ENo.958 シドー

この世界に来て間もない俺が分かったこと。
それは、瓶の頭…っていうか瓶を枕にすると、ひんやりして気持ちいいということだ。
ただ、硬い上に枕が高すぎてめちゃくちゃ寝づらいのが難点だな。

…と、寝床にした木の影で体を休めていたらいつのまにか寝てしまったようで、起きた時にはすっかり夜も明けていた。首が痛い。
うーん、やっぱ瓶枕は頭を乗せるより、もたれかかったほうがいいか…。
しかし腹が減ったなあ。よく考えたら昨日から飲まず食わずだったし、特にのどの渇きがひどい。
一度、寝ている瓶の水を飲んでみようかとも思ったが、流石にそれはやめといた。そもそもあれが水なのかもわからんしな…。
当の瓶は俺の後ろでゴボゴボと寝息を立てている。そういやこいつはどうやって飯食うんだろうな？

食料は一応街で果物と野菜を調達してるんだが、どれもこれもまずそうだなあ〜……。
だがこの状況じゃ贅沢は言ってらんねーし、命の恵みを無駄にはできんよな。
いただきます、と思い切って果物にかぶりつく。ぐう、なんともいえない味の果汁が口いっぱいに……。
その味に顔を歪ませながらもなるべく舌に当てないよう噛み砕き、一気に胃へ流し込む。この世界に来てはじめての食事、終了。ごちそうさまでした。
前読んだ小説で、主人公がまずい食べ物を無理矢理腹に押し込むシーンがあったが、あいつの食ったもんもこれくらい酷い味だったんだろうなあ…。
まだもの足りないが、食料が簡単に手に入るかもわからんしこれで我慢しとこう。
……味はひどいもんだったが、水分補給も出来たしよしとする。
はぁ、肉や魚が食いてーなぁ……。

俺が果物の後味に口をいがいがさせてると、瓶が目を覚ましてむくりと起き上がった。
おはようと挨拶すると、瓶はやっぱりゴボゴボと返事をする。たぶんおはようと言ってるんだろう。

すると、瓶が俺の荷物を指差しゴボゴボ言ってきた。なんだ？野菜を指差してる？
これが欲しいのか？と訊くと、頭をこくこくと上下させる。もしかして食料がないのか？これには首を横に振る。
瓶はゴボゴボ言いながら身振り手振りで説明している。しかし、申し訳ないがやっぱりよくわからん。こんなことなら読唇術でも勉強しとけばよかったなあ。
んー、もしかしてこれ使って何か作ってくれたりするのか？なんて冗談交じりで訊いてみたら、瓶はこくこくと頷いた。
おお、マジか。料理ができるなんてすげーなあ。これをうまいもんにしてくれるならなんでも大歓迎だ。
瓶は野菜を受け取ると、荷物から包丁、まな板、鍋、各種調味料を取り出した。街で調達したのか？
まず鍋に水を入れ、炎技で火をつけて沸騰させる。野菜は包丁で切り、鍋に入れてさっと茹でる。
そして茹でた野菜を小さな瓶に詰め込んで、水に色んな調味料を混ぜて温めた液を注ぎ、きゅるきゅるとふたを閉めた。
あれはもしかしてピクルスか？俺はすっぱいものが好きだ。すぐに食えないのはちょっと残念だが、楽しみだな。へへへ。

それが終わると、瓶は自分の食事の準備をはじめた。
俺は特にやることもないし、木にもたれかかってのんびりしてよう。

しばらくして瓶も食事を済ませたようで（どうやって食ったかは見逃した）、すくっと立ち上がり俺にゴボゴボ言って来る。
指が遠くを指してるし、あっちに行こうと言ってるのか？
まあ、特に行く当てもないし、こいつの行きたい場所に付いてくのもいいか。
俺が返事をして立ち上がると、瓶はそれに合わせて歩き出した。
よーし、そんじゃ行くかあ！

…と、俺も歩き出そうとしたとき、遠くにいる2匹の生き物が目に入った。
あれは…魚…？と、……なんだ、ありゃ？？
なにがなんだかよくわからんが、俺たちに敵意を向けてることは分かる。ここからでも殺気をムンムン感じるしな。
しかしまーあんな奇妙な魚じゃ食えそうにねーなあ、残念。
瓶も既に気づいてるようで、敵のほうを向いて警戒態勢に入っている。
あんなモンスター共がいるとはここも中々面白そうな世界じゃねーか。へへへ…腕がなるねえ！

さあ、どっからでもかかってこいやァ！！！！