ENo.3016 滝宮姉弟

大雀「倒すとか倒さないとか、なんなのよ貴方ッ！！」

リタ「・・・。」

ハネズ「お怪我はありませんか？」

スオウ「・・・参ったな、他のメンバーと逸れてしまうとは。」

襲ってきた大雀は撃退できましたが、私達もリタさんも本隊から逸れてしまったようです。

仕方がないので、しばらくは共同でこの森林山岳地帯を踏破する事になりました。

お互い逸れた場合の待ち合わせ場所は近かったようですし、ね。

今は安全に通過する事だけを考えましょう。

・・・・・

ハネズ「洗濯も終えましたし、リタさんの為に新しい香水の調合でも・・・あらん？」

あそこにいるのは・・・スオウとレディカさん？

ハネズ「（少しだけ・・・ここから様子を見てみましょうかね？）」

気づかれてないみたいなので、こっそりとっ。

スオウ「寂しい？」

レディカ「こんな事、急に言われても困りますよね。」

スオウ「・・・困りはしないが、理由を知りたいな。」

レディカ「スオウさんに救出されて、優しい皆さんに囲まれて、毎日がとっても賑やかです。少し怖いですけど。」

スオウ「ふむ。」

レディカ「でも、何か・・・違うんです。足りないんです。満たされないんです！寂しいんですッ！」

ハネズ「（・・・！）」

レディカ「スオウさんにもっと会いたい、もっと話したい、もっと一緒にいたい！そんな欲求を、あたし、抑えられなくなりそうなんです。」

スオウ「・・・。」

れ、レディカさん・・・勝負に出るおつもりですの？

そして、スオウはどう返答するのでしょうか。

スオウ「・・・なぜ。」

レディカ「ひっ。」

スオウ「もっと早く言わなかったんだ？俺にだって暇な時間くらいはあるさ。」

レディカ「え・・・？で、でも、それって迷惑じゃ・・・。」

スオウ「レディカは迷惑をかける前提で俺に話しかけるのか？違うだろう？」

レディカ「とっ、当然です！」

スオウ「ならば、気兼ねなく堂々と来ればいいさ。訓練や作業の邪魔をするわけじゃないなら何も問題はない。」

レディカ「もちろん！スオウさんの邪魔なんてしませんっ！」

スオウ「そういうことだ。悩むほどの事じゃなかっただろう？今はこれから訓練だ、あとでまた会おうか。」

レディカ「えへへ・・・はいっ。訓練頑張って下さいね！」

スオウ「ああ、またな。」

・・・私は何してるんでしょうかね。

レディカさんもスオウも、前に進もうと努力してるのに。

こうして物陰から覗いてモヤモヤしてばっかりで。

私は―――。

ラオ「よっ！慕われてるじゃない、色男さんよ。」

スオウ「・・・ラオか。何か用か？」

ハネズ「（・・・ここでラオ！？）」

ラオ「早くヤるところまでヤってやんなよ。彼女、寂しがってんじゃん。チャンスだろ？」

スオウ「・・・？意味がわからんが、これから訓練なんだ。邪魔をしないでいただきたいな。」

ラオ「ああ？もしかしてスオウってチェリーなの？オレ、難しい事言っちゃった？」

スオウ「そんなに訓練を邪魔したいのか？二度は言わせるなよ。」

ラオ「そこで怒るとか、マジドーテーちゃんか。悪ぃな。」

スオウ「この際に言っておくが、俺はラオを認めたつもりはない。今でもドネスクに置いて来るべきだったと思っているくらいだ。」

ラオ「なははっ、ハーレム侵害されて怒ってる系？男の嫉妬は醜いぜ？」

スオウ「嫉妬だかなんだか知らないが、そんな事はどうでもいい。理由はただ一つ、貴様を信用できん。それだけだ。」

ラオ「ハッ！別にスオウに信用されようとは思ってねーよ。男に媚びて何の意味がある。」

ハネズ「（えっ、えっ、何この空気！？）」

私は純粋にラオの戦力だけが欲しかったのですがね・・・。

もし何かあってもラオならどうとでもなる、そんな考えは甘かったのでしょうか？

