ENo.1337 コルト・イサキリ

動きを思い返す。
それは、傍らに居た少女の太刀筋。

「……武者修行が目的だったからなぁ」

最近はその目的が薄れてきてしまったと思う。
というのもこの世界に着た理由が完全に不時着みたいなものだからだろうけれど。
加えてこの世界に着てから料理する頻度が高くなったので、そっちの腕も成長したせいもありそうな気がする。
僕が目指すのは料理人じゃないんだけどなぁ。

「や、何か目指したいものがあるかと聞かれたら答えられないんだけどね」

家を継ぐ……もう姉さんが継いでる。
武士として戦争に参加して統一を目指す……面倒くさい。利益が無い。
旅を続ける……目指すものが無い。
見事に将来の設計図が一切見えていない状態だ。
それでも、自分の力を高めないといけないのは理解できる。
旅の最中、僕よりも強い人はとても多く。
そのような人たちでも、力不足で嘆いていることが多かったのだから。
僕が誰かを護り、そして家族と友と交わした再会の約束を守るためには現状では力が足りない。
というわけで、今の行動に繋がる。
つまるところ、今は月子さんの技を自分流に会得しようとしているわけである。

「とはいえ、完全にってわけには行かないんだけどね。僕と月子さんじゃそれこそ筋肉の質と量、そして体格が違うからね」

言いながら、月子さんの動きを模倣。
その技の利用状況と運用状況、及び技の名前からそれがどういう目的で作られた技かを理解する。
動作を模倣することでどのような仕組みで、どのような性質の力が関わっているのかを理解する。
ちなみに後者の時点で魔法関係が関わっていると、再現度は底辺に落ちる。
魔道具の力を借りることで、光だとか聖属性の力は扱えるものの、それ以外の属性だとか呪術だとか別系統になってくるとお手上げだ。
使えないなりに知識があればいいんだけれども、そこらへんをすべて兄弟に任せてしまったため漠然とした知識しかない。
……いやだって、世界によって魔法の扱いが大幅に様変わりするから覚えてられないんだよ。

「ふむ、流石にあの力は出せないか。出したら僕の場合筋肉の質の違いから傷める危険があるか……」

ちなみに今習得しようとしているのが月子さんの「秘太刀【竜骨斬】」である。
それを今現在は自分流にアレンジを施している。
具体的には、一回目の振り下ろして相手の皮膚あるいは装甲を壊し、二回目の振り下ろしを飛び上がりながら同箇所に叩きつける。
二回目は足りない威力を自分の体重で補うような形になるので威力はいいのだが、後の隙がいかんともしがたいので実際に使用する場合は考えなくてはいけないだろう。

「……うん、これは難しいな」

腕とかだと同箇所に叩き込むのが至難の業になってしまいそうだった。
というわけで、龍頭斬と命名。
名前負けしないように気をつけなければならないと、心底思う。
元々真っ当な剣士ではないために、精度は甘くなってしまいがちなのではあるが、努力しないよりはいいだろう。

「あとは魔道具の使用を絡めた技術か……」

そしてこれが難点のもう一つ。
今もって居る魔道具……一応ここでは魔力を込めることで力を発揮する道具としているが、今もっているものをフル活用しなくてはならない。
だが、いかんせん僕は魔法とか呪いだとかを自分で扱う素質が欠片もない。
今扱えているものも、兄弟の力がこもった癒しの魔道具だとか、聖水だとかを短剣に塗りつけたりとかで対応した結果である。
とまあ、そんな感じのためいまいち活用方法が思いつかない。

「……貰っておいてもうしわけないなー」

異世界の友に心の中で謝っておく。
ごめん。
一応、フローズンティアと呼ばれる武器を操作できる腕輪を使った大技はある。
だけども使用条件が限定されている上、撃てて一回。
操作も上手くできないので条件設定による発動になるため、その条件を見破られたら対処は容易くなってしまうだろう。

「まぁ、無理に使うこともないか」

必要なときに、必要な分使えば良い。
……とは天才肌な姉さんの言葉。
だけど今は疲れている、考えてもまともな答えが出るとは思えないので、その言葉を逃げ道にさせてもらう。

「それにしても、月子さんも雰囲気変わってきたなぁ」

呟いて、考えにふけてみる。
木に寄りかかり、思いを馳せる。
出会った当初は……まぁ、切りかかれたのは別にして戦闘経験のなさそうな女の子だった。
刀持ったときだけ、異様に武者っぽい雰囲気を纏うけれども、それはまるで別人に切り替わっているような変化だった。
だけど、今は違う。
月子さんの雰囲気のままで、刀を振っていた。
それは覚悟をしたということなのか、それとも。

「元々刷り込まれていたのか。否、元々そういう素質があったのか」

戦いの無い世界であれば無用なもの。
だが、この世界に来て開花してしまったもの。
それを人は才能と呼ぶのだろうけれども。

「時に才は災いを招く。……さて、そうならないように僕としては願うしかないのかもしれないなぁ」

このような心配事も、僕がするというのは何か違うのだろう。
何しろ、月子さんのほうが年上であるわけだし。
それでもまぁ、相棒としてその行く末は大変に気になる。

「……とはいえ、何ができるわけでもなし。僕は僕である限り、僕ができることしかできないししないのさっと」

とりあえず、人は変わるものだろうということで結論付けていこう。
だけど、その変化がもしも歪んだものなのだとしたら。

「止めて見せようか。人の心解らぬ僕だけれども」

やらないよりは、マシだろう。