ENo.3016 滝宮姉弟

ラオ「なーなー、ハネちゃんさ。」

ハネズ「なんですの？（・・・ハネちゃん？）」

ラオ「俺はここに居ていいのかね？」

ハネズ「あなたが変な気を起こさない限りは安泰だと思いますのよ？」

今は襲ってくる理由もないとは思うのですけどね。

生きるのに必要な最低限の物資は保障していますから。

ラオ「変な気ねー、今は別に食いもんもあるしなー。・・・ここって集団内恋愛禁止だったり？」

ハネズ「べ、別にそういうわけではないですが・・・無理矢理、とかは困りますの。」

ラオ「へー。じゃ、ここの娘は誰でも正式に口説き落としゃ何してもOKってか。」

ハネズ「下衆で邪な考えから恋愛に入るのは感心できませんね。」

ラオ「そーか？どんな男にも建前はあるだろうけど、どれだけ奇麗事を並べていても男の大半の本心はそんなもんだと思うぜ？」

ハネズ「・・・あなたの『故郷』はそういうところでしたの？」

ラオ「故郷？あー、故郷とかよく知らないんだわ。俺。」

ハネズ「知らない？」

ラオ「へへっ、物心ついた時にはアンジニティのど真ん中、ってな！ダークエルフっつーのは元々魔力は高いみてーなんで、野良蒲焼を襲って食い繋いでたもんだ。」

ハネズ「ああ、あの蒲焼・・・ですか。」

ラオ「けどよ、自分の実力の限界っつーの？そーゆーのって戦ってるとわかってきちゃうんだな、これが。だから見た目が弱そーなヤツを襲うしかなかったってワケ。」

ハネズ「・・・弱そうで悪かったですね。」

ラオ「外見詐欺っつーの？インドアっぽい見た目のハネちゃんにはやられたよ・・・。」

ハネズ「けれど、早かれ遅かれいつかはこうなったのではないですか？」

ラオ「かも、な。この世界じゃ実力だけが正義。それが足りない俺にゃきつい世界だよ。だからこそ、いつ死んでも後悔しないくらい好き放題してたんだがなっ！」

ハネズ「好き放題・・・恋愛も好き放題してましたの？」

ラオ「まさか。こんな世界で男も女も信用できるかよ。つっても、返り討ちにした女賊は何度か好きにヤらせてもらったけどな？」

ハネズ「最低ですのね。」

ラオ「何とでも言うがいいさ。いつ死ぬかわかんねー世界で道徳もクソねーよ。・・・っと、レディの前でいう言葉じゃなかったかな？」

ハネズ「手遅れですの。」

ラオ「で、ハネちゃんはどーよ？色々えらそーだけど、男の経験ほとんどないんじゃねーの？」

ハネズ「ほえ？」

バサッ

んん？軽く押し倒されましたのね？

・・・抵抗できるくらいには手加減しているようですが。

ハネズ「あらん、この状況で押し倒せるなんていい度胸ですのね？」

ラオ「あー・・・最近の娘はコエーな。その歳のそんな格好でも男の経験ありかよ。」

スッ

何もせず開放してくれましたね・・・私、試されたのでしょうか？

ハネズ「どういうことです？」

ラオ「落ち着きすぎなんだよ、マジ。いくら度胸があっても経験がなきゃそんな表情（カオ）と反応はできねーってな。」

・・・まぁ『前世』は経験ありますけど。

そうでなきゃエミーも生まれてませんしね。

ラオ「んで、その下着が決定打だ。黒でその装飾は、なぁ？」

ハネズ「はっ！？み、見ましたの！？」

ラオ「不可抗力だ、許せ。」

ハネズ「許しません♪」

パーン

ラオ「おぉぅ・・・いい平手打ちだ。」

ハネズ「相手が私だったからそれで許しますが、他の子に同じ事を試したら本気で追い出しますのよ？」

ラオ「ご忠告どーも、肝に銘じておくよ。」

ハネズ「郷に入っては郷に従え、最低限の礼節くらいは弁えてもらわなければ困りますからね。」

ラオ「手厳しいな、ハネちゃん。」

ハネズ「これがスオウだったら全力でチャクラムを投げてる所ですのよ？」

ラオ「あー、はいはい。優しいね、ハネちゃん。」

