り始めた。
　伝書鳩はその役割上、目的地や配達内容など、ある程度の情報を覚える必要がある。
　そのため、魔法で知識量を増やすのがここでは普通だ。しかし、会話をするための魔法はまだ実験段階で、
　エリヴァルテが唯一の成功例であり、伝書鳩たちには一切その魔法は使用していない。

「ただいま戻りました！さぁさ！早く読んでください！」
　シア―伝書鳩はきらきらと目を輝かせて、神父が手紙を開けるのを待っている。

「まぁ、待て待て。他の奴らも気になるだろうから、呼んで来てからにしよう。」
「えーっ！じゃあ早く呼びましょう！」

「んじゃ、読むぞ。『拝啓、教会の皆様へ………』」
　いつも食事をする部屋で、神父を囲むように修道士たちが座る。

「……以上だ。なんともつまらない内容の手紙だなぁ。」
　手紙をぽんぽんと軽く叩きながら、神父が笑う。
「そりゃ、まだここを出てから1月もたってないんですし。そんな大きなことあったら大変でしょう。」
　と、修道士たちも釣られて笑う。

「そんなことより、なんで私のことが書いてないですかっ！？」
　シアが大きな声で抗議をする。

「まぁ、お前がエリヴァルテみたいに話せるようになったなんて、あいつは知らないからなぁ。そう怒るな。」
　神父が頭を撫でると、シアはぷーっと頬を膨らませる。

「じゃあ、すぐ手紙を書きましょう！それで私が持っていくのです！」
　興奮したように、ばさりばさり、と翼を震わせる。

「と、とりあえずおちつけ……」
「私が持っていくのです！！」
　先ほどよりも大きな声で、ぐずるように繰り返す。

「わ、わかった。わかったからぐずるな！」
　泣き出したシアの様子には、さすがに呆れて言葉も失ってしまう。

「ほんとですかっ！？　じゃあすぐ書きましょう！さささ！書いて書いて！」
　許可を貰ったと見ると、すぐに笑顔に戻るシア。
　子供のようなそぶりに、呆れてため息をつく神父と、苦笑いをこぼす修道士たち。

「とりあえず、今日は休め。そんなすぐに書けるようなものでもないし、騎士団のほうにも一報入れないといけないからな。」
「わーい！ありがとうございますですっ！では出発に備えておやすみなさい！」
　小躍りしながら自分の巣―教会の上にある鳩たちが休む小屋にかけ戻る。

「まだ昼だって言うのに、よほどエリヴァルテが好きなんですね。」
　修道士の一人が、去ったドアのほうを見ながら呟く。

「まぁ、それもあるんだろうが……ちょっと出かけてくる。教会をよろしく頼むぞ。」
「おや、どちらへ………？」
　深刻な表情を浮かべる神父に、言葉を返す。

「どうしても気になることがあるんでな。ちょっと議会と、それから騎士団にも行くかもしれない。」
　そういうと、神父は速やかに部屋を去っていった。

　夜、ふと目が覚める。
　私はこの間のことを考えていた。

　カラットさんはなぜ、あのとき私を責めなかったのだろう？
　私は逃げ出したのに、なぜ………

　しかし、それを尋ねる勇気はなかった。
　もし我慢していたのだったら、もし………

　少し前からのこともあって、夜は少し怖い。