ENo.934 アルシア=フィアス

……ついこの間の事。
ジャックさんに誘われて、
三人で一緒に遊ぶ事になった。
それで、魅月と当日の話をしたところ、
ちょっとした口論……
という程でもないのだが、
基本的に私用で来ていた為でもなく、
そんな事に慣れている訳でもないので、
そこを魅月につかれて色々とレクチャーを受けながら、
更に足りないものを買いに行く事になった。
出すお金も、
荷物持ちも私負担で。
魅月曰く、
授業料との事らしい。
思ったより良心的で安心したけれど、
魅月の分も私持ちというあたり、
ちゃっかりしている。
しかし――
「本当にこんなにいるのかい？」
「え？もちろんというか……
　これくらいは最低限そろえてたらと思うんだけど？
　まぁ、そんなにごてっとした化粧はやりたくないし、
　やるつもりもないけれどね？」
「……いや、まぁ、
　私も少しはもってるけど……
　あんまりやり過ぎると匂いで位置がねぇ。」
「……ああ、そういえば。
　悩ましい所よね。
　貴女にとっては。
　でも、まぁ、こういう時くらいはいいんじゃない？」
「まぁ、ね。
　強い匂いを消す方法はしってるから問題ないんだけど……
　駄目だね。職業病か。」
「……本当に職業病多いわよね。」
「職業が職業だからねぇ……
　仕方ないさ。」
「……男心も一発的中できればいいわね？」
「……嫌味かい？」
苦笑いを浮かべる。
本当に容赦ないというか、
魅月は踏み込んで欲しく無い所でも、
自然と気づいたら踏み込んでいて、
もういう言葉が見つからない。
それが嫌なわけでも、
それを理由に嫌う事も出来ない辺り、
本当に分かっていてやってるから性質が悪い。
そして、性質が悪いのは十分わかっていても、
こちらとしてはやれやれで済ますしかない。
「全く。」
「それより。
　次が本番よ？
　選び終わったら食事にしましょ？」
「ああ、分かったよ。
　で本番ってどこさ？」
「それはね――」
そういって魅月が指さした先。
そこは――
「……確かに本番だ。」
「でしょう？
　これを決めない事には何も始まらないわ。
　貴女はもってるものでいいといっても、
　それじゃダメよ。」
「……全く。」
ともあれ、うちの相方である魅月は凝り性であるらしい。
大人しくついていく。
――向かう先は――

「……どの服着ていくか迷うわね。」
「……まぁ、それは良いんだけど……」
とある街中で、
私と魅月は服を選んでいた。
「なんで私まで付き合わされているのやら……」
「あら？
　今回は私だけじゃなくて貴女も誘われている。
　当然の事だと思うのだけど？」
「……別に私服でいいんじゃないかねぇ？」
「……タンクトップにGパンだなんて、
　流石にシンプル過ぎると思うわ？
　……こんなのはどうかしら？」
そういって、魅月が選んだのは、
真っ白なワンピースに麦わら帽子。
悪くはない。
寧ろ似合っているのだとは思うのだが――
「……あんたが清純な服装っていうのは、
　酷く違和感があるんだけど？」
正直な話、
普段から何か企むような人間がそういう服を着ても、
何か裏がありそうで似合う、
というよりも、
何か威圧感すら感じれる気がした。
「そう？
　まぁ、似合ってない訳じゃないみたいね。
　私はこれにするわ。」
「……正気かい？
　性格とは完全に不一致だと思うんだけど。」
「勿論。
　性格の問題なんて些細な事だもの。」
「そういうならいいんだけどね。
　……どうするかねぇ。
　私は。
　……もういっそ、普段通りの軍服なりスーツの方が。」
「……却下よ。
　というか論外よ。
　……折角のデートを楽しまないでどうするの？」
「……デート、というか、あんたの場合、
　純朴な青年を捕食しようとしてるようにしか、
　私の目には見えないんだけど。」
「あら、そんなつもりはないわ。
　私はいつだって誠実よ。」
「……まぁ、いいけどさ……」
「……仕方ないわね。
　私が選んであげるわ。
　……これなんてどうかしら？」
そういって魅月が差し出してきたのは、
ピンク色の可愛い――
「……何がかなしくてそんなピンクのフリフリを着なきゃならないのか……
　流石に私の年考えて欲しいんだけどねぇ？」
「……ダメかしら？」
「駄目。
　……選ぶなら選ぶでせめて地味なの選んでくれないかい？」
「……どうしても？」
「どうしても。」
「……全く……しょうがないわね。」
「それはこちらの台詞。
　全く……
　油断も隙もないねぇ。」
「ま、じゃあ、４、５着選んであるから、
　一番気に入ったのにしたら？
　これなら多分問題ないと思うから。」
「……最初からそうしてくれれば……全く。」
――幸いにも、
選び直してくれた服に不満なのはなかった。
あんまり男の前で気合の入れた服着るのは気恥ずかしいんだけど、
まぁ、そんな事いってもどうせ許してくれそうにはない。
なら、とことんまで付き合って、
被害を最小限に抑えるしかない。
――全く。
悪くはないが、
彼女には少し手加減して欲しいものだと心の中で嘆息(たんそく)した。

