ENo.1684 エルシア=アルトシア

アップルさんとの依頼を果たした帰り道、シアことエルシア=アルトシアはパーティーメンバーのアリシア・ウールに呼び止められた。
「あのぅ…いつか言おうと思ってたんですけど…。」
頬を赤らめて、伏し目がちに言いかけてはためらうアリシアの姿にシアが妙な緊張感を覚えたのも無理はない。
「ん？何？」
努めて明るく振舞うシアに対しもじもじと恥じらいながら告げたアリシアの要求はシアを十分に赤面させるものであった。

スティルフの街のとある宿屋。
冒険者たちの憩いの大衆宿屋として繁盛するその客室の一角に、何やら怪しげな後ろ姿が一つ。
その見慣れた後ろ姿を見つけた盛岡鈴菜は陽気に声をかけた。
「あれ〜？未来ちゃん何してるの〜？」
呼びかけられたのは八月一日　未来。銀色の髪をさらりと揺らして振り向いた未来は形のいい唇に指を当て、音を立てないようにとジェスチャーしながら鈴菜を手招いた。
「何々？どうしたの？」
内緒ごとの気配を感じた鈴菜も声を潜めて未来の傍に身を寄せる。同じ銀色の髪と緋色の瞳を持つ少女達ではあるがその印象は極めて対照的だ。未来は密やかなミステリアスな雰囲気を漂わせるが鈴菜は朗らかで陽気で快活、そんな二人だが不思議と馬が合うのか自然と一緒にいることが多い。
「あのね、ここアリシアちゃんの部屋なんだけど…」
そう言って扉に耳を当てる未来につられて鈴菜も扉に耳を当てる。
二人の耳に飛び込んできたのは(少なくとも見た目的には)パーティー最年少二人組の密やかな笑い声だった。

「…っちょ…そこ…くすぐったぃ…」
「くすくす…ゴメンなさい…でも気持ちよくって…」
「あ…そこは…ボクも気持いいかも…」

扉越しから途切れとぎれに聞こえてくる睦まじく交わされている言葉に思わず二人は顔を見合わせた。
「えー!?これってシアちゃんとアリシアちゃんだよね？え？二人で何してるの？」
「わからないからこーやって聞き耳を立ててですね…」
こそこそと囁き合う二人の背後から鋭い誰何の声が上がる。
「盗み聞きとは感心しませんぞ、二人共。」
ビクッと体を震わせた二人が恐る恐る振り向くと、そこには案の定パーティーの重鎮ユーキ・ヒロが眉を顰め顎鬚を撫でながら二人を見下ろすように立っていた。
「いや、あの…これには訳があってね…」
しどろもどろに説明する鈴菜だったが、未来は強引にヒロの腕を引いて同じように扉に耳を当てるように促した。
「未来殿、一体何事か…」
「いいから、聞いてみて！」
未来の小さくも鋭い声に、ヒロも慌てて扉に耳を傍立てる。

「でもシアさんのここ…意外と敏感なんですね」
「うぅ…やめてぇ…けっこう…恥ずかしいんだよ…」
「ふふ…可愛いですぅ…」

扉の向こうから聞こえてきたその会話にヒロが真っ赤になって口をパクパク開閉している様子を見て、先導した二人はニヤニヤと意地の悪い笑を浮かべた。
「こ…こ…これは一体…」
思わずつられてひそひそ声になるヒロに未来が小首をかしげながら答える。
「私もですねーよくわからないんですよ。アリシアちゃんと魔法のことでお話しようと思って部屋に来てみたらこんな声が聞こえてきた訳で…」
「てゆーかシアちゃんとアリシアちゃんいつからそんな関係になってたの？」
「そんな関係って…いやいや、いやいやいや！お父さんは認めませぬぞ!!」
混乱からわけのわからない事を言い出したヒロを放っておいて少女二人はまた扉に耳を寄せた。結局好奇心に負けてヒロも扉に耳を当てた…その時。

突然扉が内側に開き、三人は重ね合うように部屋の中に転がり込んだ。
「何をしてるんですか？」
そう、三人に冷めた声を放ったのは扉を開け放ったY.A.T.A.H.だった。
「扉の外に三人が来ていたことは知覚していましたが何時までたっても入室しないので扉を開放しました。こちらに用事ではないのですか？」
Y.A.T.A.H.の問いにどう答えようかと視線を巡らせた三人の目に映ったのは。
ベッドの上でくつろぐシアとその九本もあるフサフサな尻尾を抱きしめて心ゆくまでモフモフしているアリシアの姿だった。

アップルさんとの依頼を果たした帰り道、あの時、アリシアはシアにこんな要求を告げたのだ。
「しっぽもふもふさせてください・・・・！！！」
もちろんシアは快諾した。女の子に身体の一部を触れられる照れはあったが、それでも親しみを込めて触れられるというのはやはり嬉しいものであるから。

「で、鈴菜たちは扉の外で何を期待していたのかな？」
シアのやや冷たい視線に乾いた半笑いを浮かべる年長組3人。そしてそんな様子を意味が分からずキョトンと眺めるY.A.T.A.H.とアリシアであった。

登場キャラクター
ENo.1155 アリシア・ウール
ENo.1684 エルシア=アルトシア
ENo.1891 ユーキ・ヒロ
ENo.2274 八月一日　未来
ENo.2704 Y.A.T.A.H.
ENo.2766 盛岡鈴菜