スオウ「いいだろう、個人個人の信条や考えは尊重したい。」

ラオ「へぇ？」

スオウ「だが、まだ貴様は普段から本気を出してるように見えん。全力で戦う覚悟がないなら、ここから抜けて貰おう。」

ラオ「ふーん、嫌だと言ったら？」

スオウ「今、この『訓練』で全力を出して見せて貰おうかッ！」

ヒュンッ

ラオ「おっと。男がヒステリー起こしてんじゃねぇよ。」

スオウ「・・・避けたか。」

ラオ「ハネちゃんの陰でチャクラム投げてるだけの奴に、えらそーに戦闘を語られたくねーな。」

スオウ「姉の事を気安く呼ばないでもらいたいなッ！」

ヒュッ　　キンッ

ヒュッ　　キンッ

ヒュッ　　キンッ

ラオ「・・・ったく。」

スオウ「この程度では相殺されるか。伊達に野戦経験がないわけではないようだな。」

ラオ「いずれは限界が見える訓練をして何になる？それでも、より強い奴に潰されるだけだろ？」

スオウ「そういうセリフは限界を迎えた奴が言うべきだ。それとも、ずっとハネズにすら勝てない男として過ごす気か？」

ラオ「力がある側の言い分だね。蟻がどこまで鍛えても象にゃ逆立ちしても勝てねーんだよ！」

スオウ「・・・蟻だと？貴様もダークエルフなら、己を誇ってみろ！」

ラオ「故郷も親も知らないオレに、ダークエルフの何を誇れってんだよ！結局、テメェも自分の理想と常識を押し付けてるだけだろうがッ！」

ヒュンッ　　ザクッ

ヒュオッ　　ドゴッ

スオウ「くっ・・・足に直撃したか。」

ラオ「あー、被弾しちまった。」

スオウ「・・・ならば問おう、ラオは故郷と親を探す努力はしたのか？努力を重ねた上で限界を知って諦めたのか？」

ラオ「見ての通りだ、これが限界だ。こんな実力で何が出来るってんだよ。」

スオウ「限界？それがか？まだまだ動きも甘い、無駄も多い、伸び代はまだまだあるだろうが。」

ラオ「だいたいな、親も姉もいるテメェに天涯孤独の何を理解できるかってんだよ。ああ？」

スオウ「・・・俺が天涯孤独じゃないと思っていたのか？」

ラオ「ははっ、何言ってんだ？ハネちゃんが姉じゃないとでも言うつもりかよ？」

スオウ「ああ、そうだ。元々ハネズとは姉でもなんでもない。そして、俺は生まれた時から荒野で天涯孤独の身だった。」

ラオ「な・・・どういう事だよ！？」

スオウ「今でこそ『人間』の姉弟だが、元々俺はリビングシェイド（生きた影）で、ハネズはリビングドール（生きた人形）だった。生まれも育ちもまったく別の、な。」

ラオ「ハネちゃんがリビングドールだったって、冗談・・・だろ？」

スオウ「信じられないなら、姉に直接訊いてみるといい。同じ回答が得られるはずだ。」

ラオ「・・・・・・ふぅん。それで、スオウは。」

スオウ「ん？」

ラオ「天涯孤独の身からどれだけ努力を重ねたっつーんだ？説教できるくらいには努力したんだろーな？」

スオウ「少なくとも、俺も姉も仮初の命という限界を超え、こうして生身の人間に生まれ変わった。それを努力と呼ばないのなら、努力はしていないな。」

ラオ「・・・・・・。」

スオウ「この回答では不満かな？」

ラオ「興醒めだ。ハネちゃんに事実を確認したら、その努力とやらを詳しくオレに教えろ。」

ハネズ「（・・・。）」

スオウ「構わんよ。明日もこの時間に俺は訓練している。」

ラオ「もし嘘だったら全力でテメェを追い出すからな！」

スオウ「ふふ・・・では、俺とラオの今日の『訓練』はこれで終わろうか。」

ラオ「・・・フン。」

・・・男ってよくわかりませんのよ。

あれが男の友情の始まりってものなのですかね？

にしても、スオウも男にも女にも、言うようになりましたのね。

ラオ「ハネちゃーん？どこかなー？」

ハネズ「（はっ！？事実確認をされるんでした！？）」