そして当日。
時間かっきりにいけば良いのに、
魅月にひっぱられるように、
時間より前につく。
魅月曰く、
多分、待ち合わせの時刻前に彼は来るだろうから、
それより早くつくのが良いらしい。
……
何が、どうしていいのかは、
聞いても真っ当な答えは帰ってこないだろうけれど。
ともあれ、待つ。
そうすると、
程なく、待ち合わせた青年は姿を現した。
「お待たせしました、早いですね。
　もう少し早くくれば……」
「ああ、いいのよ。気にしないでジャックさん。
　あんまり楽しみだったものだから、
　少し早く来すぎちゃったのよ。」
「――ま、私は魅月にひっぱられてね。
　だから気にする事じゃないよ。
　むしろ待ち合わせ時間の前なんだから、
　十分過ぎるくらいさ。
　数時間遅れてというのもザラにあるわけだしね。」
「そうですか。
　それならいいのですけど……」
そういいながらちょっと困ったように笑顔を浮かべるジャックさん。
それを見て少し嬉しそうにしている魅月をみると、
その様子が見たかったからこうしたとしか思えない。
……なんというか、自分の欲望に忠実というか、
相手の困った顔を見たいがために労力を惜しまない所がある。
別に悪意がある訳でもなく、
ただそうしたいからそうする辺りどうしょうもないし、
どうにもならない。
そんな様子に、私は苦笑を浮かべるしかない。
――その苦笑に気づいたのだろう。
「あ、お二人ともお召し物がいつもと違いますね。
　魅月さんが白のワンピースで、
　アリアさんが青色のドレス、ですか。
　綺麗で似合ってますよ。」
――話題を変えようと、私達の服装を褒める。
「ありがとう。
　そういってもらえて嬉しいわ。」
クスッと微笑んで即座に腕に飛びつく魅月に対し、
私は――
「ああ、いや、似合ってるならいいんだけどね……
　どうにも落ち着かないよ。この服。」
少し照れながら横を向く。
真っ直ぐから服を褒められる事になんてなれてないから、
正面を見据えられない。
らしくないとは思いつつも。
そして、それが見てとれるのだろう、
魅月がこちらをみてニヤリと笑う。
(……１から１００まで仕組まれるって、
きっとこんな状況なんだろうねぇ……)
別に怒りこそはないものの、
少し呆れそうになる。
それにしても……
「ええと、ともあれこんな所で立ち話というのもなんですし、
　もう直お昼になりますから、
　何か食べに行きませんか？」
「そうね、そうしましょうか……。
　お任せしても良い？」
「勿論です。
　アリアさんもそれでいいですか？」
「あ、ああ。勿論。
　……お願いするよ。」
なんというか、
折角なんだから、
細かい事は気にしないで今を楽しむとしよう。
……誘ってくれた彼にも悪いし。

――To Be Continued