・・・野盗暮らしが長かったせいで、私達との常識が少し剥離してますかね。

レディカさんとは違うベクトルで厄介な雰囲気です。

・・・・・

スオウ「ハネズ、防具はこんなところで良いか？」

ハネズ「そうですね、リタさんへの依頼の品はそれで良いでしょう。」

レディカ「リタさん？どちら様です、その人？」

スオウ「いつも取引でお世話になってる人だ。これからハネズと共に待ち合わせの場所へ向かう。」

ハネズ「ではレディカさんも一緒に行きましょうか。留守番も退屈でしょうし。」

スオウ「ならばラオも一緒に連れていこう。女二人のところに野放しにしておくのも不安だ。」

ラオ「信用ないのね、俺。」

レディカ「（留守番よりマシだけど、このラオって人と一緒なのも怖いんですけどー！）」

ハネズ「準備は良いです？これから東部の森林へ向かいますのよ。」

レディカ「え、森林？そんなところまで行くんですか？」

スオウ「これから東部の山脈も越えなければならないからな。ついでに人気の少ないところで取引も終えてしまう事にする。」

ラオ「どこに危ねーヤツがいるかわかんねーもんな！」

スオウ「・・・お前が言うな。」

・・・ラオも元々は賊のようなものでしたからね。

スオウが心配するのもわかりますが。

・・・・・

ハネズ「リタさん、いつも付加を代行していただいて助かってますのよ。」

スオウ「ああ、あとそちらの同行者のエトさんにも、な。」

リタ「そう・・・ワタシも助かってるから、お互い様かしら。」

レディカ「（エトさん・・・って、先日スオウさんにチョコをあげてた子の同行者じゃないですかー！しかもまた女性とかっ！）」

ハネズ「はい、これでOKです。ありがとうございます。そして、こちらが依頼の防具ですの。」

慣れた手つきで一瞬で付加を終えてしまいましたのよ。

さすがに防具を一つ作るのよりは手間はかかりませんが、それでも早いものです。

さて、あとはレニーさんとクロネさんと合流して―――。

スオウ「・・・何かおかしい、変な気配がする。」

ハネズ「気配、ですか？」

レディカ「あたしは何も感じませんけど・・・。」

・・・最近、私も鈍りましたかね？

昔ならば、こういう気配は真っ先に気づけたはずなのですが。

リタ「・・・羽音？」

スオウ「上かッ！」

？？「あたいの囀りを堪能すればいいわ。」

ハネズ「あれは・・・大雀！」

ラオ「大雀？」

大雀・・・巨体を活かした声量で広範囲に音波という名の衝撃波を飛ばす厄介な生物ですの。

レニーさんとクロネさんの全員がいれば迎撃も容易なのですが・・・。

スオウ「厄介な・・・逃げるか？」

ハネズ「あの囀りは広範囲に影響が及びますのよ。しかも、頭上から襲われたら逃げ場は皆無ですの。」

ラオ「んじゃ、やるしかねーだろ。な？」

スオウ「・・・だ、そうだ。リタさんはどうする？」

リタ「今は・・・5対1の状況を生かすべきね。」

ハネズ「ここは凶悪な生物が棲息する森林地帯、単独行動は危険ですからね。賢明な判断ですのよ。」

下手に逃げ回っているうちに別の生物と鉢合わせする、なんて事もあり得ますからね。

倒せる状況ならば倒してしまうのが上策でしょう。

スオウ「ハネズ、奴の生態は？」

ハネズ「この世界の文献はそこまで触れていませんが・・・『大雀は癒しの歌を囀る』と見た記憶はありますの。」

リタ「なら、回復よりも大きな痛手を負わせればいい。」

スオウ「そうだな、全員が全力で叩き潰すのが最善の策のようだ。」

ハネズ「では行きましょうか、リタさんは巻き込んでしまってごめんなさい。」

リタ「いいのよ・・・対空戦闘の練習に丁度良いわね。」

スオウ「いくぞッ！」

ラオ「守るレディが増えたなら全力じゃないとなぁッ！」

レディカ「あ、あたしだって頑張りますよっ！」

大雀「いい目をしてるわね。」