ENo.987 Cecgii=Verwandt

「へたくそ」
「…………………」

昼下がり。
小さく開かれた窓から入り込む風がカーテンを揺らす。

広めの部屋には品の良い家具が並んでいるが、乱雑に書物や資料が積み上げられている。
黒髪の男が窓の近くに配置されたテーブルにかけ、椅子にだらしなく腰掛けている。
片手には分厚い魔術書を持ち、もう片方の手はイライラと煙草の箱を弄っていた。
長い黒髪に隠れて表情は見えないが座り方同様、全身から気だるい雰囲気を醸している。
部屋の主、ツェツギーだ。

少し離れたベッドのに腰をかけ、
足を組んでツェツギーの様子を楽しげに見ているのが緑青色の少年、ユエ。

ユエの歯に衣着せぬ感想に、ツェツギーは無言の肯定を示す。
前髪の裏ではきっと顰めっ面を浮かべているのだろう。
ふう、と軽く溜息をつきながらフェアーは手に持っていた魔術書の頁をぱらぱらと捲った。

指で机の上に円を描く。
眩い光が指の動きを追うが、すぐに消えてしまう。

今度は大きく溜息をつき苛立たしく本を閉じ机に置くと、
空いている手で煙草とマッチを手繰り寄せ。
慣れた手つきでマッチを擦り、口に咥えた煙草に火を点けた。

「うまくいかねぇな。」

紫煙を吐きながら前髪をかきあげる。
深い海色の目が、つまらなそうに机の上を泳いでいる。

「何してたの？」
「召喚術。書斎漁ってたら珍しいものを見つけたんでな。」
「どれ？…ふーん、これ、僕見たことない文字かも。」

ユエはゆるりとした動きでツェツギーの傍に寄り、机に置かれた魔術書を手に取り開く。
ツェツギーはどうでもよさそうに、煙草の灰を灰皿に落とした。

「多分古いものなんだろう。人間よりは魔族のものに近いような気はするけど。」

ユエはしばらくの間眉間に皺を寄せ本を睨んでいたが、本を開いたまま机に置くと、
先ほどツェツギーがしたように机の上に指を滑らす。

指を追う燐光が円に少しの線が入った簡単な図形の軌跡を描いた。
魔法陣とよぶのもなのだろうかそれは、淡く光を放っている。

「できたけど。これで完成だよね。後は呼ぶだけだと思うけど、肝心の呪文が読めないや」
「書いてあったとおりにやったつもりなんだけどなー。」
「は？君のは只の魔力の垂れ流し。あんたもあいつもだけど、
　どんなに魔力量が多くたって制御できなきゃ意味ないんだよ。」

ツェツギーはぼんやりと机の上の魔法陣を見ている。

「そういうもんか」
「そうだよ。少しは魔力の扱い方くらい身につけたら？」

「んー。」

上を向いて煙を吐きながら、気のない返事を返した。

「気が向いたら。」
「気を向かせる気ないでしょ」
「…………………」

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Summon Michael。

付け焼刃で覚えた召喚術だったけど、どうやら成功したようだ。

どさくさにまぎれて肉降らしの方法も知ってしまったが、
使うかどうかは迷いどころだな。